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三十三話「魔王ミーヌス」*
しおりを挟む数々の試練を乗り越え、ぼくらはついに魔王城にたどり着いた!
「光線(レヨン)!」
「光の刃!」
「光の槍!」
「光の矢!」
勇者様が光魔法を連続でぶっ放す。
「「魔法(ツァウバー)プルス!」」
ザコ敵をサクサク倒し、罠を華麗に回避し、レアアイテムはしっかり回収し、あっさり玉座の間に到達したぼくたちは、魔王ミーヌスをフルボッコにしている。
ゲーム「紫の髪の勇者世界を救う」は勇者様の一人旅。敵のレベルもそれに合わせて設定されている。
魔王城のモンスターといえど、は〇れメ〇ル的なモンスターを狩りまくり、レベルMAXになったぼくら四人の敵ではない。
それでも魔王には勇者様の光魔法と、勇者様しか装備できない聖剣による打撃攻撃しか通らない。
打撃攻撃より魔法攻撃の方がダメージを与えられるが、魔法力の消耗の激しい光魔法を連続で放つ事は出来ない。
打撃と魔法で魔王のHPを削りつつ、回復魔法を時々唱え、長期戦で倒すしかないのだ。
ゆっくり倒すのが面倒なので「魔法(ツァウバー)プルス!」の魔法でぼくとリュミエールの魔法力を勇者様に譲渡した。三人分の魔法力があれば、光魔法だけで魔王をサクッと倒せる。
魔王は五回に一回大技を繰り出すので、勇者様の「|光の盾(リュミエールブクリエ)」の魔法と防御で防ぐ。
フリード様は回復魔法でぼくたちの補助に回る。
敵の技も攻撃パターンも弱点も全部知っているので、戦いはぼくたちの勝利であっさり幕を閉じた。
一人の敵を四人がかりでボコボコにしたので、ここまでくるといじめに近い。いや戦隊ヒーローだって同じようなことをしているので、これは断じていじめではないと自分に言い聞かせる。
勇者様の光魔法の名前に婚約者(リュミエール)の名前がついているのに若干引いたが、勝ったのでよしとしよう。(ゲームでの呪文は「光の矢」だった)
「お主はいつもそうだ、お主が見たいと言ったから……我は」
虫の息の魔王ミーヌスが何かを呟いている。あっ言い忘れたが、魔王は黒髪ロン毛、黒のロングコートの長身のイケメンだ。
勇者様に倒されたあと魔王が独り言を呟くのはゲームの通りだが、セリフが違うな。
確かゲームでは「こんなことになるのなら、孤児院を壊すだけでなく、孤児院の人間を皆殺しにするべきだった」と呟いていたはず?
勇者様に聖剣で斬られて完全に消滅するんだけど、勇者様はリュミエールとディープキスしているので聞いてない。
魔王の最後の言葉ぐらい勇者として聞いてやってくれ。
「お主……!」
魔王が指差したのは勇者様ではなく、ぼくだった。
「えっ? ぼく?」
混乱するぼくの前に、フリード様が庇うように立つ。
「お主が、破壊神を見たいと言うから我は……!」
魔王がボロボロと涙をこぼす。
えっ? またぼくなんかやらかした?
「どういう事だ?」
フリード様が魔王に問う。
「幼い頃、我がフォルモーントの城に行った時の事だ、忘れたのか!」
魔王ってフォルモーント城に来た事があったんだ。
「ごめん、覚えてない」
ぼくは素直に謝る。
「幼い我が庭で絵を描いておったら、お主が現れた」
幼い頃のぼくはフォルモーント城で魔王と会ってたのか。衝撃の事実。
「我の描いた破壊神|最悪(シュリンムスト・)|な闇(ファンスターニス)の絵を見て、『すご~~い! かっこいい!!』と目を輝かせて言ったのだ!」
頭を金づちで殴られたような衝撃を受ける。なんて事を言ったんだ幼い頃のぼく!
「絵を褒められたのは初めてだったから嬉しくて、『本物を見たいか?』と尋ねたら『見たい! 見たい! 本物を見せてくれたらぼくの愛人にしてあげる!』お主が目をキラキラさせて言ったのだ! だから我は頑張って破壊神を復活させようと今日まで努力してきたのだ!!」
ゴーーーーン……!!
除夜の鐘をつく時の棒で頭を打たれた気分だ。
幼い頃のぼく完全にやらかしている。
フリード様だけでなく、魔王にも愛人契約を持ちかけていたのか。
フリード様がぼくの腰に手を回す。フリード様の横顔はいつもと変わらずクールだけど、よく見ると額に青筋が立っていた。
怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。
「残念だがラインハルトは私の配偶者だ! 愛人を持つ気はない! 諦めろ!」
ぼくたちいつ結婚したっけ?
まあいいかフリード様が言うならぼくたちは夫婦なんだろ。
「えっと、幼い頃とは言え変なこと言ってごめん。ぼくは破壊神も見たくないし、愛人を持つ気もないから、これ以上悪いことをするのは止めてくれ」
ぼくの言葉に魔王は泣きながら消えて言った。
とにかくこれでゲームクリアだ。
ゲームの内容とは少し違うけど、魔王を倒し破壊神の復活を阻止したんだからよしとしよう。
これからはフリード様と一緒に平和な国を築いて行くんだ。
その前に魔王に愛人契約を持ちかけたことがフリード様にバレたから(ぼくの記憶にはないが)、今晩フリード様にいっぱいお仕置きされそうだな。
◇◇◇◇◇
次回、最終話!
光魔法のみフランス語、他の魔法は全てドイツ語です。
「魔法(ツァウバー)プルス」ではなく、本当は「魔法力譲渡」という呪文にしたかったのですが、「魔法力」と「譲渡」のドイツ語読みが分からなかったのです。
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