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二十三話「人を驚かす」
しおりを挟むばくたちは真っすぐに玉座の間へと向かった。
「玉座の間には殿下であってもお通しする事はできません!」
という兵士をフリード公子が実力行使で黙らせる。
「かの者に安らぎを与えよ、|眠り(シュラール)」
フリード公子が唱えると、兵士はその場に崩れ落ち深い眠りについた。
兵士には申し訳ないが、少しの間眠っていてもらおう。
「フリード公子、関所や城門もこの手で通ってもよかったのでは?」
「正攻法で通ることに意味があったのですよ、殿下」
フリード公子がニコリと笑う。
「玉座への出入りをここまで固く禁じるということは、私が会いたかった人間が勢揃いしているようですね」
ぼくはコクリとうなずく。
「王都へフリード公子が入ったという知らせを受けて集まったのでしょうか?」
父上になにを吹き込んでいるのか、なんとなく想像がつく。フリード公子がぼくの言葉に同意する。
「敵が一堂に介しているなら好都合です。もっとも向こうは私に会いたくないでしょうが」
フリード公子が口角を上げる。英明で凛々しい顔にぼくの胸がドクンと音を立てる。
フリード公子の自信に満ちた態度、悪を憎む真っすぐな瞳、凜とした横顔、全部好きだ。ゲームの推しキャラとしてじゃなく、いま目の前にいるフリード公子が好きだ。
「行きますよ殿下」
「はい」
フリード公子に差し出された手を強く握りしめた。
◇◇◇◇◇
「陛下、モーントズィッヒェル公爵家のフリード公子が王都へ続く関所で大暴れし、警備に当たっていた兵数名にけがをおわせました!」
「陛下、フリード公子の悪しきうわさは私も聞きおよんでおります。どうかこれを機にフリード公子の廃嫡を!」
「いや、しかし兄に……インゲルベアド公爵になんの相談もなくそのような大事を決める訳には……」
「フリード公子はインゲルベアド公爵が病弱なのをよいことに領地で好き勝手しているとか」
「わたくしもそのうわさを聞きおよんでおります。王族の誕生祝いにも国の式典にも出席しないのは後ろめたい事のある証」
「いやしかし……」
「「「「「ご英断断ください陛下!!」」」」」
重臣たちが父上に詰めより、フリード公子の身分の剥奪を願っていた。
「ずいぶんとにぎやかですね」
フリード公子の精悍な声が玉座の間に響く。
「フリード公子なぜここに!?」
皆の目がフリード公子に注がれる。
玉座の間にいたのは父上と五人の貴族たち。誕生祝いの席などで見たことがある。ブルノンの罪の軽減と釈放を訴えていたのも彼らだ。
フリード公子が王都の関所を通過した情報は得ていたが、城門を越えた知らせは受けていなかったのだろ。
突然現れたフリード公子を見て、みな驚きを隠せないようだ。目を白黒させてる奴もいた。
「おおっ、フリード公子よくぞ参られた」
父上だけはフリード公子を見て、嬉しそうに目を細めた。
「ぼくがお連れしました、父上」
「おおっそうかラインハルトがフリード公子を呼んだのか」
ぼくはフリード公子と手を繋いだまま玉座に座る父上の目の前まで歩いた。
「陛下ごぶさたしております」
フリード公子が膝を付きうやうやしく頭を下げた。
「フリード公子しばらく見ないうちに大きくなったな、インゲルベアド公爵の具合はどうだ」
「病気もすっかり治り、元気に過ごしております」
フリード公子がニコリとほほ笑む。
「そうかそうか、兄上は息災か」
父上もフリード公子の顔を見てニコニコと笑う。
「陛下、騙されてはいけません」
「インゲルベアド公爵が息災ならなぜ王都に来ないのですか?」
「フリード公子が病弱なインゲルベアド公爵を軟禁し、領地を私物化し民をないがしろにしていることは明白!」
「そ、そうなのか?」
父上がフリード公子と奸臣の顔を見比べ、困ったように眉を下げる。
ぼくはこの国が荒廃した理由がよく分かった。父上は人がいいだけで人の嘘を見抜く力も、自分の意見を押し通す力もない。暗君なのだ。
「インゲルベアド公爵が達者なのは間違いありません。ぼくが直接お会いして確かめました」
「それは誠かラインハルト?」
「はい、父上」
ぼくの言葉に父上が顔を輝かせる。
父上は何でも顔に出てしまう。こういうところも奸臣に付け入る隙を与えているんだろうな。悪い人ではないんだけど、壊滅的に王に向いてない。
「殿下はフリード公子にたぶらかされているのです」
「そうです。インゲルベアド公爵が健康ならなぜ城に来ないのですか?」
「息災でありながら陛下の誕生を祝う席にも、建国を祝う祝典にも姿を見せないのであれば、これは立派な謀反です」
奸臣の言葉に父上がまた顔を曇らせる。父上、思ったことが顔に出すぎです。
ぼくは奸臣をねめつけた。
◇◇◇◇◇◇
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