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二十二話「ひとたび鳴けば」
しおりを挟む馬車は城の正門に着いた。ここは王都の関所とは違い、ちょっと脅しただけでは通してくれない。
「お止まりください! モーントズィッヒェル公爵家の馬車を城内に入れる訳には参りません!」
二メートルはあるがたいのいい門番が馬車に向かって叫ぶ。
「ちょっとあの者と話して参ります。殿下は中でお待ちください。もしあの者が王命を持っていた場合、殿下の魔法で飛ばしていただけますか?」
「えっ?」
あの門番が王命を持っている? どういう意味だろう?
フリード公子に尋ねる前に、公子が馬車から降りてしまう。
フリード公子が門番を見すえる。門番がフリード公子の気迫に気圧された。
現在のフリード公子の身長は一七八センチ(公式設定)、門番より二十センチ以上小さい。だけどフリード公子には貴族特有の高貴なオーラがあり、にじみ出る威圧感があった。
フリード公子に怜悧な瞳で睨まれたら、下っ端の役人などひとたまりもない。
「なぜ筆頭公爵家であるモーントズィッヒェル家の馬車が城に入れないのか、理由をお聞かせいただこう」
フリード公子が昂然(こうぜん)とした態度で問う。話し方は穏やかだが声はとても低かった。
気の弱い人ならお漏らしをして逃げ出している。
「王命が出ております」
だが門番はなんとか耐えた。
「王命だと?」
「はい、モーントズィッヒェル公爵は人に移す病にかかっているゆえ、モーントズィッヒェル公爵家の者は城に入れてはならぬと」
嘘だ。父上がそんな王命を出すハズがない。父上は伯父上やフリード公子が、父上やぼくの誕生日パーティーに出席しないのをとてもさみしがっていた。
「ではその王命を見せていただこうか」
フリード公子は王命と聞かされても、顔色一つ変えず冷静に門番を問いただす。
「王命をですか?」
「そうだ、|城の前(ここ)まで来ておきながら、モーントズィッヒェル公爵家に帰るんだ。王命を見ないままでは悔しくて夜も眠れないからな」
「分かりました」
門番が合図すると部下らしき人が、立派な箱を持ってきた。
あれは王命をしまう箱だ。ぼくも見たことがある。
門番が箱を開け王命の書かれた巻物を見せる。
「【王命、モーントズィッヒェル公爵家の者の王城への出入りを禁じる。これを破る者は誰であってもその場で斬り捨ててよいものとする。フォルモーント王国第三一代国王ハインツ・フォルモーント】」
門番が王命を読み上げる。
誰がこんな王命を……! ぼくは悔しくてぎゅっと拳を握る。
「ご理解いただけましたか?」
門番が王命が書かれた巻物をくるくるとまとめ、紐で縛る。
「ご苦労、お前の役目は終わりだ。今です!」
ぼくはっとして馬車から飛び出し。
「風の精霊よ我に従え! 突風(ヴィントシュトース)!」
王命に向かって呪文を唱えた。巻物が舞い上がり、フリード公子が上空でキャッチした。
「なにをする! 気でもふれたか!?」
門番の周りにぞろぞろと兵が集まってくる。
ぼくは馬車から飛び出し、フリード公子の前に立つ。
「フリード公子王命は?」
「ここに、頭の黒いネズミによい土産が出来ました。ラインハルト殿下」
フリード公子が手にした巻物を見せる。
「殿下?」
「ラインハルト殿下だと?」
「ラインハルト王子がなぜここに?」
一瞬兵がざわついたが。
「みな剣をおさめよ! フリード公子はぼくがお連れした! ぼくの連れに乱暴な事をすることは許さない!」
ぼくが睨みつけると兵たちは剣を鞘におさめた。
「ラインハルト王子、王子様でもこのようなむちゃをなさってはただではすみませんよ」
門番が悔しそうな顔でぼくを見る。
「それはこちらのセリフだ。父上がインゲルベアド公爵とフリード公子を城に入れるなという王命を出したなど聞いたことがない!」
「そっ、それは……」
門番の顔が青くなる。
「王命を偽造したのか?」
ぼくの問いに門番の顔が青から白へと変わる。
王命を偽造したら死罪だ。
「おっ、お許しください殿下! わっ、私はただ命令に従っただけなのです!」
門番は地面に膝をつき、真っ白な顔で頭を下げた。
「ラインハルト殿下、この者を締め上げ黒幕を吐かせるのは後に、今は城に巣くう奸臣の処罰が先です」
この門番はいい証人になると思うんだけどな。
「フリード公子ちょっと」
ぼくがおいでおいですると、フリード公子がぼくに顔を近づけた。
「この門番はよい証人になると思うんだけど、もしかして他に何か証拠があるの?」
ぼくはフリード公子に耳打ちした。
フリード公子がニコリと笑う。
「もちろんです殿下、三年モーントズィッヒェル公爵領にこもっていた訳ではありませんので」
フリード公子が耳打ちして返してくれた。こんな時だがちょっとだけくすぐったかった。
「そっか、じゃあこの人は適当に牢屋に入れといていいね」
「はい、殿下」
ここまでぼくたちはずっと耳打ちで話している。
「この者を牢に入れよ! 取り調べは後で行う!」
「はっ、かしこまりました」
門番は兵士に任せ、ぼくたちは再び馬車に乗リこむ。
かくしてモーントズィッヒェル公爵家の家紋入りの馬車は、正門から通ることに成功した。
◇◇◇◇◇
「いよいよ獅子身中の虫との対決だね!」
ぼくは握りしめた拳に力を込める。
「あれ? もしかしてぼくいらない?」
フリード公子がいれば事がすむよね?
「それは違います殿下」
フリード公子がぼくの手を取る。
「ラインハルト殿下がいる事で私は官軍になれるのです。いくら証拠を握っていても城に入ることが出来なければなんの意味も持たない。殿下が私を迎えに来てくたさったから、王都の関所を越え、城の門を越え城内に入ることが出来た。証拠があっても王様に進言出来なければ意味がない。私がこうして城を訪れたのは殿下が私を必要とし私を信じてくださったから。殿下が私を信じてくださったから、私も殿下のために動こうと思えたのです。私の剣も盾も全てラインハルト殿下のために存在している事をどうかお忘れなきよう」
イケメンにキラキラエフェクト付きでかっこいいセリフを言われたら、大概の人は落ちる。ぼくもポーっとなってしまった。
「うん、ぼくもフリード公子の役に立てるよう頑張るね! ぼくに出来ることなら何でもするから遠慮なく言って!」
ぼくの言葉を聞いたフリード公子が頬を赤らめた。
「殿下、誰にでもそのような事をおっしゃってはいけませんよ」
あれ? ぼく変なこと言ったかな?
◇◇◇◇◇
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