【BL】【完結】序盤で殺される悪役王子だと気づいたので、全力でフラグを壊します!

まほりろ

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四話「ファーストコンタクトに失敗しました」

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そんな事より勇者様!

「姉上! 姉上!」

リーゼロッテはまだ目覚めないらしく、勇者様がリーゼロッテの手を握り叫んでいた。

魔法で傷は治したから命に別条はないはずだが、目を覚まさないのは心配だ。

勇者様の姉上に、万が一の事があっては困る。

「医者を呼んでください! いや、それよりも城に運んだ方が速い、城に運び王医に診せます!」

孤児院より城の方が近い、王医もいるし、部屋数も多い。城に運んだ方が安全だ。

護衛の兵がリーゼロッテをお姫様抱っこする。

「あなたも一緒に城に来てください」

運ばれていくリーゼロッテを心配そうに見つめる勇者様に話しかける。できるだけやさしい声で、出来る限り礼儀正しく。

「王子様の馬車におれも乗せて貰えるのですか?」

勇者さまは驚いた顔でぼくを見た。

昨日までわがままで自分勝手なダメ王子だったからね。街や孤児院にもぼくの悪評は届いているだろうし。

やさしくされたら驚くよね。裏があるのかもと疑うよね。

「大丈夫ですよ。あなたのお姉様を絶対に死なせたりしませんから」

勇者の肩に手をおくと、勇者様が涙目になった。

どうしよう! 勇者様を泣かせてしまった!

肩に触られて嫌だった? 気持ち悪かった? ちょっと気安くし過ぎた?

「ありがとうございます! ラインハルト王子!」

勇者様が深々と頭を下げた。

勇者様が泣いた理由は分からないが、今はそれより勇者様の姉上が心配だ。

早くお城に運び、王医に診せなくては!


◇◇◇◇◇◇◇◇


城に運び、王医に診せたところリーゼロッテはすぐに目を覚ました。

王医の話では、斬られたショックで失神していたらしい。

孤児院にも二人が無事だった事を知らせるために、使いを送った。

勇者様とリーゼロッテは、腹痛を起こし寝込んでいる同室の少女ローレの事を心配していた。

二人にローレも医者に診せ、薬を飲ませたことを伝えた。ローレが無事だと分かり二人の表情が少しだけやわらいだ。

それにしても二人の髪はなぜ短いのだろう? ゲームでは幼少期からロングヘアだったはず。何か理由があるのだろうか?

それから発見が早かったから大丈夫だとは思うけど、二人とも身売りしてないよね?

それとなく、勇者様に尋ねる。

「身売り? なんの話ですか? おれたちは薬代を工面するために髪を売りに行っただけですが」

キョトンとした顔で、勇者様姉弟に見られた。

薬代を工面するために髪を切った? 身売りしたんじゃなくて?

よかった! ぼくの早とちりだったのか!

ゲームの内容があれなだけに、過剰に心配してしまった。

勇者様にもしもの事が合ったら困るから、心配し過ぎなぐらいがちょうどいいのかも。

「孤児院の運営は王族の務めなのに、それをおろそかにしお二人に大切な髪を切らせてしまいました。すみません!」

ぼくは二人に頭を下げた。

どうしよう勇者様がシスコンで「姉が薬代のために美しい髪を切ったのは、お前ら王族が無能だからだ!」と王族を恨んで、一〇年後に断罪されたら……!

冷たい汗が背中を伝う。

勇者がぼくに駆けより、ぼくの肩に手を置いた。

「ラインハルト王子、どうか頭を上げてください」

勇者様にうながされ顔を上げる、勇者様の顔がぼくの目の前にあった。

ゲームでは太陽の光を受けて輝く紫の長い髪が、とても美しかった。

だが今は肩の高さに切り揃えられている。

「とても綺麗な髪だったのに、すみません」

勇者様の髪に触れると、勇者様の雪のように白い肌が朱色に染まる。

勇者様の顔はどうして赤くなったのだろう?

先ほど勇者様の肩に触れただけで泣かれた事を思い出す。

しまった! 勇者様の方から近づいて来たから大丈夫かと思ってうっかり髪に触れてしまった! もしかして迷惑だったのだろうか?

それとも、怒りで顔が赤くなるほど不快だったのだろうか?

勇者様の中でのぼくの好感度だだ下がりじゃないか!

なんとかして挽回しないと!

「らっ、ラインハルト王子は短い髪はお嫌いですか?」

勇者様が顔を赤らめ、上目づかいで尋ねてくる。

この回答は外せない!

確か母上が「髪を切った時はすぐに気づいてください! それから似合ってなくても褒めてください!」と父上をたしなめていたことがある。

温厚な母上があれだけ怒るのだから、絶対に「似合ってない」と言ってはいけない!

「いえとても似合っていますよ。あなたの美しさを引き出している」

出来る限りのほほ笑みをたたえ、答えた。

ぼくの言葉を聞いた勇者様の顔が耳まで真っ赤に染まり、ボンッという爆発音を立てた。

「勇……リヒト様?」

勇者様はぼくの問いかけには答えず、ぼくから顔を背けた。

あれ? 失言した? 男の子に「美しい」は禁句だった?

それから勇者様の顔はずっと赤いままで、ぼくと一度も目を合わせてくれなかった。

どうやらぼくは、勇者様を本格的に怒らせてしまったようだ。

ぼくは勇者様とのファーストコンタクトに失敗してしまったらしい。


◇◇◇◇◇◇◇
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