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二話「孤児院を訪れてみたけれど……」
しおりを挟む「は~~い皆さ~~ん、一列に並んで下さ~~い!」
街の中心にある広場。
大鍋の前には老若男女たくさんの人が列を作っている。
「慌てなくても、ちゃんと全員の分がありますからね~~!」
ぼくは両親からの誕生日プレゼントを拒否し、そのお金で炊き出しをしている。
思っていたよりも多くの人が集まった。
集まった人たちは皆ガリガリに痩せ、纏っている衣や靴はボロボロで、中には裸足のものもいた。
父上と母上は良い人たちなのだが、他人を信用し過ぎるところがある。
国民がこれだけ困窮しているのをみるに、官僚たちが父上に内緒で高い税金を課し、徴収した税金を懐にいれている可能性も考えられる。
死亡フラグをへし折るには品行方正に過ごしていればいいと思ったが、大規模な改革が必要だ。
ゲームのラインハルトが魔王ミーヌスと取引し、国民を売りとばしたのも、残虐非道な性格だったからだけではなく、国に金がなかったからかも。
だとしたら一刻も早く官僚たちの不正を暴かなくては!
「殿下、食材が足りません!」
メイドの一人がぼくに泣きついてきた。
思っていたよりたくさんの人が集まったので、用意してきた食材では足りなくなったらしい。
「城にある食材を持って来てください。責任はぼくが取ります」
「はい、殿下」
メイドと数人の兵士が食料を取りに城に戻った。
誕生日プレゼント代金を配給に当てたが、それだけでは足りないかも。
配給は一回のつもりだったが、この分では一回では足りないな。
今まで誕生日に諸侯からいただいたプレゼントをすべて金に変え、質素倹約を心がけて、そのお金で民に施しをしよう。
しかしそれでは根本的な解決にはならない。
最終目的は役人の不正を正し、民が自立出来る国を作ることだ!
それから……ぼくは高台にある孤児院をチラリと見る。
勇者様は、孤児院で何の問題もなくすくすくと育っているだろうか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これはこれはラインハルト殿下、ようこそおいでくださいました」
孤児院を訪れると、人の良さそうな年配の神父が出迎えてくれた。
緊張しているように見えるのは王族の出迎えだから、という理由だけではないだろう。
わがまま王子が孤児院を壊しに来たのではないかと、心配しているのだ。
ラインハルトは数カ月前から「誕生日には別荘が欲しい、場所は孤児院がある高台がいい」と周囲に漏らしていた。
別荘の建設を正式に国王陛下にお願いするのが、昨日の誕生日だった。
「ラインハルト殿下、この孤児院は先々代の国王が女神からの掲示をうけて建てられた、由緒ある建物でして……」
神父が孤児院の必要性を説明する。
「分かっています。どうか心配しなさらないでください。ここを壊しに来たのではありません。むしろ守りに来たのです」
ぼくの言葉に神父が安堵の息を吐いた。
古いがしっかりとした石造りの孤児院、毎日掃除されているのか想像していたより清潔感がある。
子供たちが本を読んだり、ままごとをしたり、走り回ったりして思い思いの時を過ごしていた。
皆痩せているが、街で見た子供たちほどガリガリではない。
勇者が出る場所として保護されているだけのことはある。
それにしても、想像していたよりも子供の数が多いな。
「昨今、子供を捨てて行く親が後を絶たず」
神父が悲しげに目を伏せた。
無理もない、街の人たちのあの暮らしぶりでは、自分たちが食べるのがやっとで、子供の食費まで回らない。
手元において飢え死にさせるよりはと、断腸の思いで子供を手放したのだろう。
やはり官僚の不正を正し、民が安心して暮らせる国を作らないと。
この中に勇者様とその姉がいるはず。二人とも珍しい紫の長い髪だから目立つはずなのだが。
そのとき、ちょんちょんと服の裾を引っ張られた。
「ラインハルトでんか……」
茶色の髪を三つ編みに結んだ、四~五歳ぐらいの少女がぼくの服の裾を引っ張っていた。
黒い大きな瞳をうるうるさせ、ぼくをじっと見ている。
「止めないかエミリア、殿下に失礼だぞ!」
後ろから来た青い髪の少年に抱っこされ、少女はぼくの服から手を離した。
八~九歳ぐらいかな? 少年は凛々しい顔立ちをしていた。
「でもバルドリックにぃ……リヒトが」
バルドリック兄? エミリア?
この髪の色、この名前間違いない。
ゲームでラインハルトが発令した初夜権法の最初の犠牲になる夫婦だ。
ぼくの体からさぁっと血の気が引いていく。
まだやってはいないことだが、ぼくがこの二人を引き離し、殺すことになる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」とぼくは心の中で二人にわびた。
「リヒトとリーゼロッテなら大丈夫だよ」
腕の中でいやいやと暴れるエミリアを、バルドリックが抑える。
リヒトとリーゼロッテ? どこかで聞いたことがあるような?
それもそのはず、勇者と勇者の姉の名だ!
勇者様に何かあった?
もしかして、もう娼館に売られちゃったとか?
「心配しなくてもいいよ、話して何があったの?」
バルドリックがエミリアを床に下ろすと、エミリアがぼくの所に走ってきた。
「何があったのか話してくれるかな?」
ぼくは膝を曲げ、エミリアに目線を合わせる。
「あのね、ローレが痛い痛いなの、それでねリヒトとリーゼロッテがないないしに行ったの」
エミリアが何かを伝えようとするが、何の話なのかぼくにはさっぱり分からない。
困り果て助けを求めるようにバルドリックを見る。
「同室のローレという少女が昨日の夜から腹痛で苦しんでいるんです。ここには薬もないし、医者を呼ぶ金もない。それでリヒトとリーゼロッテが薬を買うための金を作りに街へ」
バルドリックがエミリアの言葉を通訳してくれた。
「まさか、身を売りに!」
やはり破滅フラグは折れないのか!
じゃなくて、いたいけな少年と少女が身を売るのを黙ってみてはいられない!
「いえ売りに行ったのは……」
「王宮から薬を持って来てくれ、病人がいる! それから医者も連れて来るんだ! できるだけ急いで!」
ぼくはバルドリックの言葉を遮り、お付きとして連れてきた兵の一人に命を下す。
命を受けた兵士は、扉から飛び出して行った。
「神父、なぜ病人がいるのを隠していたのですか?」
「申し訳ありません」
神父に問いただすと、神父は深々と頭を下げた。
神父は何も言わなかったが理由はなんとなく分かる。
孤児の数が増えても予算は昔のままなのだ。子供たちに食べさせるのがやっとで、薬代までは工面できなかったのだろう。
バカ王子の気まぐれで孤児院をぶっ壊して、別荘を建てる話が出ていたんだ。王室に薬代を請求出来る訳がない。
だが今は原因の究明をしている場合じゃない。
リーゼロッテが身を売る前に見つけ出さなくては!
◇◇◇◇◇◇◇
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