【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ

文字の大きさ
上 下
77 / 83

後日談・八「出産」

しおりを挟む

八月、北の地には珍しく暑い夏だった。

白樺の森産のかき氷は、町の人や観光客にとても喜ばれた。

ボクがIイスの魔法で氷の状態を維持したかき氷が、シュタイン領の名物になる日も近い。

そんなある日の夜。

体がだるかったので、ヴォルフリック兄上とセックスしないでベッドに入った。

言っておくが毎日ヴォルフリック兄上とエッチしている訳ではない……二日に一度、いや三日に二度はしてるけど。

真夜中、熱にうなされ目を覚ますとボクの体が発光していた。

隣に寝ているヴォルフリック兄上を起こす。

「ヴォルフリック兄上起きてください、ボクの体が変なんです!」

「どうした? 何があったエアネスト?」

兄上はすぐに起きてくれた。

光っているボクを見て、ヴォルフリック兄上が目を丸くする。

「何があった?」

「わかりません、起きたらこうなっていて」

思い当たるフシがある。

ボクはお腹に手を当てた。

「もしかして、出産が近いのでしょうか?」

「シュトラールからイングのルーンを授かって、約一〇カ月……その可能性は高いな」

ヴォルフリック兄上が素早く着替え、ボクにコートを着せフードを被せる。

「シュトラールの元に向かうぞ!」

「はい」

兄上がBべオークで授かった黒い馬にまたがる。

ちなみに黒い馬は(シュバルツ)、白い馬は(ヴァイス)という名前がある。

ヴォルフリック兄上はボクを馬の前に乗せ、精霊の森へと馬を走らせた。

精霊の森の奥にある精霊の泉につくと、シュトラール様が出迎えてくれた。

「いらっしゃい、そろそろ来る頃だと思っていましたよ」

シュトラール様がにこやかに笑う。

兄上がボクを馬から下ろし、シュトラール様に詰め寄る。

「シュトラール、エアネストの体に異変が起きた。理由を説明しろ」

「大丈夫ですよ、子供が生まれるだけですから」

シュトラール様がふわりと笑う。

やっぱり出産が近いんだ。

兄上の子を授かって嬉しい……だけどちょっぴり不安だ。男のボクに子供が生めるのかな?

「怖がらなくても大丈夫ですよ」

シュトラール様がボクの手を取る。

「泉のそばに横になってください」

言われるままに泉のそばに体を横たえる。

シュトラール様がボクの右手をにぎる。

「ゆっくり息を吸って、吐いて」

言われるままに深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。

「生まれそうですね」

「えっ? もうですか?」

陣痛とかなかったよ?

「気を強く持て、エアネスト!」

ヴォルフリック兄上がボクの左の手をにぎる。

ボクを覆う光が強くなっていく。

「ところで二人はどんなルーン文字がほしいですか?」

「えっ? こんなときに?」

ルーン文字の話ですか?

「こんなときだからです」

「そう言われても、ボクはシュトラール様からいただいたルーン文字しか知りませんし……」

「そういえばそうでしたね、ではイメージだけでも」

「私は子供に強く生きてほしい」

「そうですか、それがヴォルフリックの望みなのですね。エアネストの希望は?」

「ボクは子供に幸せに生きてほしいです」

「わかりました。では子供たちに両親の希望に沿ったルーンを授けましょう」

ん? 子供たち・・

ボクを覆っていた光が、星のように二度きらめいた。

「長男には、トゲソーンのルーン文字を授け、名も『ソーン』とします」

「ソーン」のルーン文字の意味は、魔除け、恐れなき心だとシュトラール様が教えてくれた。

「次男にはフェオのルーン文字を授け、名も『フェオ』とします」

「フェオ」のルーン文字の意味は、富、豊かさ、家畜、所有だとシュトラール様が教えてくれた。

光が赤子の形に、変わっていく。

一人目は銀色の髪の男の子だった。赤子の額に右向きの三角形「▷」のような、旗のような形が浮かぶ。あれが多分『ソーン』を表すルーン。 

二人目の子は金色の髪の男の子だった。赤ん坊の額に上向きの「F」のような形が浮かぶ。あれがきっと『フェオ』のルーン文字。

シュトラール様が生まれたばかりの子を、ボクに抱かせてくれた。

赤子を腕の中に抱いても、親になった実感がわかない。つわりも、お腹が大きくなることも、陣痛もなかったからかな?

それにしてもまさか双子だったとは。

「フェオはエアネストに似ているな、きっと美人になる」

「ソーンはヴォルフリック兄上に似ています。きっとたくましくて賢い子に育ちます」

腕の中ですやすやと眠る我が子の顔をのぞきこむ。

すごく幸せな気持ちになった。

「ソーンとフェオに幸多からんことを」

シュトラール様が二人の赤子に、祝福の言葉をくれた。



◇◇◇◇◇


赤子を連れてシュタイン邸に帰ったら、さすがに驚かれるかな? と思っていたんだけど、その心配は杞憂(きゆう)に終わった。

「お二人に何が起きても、私は驚きません」

出迎えてくれた、家令のカールに言われた。

ほかの使用人たちも、ボクの妊娠と出産をすんなり受け入れてくれた。

「お二人ならもうなんでもありだと思っております」
 
使用人たちが口をそろえてそう言った。ボクたちをなんだと思ってるんだ?

ボクがしたことと言えば、モンスターが巣くう荒野を一夜で白樺の森に変え、真夏の日差しの下に一日放置しても溶けない氷を作ったぐらいだよ。

うん、十分トリッキーだね。使用人が驚かないわけだ。

結婚式以来、ボクを女の子だと思いこんでいる町の人たちは、赤子の誕生日を心から喜んでくれた。

それから一カ月、シュタイン領はお祭りムードに包まれた。


◇◇◇◇◇
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...