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後日談・八「出産」
しおりを挟む八月、北の地には珍しく暑い夏だった。
白樺の森産のかき氷は、町の人や観光客にとても喜ばれた。
ボクがIの魔法で氷の状態を維持したかき氷が、シュタイン領の名物になる日も近い。
そんなある日の夜。
体がだるかったので、ヴォルフリック兄上とセックスしないでベッドに入った。
言っておくが毎日ヴォルフリック兄上とエッチしている訳ではない……二日に一度、いや三日に二度はしてるけど。
真夜中、熱にうなされ目を覚ますとボクの体が発光していた。
隣に寝ているヴォルフリック兄上を起こす。
「ヴォルフリック兄上起きてください、ボクの体が変なんです!」
「どうした? 何があったエアネスト?」
兄上はすぐに起きてくれた。
光っているボクを見て、ヴォルフリック兄上が目を丸くする。
「何があった?」
「わかりません、起きたらこうなっていて」
思い当たるフシがある。
ボクはお腹に手を当てた。
「もしかして、出産が近いのでしょうか?」
「シュトラールから◇のルーンを授かって、約一〇カ月……その可能性は高いな」
ヴォルフリック兄上が素早く着替え、ボクにコートを着せフードを被せる。
「シュトラールの元に向かうぞ!」
「はい」
兄上がBで授かった黒い馬にまたがる。
ちなみに黒い馬は(シュバルツ)、白い馬は(ヴァイス)という名前がある。
ヴォルフリック兄上はボクを馬の前に乗せ、精霊の森へと馬を走らせた。
精霊の森の奥にある精霊の泉につくと、シュトラール様が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、そろそろ来る頃だと思っていましたよ」
シュトラール様がにこやかに笑う。
兄上がボクを馬から下ろし、シュトラール様に詰め寄る。
「シュトラール、エアネストの体に異変が起きた。理由を説明しろ」
「大丈夫ですよ、子供が生まれるだけですから」
シュトラール様がふわりと笑う。
やっぱり出産が近いんだ。
兄上の子を授かって嬉しい……だけどちょっぴり不安だ。男のボクに子供が生めるのかな?
「怖がらなくても大丈夫ですよ」
シュトラール様がボクの手を取る。
「泉のそばに横になってください」
言われるままに泉のそばに体を横たえる。
シュトラール様がボクの右手をにぎる。
「ゆっくり息を吸って、吐いて」
言われるままに深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「生まれそうですね」
「えっ? もうですか?」
陣痛とかなかったよ?
「気を強く持て、エアネスト!」
ヴォルフリック兄上がボクの左の手をにぎる。
ボクを覆う光が強くなっていく。
「ところで二人はどんなルーン文字がほしいですか?」
「えっ? こんなときに?」
ルーン文字の話ですか?
「こんなときだからです」
「そう言われても、ボクはシュトラール様からいただいたルーン文字しか知りませんし……」
「そういえばそうでしたね、ではイメージだけでも」
「私は子供に強く生きてほしい」
「そうですか、それがヴォルフリックの望みなのですね。エアネストの希望は?」
「ボクは子供に幸せに生きてほしいです」
「わかりました。では子供たちに両親の希望に沿ったルーンを授けましょう」
ん? 子供たち?
ボクを覆っていた光が、星のように二度煌めいた。
「長男には、トゲのルーン文字を授け、名も『ソーン』とします」
「ソーン」のルーン文字の意味は、魔除け、恐れなき心だとシュトラール様が教えてくれた。
「次男には富のルーン文字を授け、名も『フェオ』とします」
「フェオ」のルーン文字の意味は、富、豊かさ、家畜、所有だとシュトラール様が教えてくれた。
光が赤子の形に、変わっていく。
一人目は銀色の髪の男の子だった。赤子の額に右向きの三角形「▷」のような、旗のような形が浮かぶ。あれが多分『ソーン』を表すルーン。
二人目の子は金色の髪の男の子だった。赤ん坊の額に上向きの「F」のような形が浮かぶ。あれがきっと『フェオ』のルーン文字。
シュトラール様が生まれたばかりの子を、ボクに抱かせてくれた。
赤子を腕の中に抱いても、親になった実感がわかない。つわりも、お腹が大きくなることも、陣痛もなかったからかな?
それにしてもまさか双子だったとは。
「フェオはエアネストに似ているな、きっと美人になる」
「ソーンはヴォルフリック兄上に似ています。きっとたくましくて賢い子に育ちます」
腕の中ですやすやと眠る我が子の顔をのぞきこむ。
すごく幸せな気持ちになった。
「ソーンとフェオに幸多からんことを」
シュトラール様が二人の赤子に、祝福の言葉をくれた。
◇◇◇◇◇
赤子を連れてシュタイン邸に帰ったら、さすがに驚かれるかな? と思っていたんだけど、その心配は杞憂(きゆう)に終わった。
「お二人に何が起きても、私は驚きません」
出迎えてくれた、家令のカールに言われた。
ほかの使用人たちも、ボクの妊娠と出産をすんなり受け入れてくれた。
「お二人ならもうなんでもありだと思っております」
使用人たちが口をそろえてそう言った。ボクたちをなんだと思ってるんだ?
ボクがしたことと言えば、モンスターが巣くう荒野を一夜で白樺の森に変え、真夏の日差しの下に一日放置しても溶けない氷を作ったぐらいだよ。
うん、十分トリッキーだね。使用人が驚かないわけだ。
結婚式以来、ボクを女の子だと思いこんでいる町の人たちは、赤子の誕生日を心から喜んでくれた。
それから一カ月、シュタイン領はお祭りムードに包まれた。
◇◇◇◇◇
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