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後日談・四「|F《アンスル》」*

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「シュトラール様、いらっしゃいますか?」
「シュトラールいるか?」

精霊の森を訪れると、精霊の泉にシュトラール様はいた。

「いらっしゃい、訪ねてくると思っていましたよ」

シュトラール様が穏やかな笑顔をたたえ、出迎えてくれた。

「エアネスト、体調はいかがですか?」

「よくありません」

「それはどのように?」

「それは……」

性欲を持て余しヴォルフリック兄上の男根がほしくて仕方ないのです、……とは言えない。

今もボクの腰を添えられたヴォルフリック兄上の手にムラムラしている。ヴォルフリック兄上のたくましい手にお尻を揉んでほしくてたまらない。

そこの木に体を押し付けられたい、ヴォルフリック兄上に後ろから抱きしめてほしい、アナルにペニスを挿してほしい、奥をズンズン突かれたい。

ボクはいつからこんなに破廉恥な人間になってしまったのだろう?

「その、奥が…熱くて、ヴォルフリック兄上の……おとこ…ねを」

ヴォルフリック兄上の大伯父様の前で、欲望を暴露するとか、どんな羞恥プレイだ?

瞳の端がにじむ、顔に熱が集まっていく。

「もういい、エアネストは口をつぐんでいろ」

ヴォルフリック兄上がボクの口を塞ぐ。ボクの代わりに兄上が説明してくださった。

「シュトラール、お前がエアネストにイングのルーンを渡してからエアネストはおかしくなった。欲情している時間が長くなった。イングのルーンが何らかの影響をもたらしているとふみ、ここに来た。答えろ、イングのルーン文字が表す意味はなんだ?」

「それは本当ですか?」

兄上の説明を聞いたシュトラール様が瞳を輝かせる。

「おめでとうございます、エアネスト」

シュトラール様がしとやかにほほ笑み、ボクの手をにぎる。

ん? おめでとうございますってどういうこと?

イングのルーン文字の意味はイング神。ルーン文字の持つ魔力は受胎、性的魅力、本能の力」

それってつまりどういう意味?

「エアネスト、あなたはルーン文字の魔力で懐妊しました。煩悩が強くなり性交の数が増えたのは懐妊した証です」

「かっ、懐妊?」

「赤ちゃんが出来たのです」

「ええっ??」

赤ちゃんって、あの赤ちゃん? ボク妊娠したの??

ボクは兄上と顔を見合わせ、自身のお腹に手を当てた。

この中にボクとヴォルフリック兄上の子が……。

「エアネストの中に私の子が?」

兄上が恐る恐るといった感じで、ボクのお腹に触れる。

「ボク、男なのに妊娠して……ヴォルフリック兄上は気持ち悪くありませんか?」

「そんなわけがないだろ、私がエアネストをそんな風に思うはずがない! エアネストが私の子を宿してくれてとても嬉しい!」

「ヴォルフリック兄上……!」

ヴォルフリック兄上の言葉が胸に、しみる。涙がポロポロと溢れる。

ヴォルフリックがボクを抱きしめ、涙をなめとる。

「泣くな、エアネストに泣かれると弱い」

「ごめんなさい、嬉しくて……!」

ヴォルフリック兄上がボクの側にいてくれることに、罪悪感があった。

ボクの側にいたら、ヴォルフリック兄上は結婚できないし、子孫を残せない。

ボクと兄上は世間的には異母兄弟だから、結婚はできない。でも子供は作れた。

イングのルーンを授けてから、十月十日後、子供が生まれるでしょう」

シュトラール様がニコニコしながら話す。

「つわりがあったり、お腹が大きくなったりするのでしょうか?」

「それはありません。イングのルーンにより授かる子は普通の子供とは違いますから。十月十日後、私のもとを訪れてください、子を取り上げます」

シュトラール様がふわりと笑う。

「それを聞いて安心しました」

シュトラール様の言葉を聞き、ホッと息をつく。

ボクは男なので、妊娠することには抵抗がある。恥ずかしいし、戸惑いもある。

お腹が大きくなり、お腹を割いて子を取り出すんじゃなくてよかった。

ボクもヴォルフリック兄上も男だし、結婚してない。生まれて来た子は、ボクかヴォルフリック兄上の養子にするしかない。

生まれる前から、子供が苦労する未来が見える。

「子供ができたのは喜ばしいのですが、できれば先に言ってほしかったです」

「すみません、エアネストが懐妊する確率はとても低かったのです。糠(ぬか)喜びさせてはいけないと思い、いままで黙っていました」

そうだったたんだ。それじゃあ仕方ないよね。

「人間の夫婦は子ができると舞い上がるほど嬉しいと聞きましたが、エアネストとヴォルフリックは違うのですか?」

「嬉しいです! すごくすごく嬉しいです!」

愛するヴォルフリック兄上の子を宿したのだ、心から嬉しい!

「私も、私の子をエアネストが宿してくれて幸せだ!」

ヴォルフリック兄上が、ボクをぎゅっと抱きしめ、唇にキスをした。

シュトラール様の見ている前なので、恥ずかしい。

「えっ? わたしの聞き間違いでしょうか? エアネストとヴォルフリックは夫婦ではないのですか?」

シュトラール様の声で我に帰り、ヴォルフリック兄上と距離をとる。

ヴォルフリック兄上にすぐに後ろから抱きしめられてしまった。

「ボクとヴォルフリック兄上は夫婦ではありません」

「二人は愛し合っているのではないのですか?」

「ボクはヴォルフリック兄上を愛しています! 心から!」

「私もエアネストを心から愛している!」

「ではなぜ結婚しないのですか?」 

「男同士ですし、世間的にはボクとヴォルフリック兄上は異母兄弟ということになっていますから、結婚は……」

男同士というだけでもハードルが高いのに、母親が違うとはいえ兄弟では絶望的だ。

ヴォルフリック兄上と血のつながりがないことを明かすことは、レーア様が王以外と通じたと明かすことになる。

ヴォルフリック兄上が魔王の子だと知られてしまったら……。そんなことになるくらいなら、今のままでいい。

「そうですかそんな理由が。わたしのお気に入りのあなたたちが幸せになれないなど、精霊の名折れ」

シュトラール様が唐突に僕の額にキスをした。

「アンスル……」 

額に熱が集まり、下向きの「F」に似た文字のイメージが脳裏に浮かぶ。

ヴォルフリック兄上がハンカチでボクの額を拭く。

「消毒だ!」と言って、チュッチュと額に何度もキスを落とす。

そんな兄上を華麗にスルーし、シュトラール様が「アンスル」のルーンの説明をする。

「『アンスル』の意味は『言霊』、エアネスト、あなたの望みを口にしてください」

「ボクの、願い……」

ヴォルフリック兄上をじっと見る。

「エアネストが望むことを言えばいい、エアネストが望むことならなんでも受け入れる」

ヴォルフリック兄上がやさしくボクの髪を撫でる。

「ヴォルフリック兄上……!」

ヴォルフリック兄上の言葉で、願うことが決まった。

ボクの願い、それは……。

「許されるならヴォルフリック兄上と結婚したいです。ヴォルフリック兄上と幸せな家庭を築き、兄上とずっとずっと一緒に暮らしたいです!」

「私もそう願っていた」

兄上がボクの手を取り、強く握る。

「ヴォルフリック兄上!」

ヴォルフリック兄上がボクを抱きしめ、唇にキスをする。二度目のキスはディープキスだった。

シュトラール様の目があるのを忘れ、夢中でキスをする。

「二人の願い、聞き届けました」

シュトラール様の声に我に帰る。唇を離すと、兄上との間を銀の糸が引いていた。

恥ずかしさはあとからやってきた。顔がほてる。きっと耳まで赤くなっている。

シュトラール様大伯父様の前でなんて事をしてしまったんだ!?

「アンスルの魔力は一度だけ、二人の未来に祝福あれ」

シュトラール様の穏やかな声が、精霊の森に響いた。


◇◇◇◇◇
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