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六十三話「魔王ゲアハード」

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城の奥にひときわ大きな扉があった、扉には不気味な悪魔のようなものが描かれている。

ゲームで見たドアとまったく同じデザインだ、ならきっとこの先が玉座の間。

扉を開けると玉座の間は真っ暗でしんと静まり返っていた。

ぼっと音を立て壁のろうそくがともる。最初は入口近くのろうそくがともり、奥に向かってともっていく。

部屋の奥のろうそくに火がともる頃には、部屋はかなり明るくなっていた。

黒を基調とした部屋に、厳つい鎧や動物の剥製、恐ろしい絵などが飾られていた。一言で言うと悪趣味だ。

部屋の奥、五段ほど高くなった場所に玉座があり、男が脚を組んで座っていた。

腰まで伸びた漆黒の髪、黒檀色の鋭い目、先の尖った耳、長く伸ばされた爪。筋肉質な体に、黒ずくめの服をまとい、黒衣のマントを羽織っている。  

魔王ゲアハード。ゲーム「宝石箱の王子様~愛をささやいて~」のラスボス。

ヴォルフリック兄上の実母レーア様をさらい陵辱し、ヴォルフリック兄上の祖父ラグ様を殺し、ヴォルフリック兄上の髪を闇の魔力で黒く染め、世界にモンスターを放ち、ワルフリート兄上とティオ兄上を囚えた。

魔王はボクたちを見て、余裕のある顔で笑みを浮かべた。ボクたちなんて脅威でもなんでもないのだろう。

魔王の顔は彫りが深く目鼻立ちが整っていた。美形だと思うが、人相は悪い。

魔王の顔は、ヴォルフリック兄上と似ていなかった。

ヴォルフリック兄上は祖父のラグ様に似ていると、シュトラール様が言っていた。兄上の顔が魔王に似なかった事がせめてもの救い。

ボクがヴォルフリック兄上の立場だったら、母と祖父の敵と同じ顔をしていたらいたたまれない。

「久しいな、ヴォルフリック」

魔王がヴォルフリック兄上を見てニヤリと笑う。

「気安く私の名を呼ぶな!」

ヴォルフリック兄上が魔王を睨みつけ、ボクを自身の背にかばうように立つ。

「お前の後ろに隠れるように立っているのはソフィア公女か? いや違う……男だな、そうか第四王子のエアネストか」

「貴様が気安く目に入れていい相手ではない!」

兄上の声には怒気がこもっていた。

「第四王子を随分と気に入っているようだな、弟への愛情を越えている」

魔王がボクになめるような視線を向ける。

「ソフィア公女が貴様に惚れ光の力を譲渡することを危惧し、他国に嫁がせ子をなさせたが。まさか男に走るとはな……弟に光の魔力をもらい、代わりに弟を守る犬に成り下がったか」

魔王がくつくつと笑う。

「ヴォルフリック、お前にはがっかりだ。光の魔力への耐性を得るため、レーア妃をさらい子をなし。人間を憎むように黒髪に変え牢に閉じ込めるようにしむけ。人間を殺し魔族側につかせるために、雨が降らないのは地下牢に魔族の子がいるからだとうわさを流し、牢を人間に襲わせた。なのに小僧一人のために人間側につくとはな」

今までのことは全部魔王の策略だったんだ。

レーア様やヴォルフリック兄上はそのために利用され、ラグ様は殺された。

「失敗作を処分しようと王子二人を捕らえ餌にしたが、こうして魔王城に来たという事は義理の兄二人にそれなりに情があったようだな」

ワルフリート兄上とティオ兄上はそのために囚われていたんだ。

「奴らを人質にする気なら、私には効果はないぞ」

「なるほど、お前の枷になるのはそこにいる第四王子だけのようだ」

魔王がボクを指差す。

「お前を殺したあと我の玩具にしようか? それともお前を拘束し目の前で第四王子をいたぶろうか?」

魔王がくすくすと笑う。

「ふざけるな! エアネストには指一本触れさせん!!」

「冗談も通じぬとはつまらんやつだ。使えない道具はいらぬ、失敗作のお前を我自ら処分してくれる!」

魔族が椅子から立ち上がる。

「黙れ! 貴様の道具になるために生まれて来たわけではない! 母と祖父の敵を打たせてもらう!!」

ヴォルフリック兄上がバスタードソードを構える。

ボクも光の剣リヒト・シュヴェーアトを手にする。ゲームのエアネストの武器はハイリゲス・シュヴェルトという名の聖剣を手にしていた。

なんの準備もなく魔王城に乗り込んだので、聖剣は手に入らなかった。だが光の剣リヒト・シュヴェーアト聖剣ハイリゲス・シュヴェルトに次ぐ攻撃力を持つ剣だ、魔王が相手でも十分戦えるはず。

魔王が呪いの剣フルーホ・シュヴェールトを構える。

呪いの剣フルーホ・シュヴェールトはツーバンデット・ソードという種類の長さ百八十センチ、重さ四キログラムある両手剣。

身長百九十七センチの魔王だから使える武器だ。

魔王が呪いの剣フルーホ・シュヴェールトを片手で振り上げた。普通の人が両手で使う剣を片手で扱うなんて、とんでもない馬鹿力だ。

魔王が剣を振り下ろすと剣圧で床が裂け、衝撃波が襲う。

光の盾リヒト・シルト!」

ボクは呪文を唱え、防御力をあげる。あんな攻撃をまともに食らったらひとたまりもない。

兄上もバスタードソードを振るい、衝撃波を打ち消す。防御力を上げる魔法と兄上が衝撃波を打ち消してくれたおかげで、ボクと兄上は無傷ですんだ。

光の槍リヒト・ランツェ!」

ボクが魔法を唱えると、巨大な光の槍が現れ魔王に飛んでいった。

魔王が光の槍リヒト・ランツェをぎりぎりでかわす、ヴォルフリック兄上がそこに斬り込んだ。

魔王が呪いの剣フルーホ・シュヴェールトで攻撃を防ぐ。キィィィンと、剣と剣がぶつかり合う音が響く。

「力(クラフト)! 速度をゲシュウィンディヒカイト上げるヘーゲン!」

ボクは魔法でヴォルフリック兄上の力と速度を上げ、補助に回る。

「小賢しい! 大砲カノーネ!」

魔王が魔法の弾丸を放つ、兄上は後ろに飛び魔法をかわす。

「まずは貴様からだヴォルフリック! トート!」

魔王が続けざまにトートの魔法を放った。

まずい! トートの魔法は光の魔力が強くないと確実に効いてしまう! ヴォルフリック兄上は光属性じゃない!

ゲームではヴォルフリック兄上と魔王戦のとき、魔王がトートの魔法を使う事がなかったので油断していた。

ここはゲームの世界ではなく、現実の世界なのに!

トートの魔法が黒い文字となり兄上の体にまとわりつく、ヴォルフリック兄上が床に膝をついた。

「ヴォルフリック兄上!」

ボクはヴォルフリック兄上に駆け寄った。

「ヴォルフリックがいなければ貴様など敵ではない! いたぶりながらゆっくりと殺してやる! それともお前の愛するヴォルフリックの死体の前で犯してやろうか? 男を抱く趣味はないが、女のような容姿のお前なら楽しめそうだ! アーーハッハッハッハッハッハッハッッ!!」

魔王がボクを見下ろし高笑いする。

ヴォルフリック兄上が死んじゃう! 涙で視界がゆがむ。

ボクは兄上を抱きしめ、兄上の額に口づけた。死なないでヴォルフリック兄上!

ヴォルフリック兄上の額が光り、兄上の体にまとわりついていたトートの呪文を弾いた。

「なに!!」

魔王が目を見開く。

兄上の額にPに似た文字が浮かぶ。その文字はPウィンと呼び、「喜び」という意味のルーン文字だとなんとなく分かった。

「くそっ! シュトラールの仕業かっ! 今まで見てみぬふりを決め込んできた日和見主義の光の精霊が、余計なまねを……!!」

魔王が顔をしかめる。

シュトラール様がヴォルフリック兄上に授けた二つ目のルーン文字って、Pウィンだったんだ。

「ヴォルフリック兄上、ご無事ですか!?」

ヴォルフリック兄上の手を握る。

「大丈夫だ、癪(しゃく)だがシュトラールに救われた」

兄上が苦笑いを浮かべ、ボクの頬を撫でた。

ヴォルフリック兄上は死の魔法を弾き返した。トートの魔法がなければ、魔王攻略はかなり楽になる。

「今度はこちらの番だ!」

ヴォルフリック兄上が魔王鋭く睨みつけ、バスタードソードを手に襲いかかる。

光の矢リヒト・プファイル!」

ボクは魔法を放ち兄上の援護にまわる、無数の光の矢が魔王の退路を塞ぐ。

「力(クラフト)!! 力(クラフト)!!」

力(クラフト)の魔法を二度がけする、これで兄上の攻撃力は四倍。

「これで終わりだ!」

ヴォルフリック兄上が床を蹴り飛び上がる。

落下の威力を加え兄上が剣を振り下ろす。

魔王は呪いの剣フルーホ・シュヴェールトを構え防ぐ、兄上のバスタードソードが呪いの剣フルーホ・シュヴェールトごと魔王を切り裂いた。



◇◇◇◇◇
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