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六十二話「魔王城」

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ゲームで何度も訪れ、攻略した魔王城。

トラップの位置も宝箱の位置も全て把握している。

ひとくいばこを避け、有益なアイテムの入っている宝箱が開け、魔王のいる玉座の間を目指す。

ひとくいばこは有益なアイテムをドロップすることが多いが、「トート」の魔法を使う。「トート」の魔法はボクやヒロインのソフィアのように、光の魔力が強ければかからない。

ヴォルフリック兄上のように光属性でなかったり、ワルフリート兄上やティオ兄上のように光の魔力が弱いとかかってしまう。

トート」の魔法にかかれば、名前の通り即死する。ここはゲームではない現実の世界だ。ヴォルフリック兄上のいない世界なんて考えられない、ひとくいばこを避けるのが賢明だろう。

ワルフリート兄上もティオ兄上、きっと玉座の間の近くに囚われているはず。

「エアネストはここに来たことがあるのか?」

「えっ?」

「歩みに迷いがない、まるでこの城のことを知り尽くしているようだ」

兄上の言葉にギクリとした。

まさか「ここは前世でプレイしたゲームの世界なんです。だから道順を知ってるんです」とは言えない。

「なんとなくこっちかなって……」

苦笑いを浮かべ言葉を濁す。

「なんとなくか、シュトラールから授かった太陽シゲルのルーンの力か? それとも光の魔力を持つものには魔王の居場所がわかるのか?」

「そんな感じでしょうか……」

曖昧に答えその場を取り繕う。とてもではないが本当のことは言えない。


◇◇◇◇◇


玉座の間の手前の部屋から、懐かしい気配がした。

扉を開けると重々しい鉄格子があり、中にワルフリート兄上とティオ兄上が捕らえられていた。

「ワルフリート兄上! ティオ兄上!」

鉄格子に駆け寄ると、兄上たちがこちらに気づいた。

「ソフィア? いやエアネストか? 金色の髪、濃い青い瞳……良かった光の魔力が戻ったのだな!」

ティオ兄上が安堵(あんど)の表情を浮かべ、深く息を吐く。

ティオ兄上はボクの魔力がなくなったことを、気にしてくださっていたのだろうか?

「エアネスト! エアネストなのか!? やはりエアネストには輝くような金の髪と深い青い目が似合うな! 相変わらず美しい、しばらく見ない間に色気も加わった」

ワルフリート兄上が上から下までなめるように見る。背筋がゾクリとした。

「男を知ったか? 口惜しいなエアネストの初めてはオレが……いや今はそれどころではなかったな。助けに来てくれたのだろう? 早くここから出してくれ!!」

ワルフリート兄上がボクに触れようと手を伸ばす。

ヴォルフリック兄上がボクの腕を掴み、ボクを鉄格子から遠ざけた。ヴォルフリック兄上がボクを隠すように前に立った。

「エアネストに気安く触るな! お前らの目に入れていい相手でも、話しかけていい相手でもない!」

ヴォルフリック兄上がワルフリート兄上に射るような視線を投げる。ヴォルフリック兄上はワルフリート兄上を警戒しているようだ。

ボクも今のワルフリート兄上と一緒にいるのは遠慮したい。魔王城に囚われている間に精神を病んでしまったのだろうか? ボクを見る目がギラギラしている。

「お前らを檻(おり)から出すのは、魔王を倒した後だ」

「ヴォルフリック兄上、みんなで戦った方が……」

「足でまといはいらん」

ヴォルフリック兄上の言葉にも一理ある。

ワルフリート兄上とティオ兄上は、ボクやソフィアほど光の魔力が強くない。

ワルフリート兄上に至ってはザコ敵のエンカウント率が上がり、経験値が高い敵や、レアアイテムを持っている敵とのエンカウント率が下がるオマケ付きだ。

その上ワルフリート兄上はレベルを上げるのに他キャラの倍の経験値がいり、力が強いだけで覚える技がしょっぱい。誘惑、混乱系の魔法に百パーセントかかる。

混乱や誘惑の魔法にかかったワルフリート兄上は、馬鹿力で仲間を攻撃してくる。

ワルフリート兄上の混乱や誘惑を防ぐアイテムが手に入るのはクリア後で、プレイヤーにソフィア一人で旅した方がはるかに楽と言わしめた、はずれ……攻略難易度の高いキャラなのだ。

ゲームのワルフリートの声はベテランの売れっ子声優が当てるはずだったが、その声優が麻薬の使用で逮捕され、急きょ代役になった声優がものすごい棒読みの上に音痴で、人気が出なかった。

それでもワルフリート推しの神絵師が一人いて、二次創作ではそれなりに人気があった。

神絵師が交通事故に遭い左手を怪我したのと、受験で二次創作活動を退いた時期が重なり、「ワルフリート推しの神絵師が交通事故で利き手に致命的な怪我をおい二度と筆が持てなくなった」とか、「死亡した」という噂が流れ。

時を同じくしてワルフリートの声を担当した新人声優の不倫が発覚し、仕事を干され、同時期に持病が悪化し入院したこともあり、ワルフリートに関わると呪われるという都市伝説が生まれた。

前世のボクも、リメイク版の「宝石箱の王子様~愛をささやいて~」では、ワルフリートを攻略しなかった。呪い怖いし。

ワルフリート兄上に比べると、ティオ兄上はそこまで不遇でも使えないキャラでもない。

だけどティオ兄上だけを檻から出し、ワルフリート兄上を檻に入れておくわけにはいかない。

ごめんなさいワルフリート兄上とティオ兄上、魔王を倒すまでそこにいてください。

「オレを鳥かごのような狭い場所に閉じ込めておく気かっっ!? オレはエーデルシュタイン国の第一王子だぞ!」

ワルフリート兄上が吠える。

「先ほども言ったように足でまといはいらん! お前らが魔王の手先ではないという確たる証拠もないしな」

「なんだと!」

ワルフリート兄上がヴォルフリック兄上を恨みのこもった目でねめつけた。

「ヴォルフリック兄上、それは言い過ぎですよ」

ワルフリート兄上とティオ兄上が、魔王の手先だなんて信じたくない。

「いやヴォルフリックの言うとおりだ。僕と兄上は、お前たちの足でまといになる。魔王は玉座の間にいるはず、お前たちだけで行け」

ティオ兄上がヴォルフリック兄上の言葉を肯定した。

ティオ兄上がワルフリート兄上の意見に背いたのを、ボクは初めて見た。

「ティオ、お前!」

ワルフリート兄上がティオ兄上の胸ぐらを掴む。

「ワルフリート兄上、僕は事実を申し上げただけです。手を離してください」

ティオ兄上がワルフリート兄上の手を振り払い、腕をひねる。

ワルフリート兄上が苦痛に顔をゆがめる。

ワルフリート兄上はレベルを上げるのに他キャラの倍の経験値が必要、今までの旅で二人が得た経験値が同じなら、ワルフリート兄上のレベルはティオ兄上より低い。

「僕たちの事は気にするな、早く行け!」

ティオ兄上にうながされ、ヴォルフリック兄上がきびすを返す。

ボクはヴォルフリック兄上に手を引かれ、部屋をあとにした。

ワルフリート兄上とティオ兄上は生きていた。

けんかをする元気もあるみたいだし、少なくとも健康面の心配はないかな。


◇◇◇◇◇
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