【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ

文字の大きさ
上 下
51 / 83

五十一話「ボクは怒ってるんですからね!」

しおりを挟む
ヴォルフリック視点


◇◇◇◇◇


シュタイン領を離れて三日、街道沿いの道を進み、いくつかの宿駅(宿屋、貸馬屋、酒場をかねた建物)を越えた。

黒い馬がトロトロと歩き、文字通りあちこちで道草を食うので、シュタイン領からそんなに離れていない。

何が魔王城までの近道を知っているだ。道草を食うだけの駄馬ではないか!

どこかで売ってしまおうかとも思ったが、この馬はエアネストがシュトラールからもらったもの。

売ってしまったらエアネストが悲しむ。

旅に出てから毎日、エアネストの事を考えている。

今頃どうしているだろう? 食事を取っているだろうか? 風呂に入っているだろうか? 部屋にこもりきりでいるなら、私が旅立ったことにすら気づいていないだろう。

よからぬ輩にだまされ、いかがわしいことをされていないか?

不安にかられ、シュタイン領に帰ろうと思ったこともある。

だが帰ったところで、私はエアネストに何もしてやれない。

シュタイン領には家令のカールや御者のハンクがいる。使用人や民にも慕われている。あそこにいる限り、安全だろう。

日が暮れたので、先に進むのを諦め近くにあった宿駅に泊まる。

宿で一番ましな部屋をとり、一息つく。

初日は黒い馬を宿駅の馬屋につなぐことに不安があった。盗まれるのではないか? 傷つけられるのではないかと。

だがあいつは、誰かに盗まれそうになったら自分で撃退し、時に従順に盗人についていき、そいつらを谷底に突き落としてくるような馬だった。

シュトラールに授かった馬、そこらの馬とは違う。放っておいても問題ないだろう。

一階の騒がしさが耳に届く。酒場を兼ねた宿屋のカウンターの方から聞こえる。

また馬泥棒が出たのか? それとも酔っぱらい同士の喧嘩か? どちらにしても私には関係ないことだ。

ベッドに横になろうとした時。

「お嬢ちゃん、子供は一人で泊まれないんだよ」

「ボクは男です、それに子供ではありません!」

「うそを言っちゃいけないよ、こんな可愛らしい顔をした男がどこにいる? どう見ても十二歳ぐらいの女の子にしか見えないよ」

「ボクは男です! 年も十四歳です!」

「とても十四歳には見えないな、坊や悪いことは言わないお家に帰りな。ここはお嬢ちゃん……いや、お坊ちゃんのような、育ちのいい人間が泊まるところじゃないよ!」

子供が宿に泊まりたくて、酒場の人間ともめているらしい。

普段なら聞き流すが、この声には聞き覚えがある……!

「兄を探しているんです! 外に兄の馬がありました、兄に会わせてください!」

ベッドから飛び起き、扉を乱暴に開け、階段を駆け下りた。

「エアネスト……!」

「ヴォルフリック兄上……!」

白いフードを目深にかぶっているが、見間違えるはずがない! カウンターにいたのは、私の弟で最愛の人……エアネストだった!

私を追ってシュタイン領から来たというのか? しかも一人で?

嬉しさと困惑が入り混じる。

私はエアネストに拒絶されたはずでは?

「なぜここに来た?」

久しぶりの会話なので、どう接していいかわからず、冷たい言い方になってしまった。

「兄上が一人で旅に出るから、追ってきました」

面と向かって話すのは久方ぶりだ。ずっと避けられていたから、こんな会話でも嬉しい。

「宿屋の店主に言われただろう? ここはお前のような育ちのいい人間の来る場所ではない」

「育ちなら兄上だって……」

「はいはい、兄弟げんかならよそでやってくれ。保護者がいるなら泊まってもいいよ、宿代は前払いだ」

エアネストはポケットの中に手を入れ、

「お金を持ってませんでした」

困った顔で言った。

一体どうやってここまで旅してきたんだ? よくここまで無事に来れたものだ。深い息が漏れる。

ふと気がつくと酒場にいた連中が、ギラギラした目でエアネストを見ていた。そいつらを牽制(けんせい)し、エアネストの腕を掴む。

エアネストを、いつまでもこんな場所に置いておけない。

宿の店主に一人分の宿賃を支払い、エアネストを私の部屋に連れて行く。

エアネストを大衆の目にさらしたくなくて、部屋に入れたのはいいが、エアネストと二人きりになってしまった。

エアネストにはあれ以来ずっと避けられており、この一カ月会話どころか、まともに目も合わせていない、非常に気まずい。

エアネストも私と二人っきりになったことに緊張している……はず?

「ヴォルフリック兄上、ボクは怒ってるんですからね!」

エアネストにいきなり詰め寄られた。

私に襲われたことがトラウマになっていたのではなったのか?

「光の魔力も持たない兄上が、一人で魔王討伐の旅に出るなんて無謀です!」

エアネストは、私が一人で魔王討伐の旅に出たことを知り、怒っているらしい。

「なぜ私が魔王討伐の旅に出たことを知っている?」

「シュトラール様に聞きました」

シュトラールがニッコリとほほ笑んでいる顔が脳裏に浮かぶ。人の良さそうな笑顔を浮かべ、他人をいいように操る、あいつのやりそうなことだ。

「私に言わせればお前の方が無謀だ。金を持たずに旅に出るやつがいるか? 屋敷の者にはきちんと旅に出ることを説明してきたんだろうな?」

「それは……その」

エアネストが私から顔を逸らし、視線をさ迷わせる。どうやら無断で出てきたようだ。

今頃、エアネストがいなくなったと皆大騒ぎしているだろう。

頭が痛くなってきた。なんてむちゃをするんだ。

領主が一人で、しかもエアネストのような世間知らずの子供が一人旅に出ると言ったら、屋敷の人間が止める。

「明日の朝一番にお前をシュタイン領に送り返す、旅に出るのはそれからだ」

「嫌です、ボクも行きます」

エアネストは愛らしい見かけに反して、頑固だ。

「光魔法も使えない、剣の腕も立たないお前を連れていって何になる?」

「光魔法なら使えます」

エアネストが目深にかぶっていたフードをとる。

太陽のように光る金色の髪と、サファイアのように輝く青い目があらわになる。

「光の魔力が戻ったのか?」

「シュトラール様にSシゲル(太陽)のルーンをもらいました」

「そうか」

光の魔力の戻ったエアネストを、国王も王妃も歓迎するだろう。

落ちついたら、王都に送り届けるようにカールに命じよう。いま王都に行けば、魔王討伐の旅に出される。

光の魔力を失い、王都を追われたエアネストの力になりたかった。だがもうその必要はないようだな。

「お前をシュタイン領に帰す」

「お断りします! ボクも兄上と一緒に魔王討伐の旅に出ます!」

「危険な旅だ」

「承知の上です」

「足手まといだ」

「兄上の方こそお忘れですか? 魔王には光魔法しか効かないのですよ」

「ならば王都に行き騎士団でも連れて行け! 私と一緒に来るな!」

「賛同できません! 城に戻り魔王の討伐隊を組んでる間に、兄上の身に何かあっては困ります!」

「私のことなら心配いらない!」

「大丈夫ではありません!」

話は平行線をたどった。エアネストはどこまでも引くつもりはないらしい。

とりたくはないが最後の手段だ。

私はエアネストをベッドに押し倒した。

年季の入った木造のベッドが、ふたりぶんの重さにギシギシと音を立てる。

「私はお前を犯したい、それでも私と一緒に来るというのか?」

危険な旅に巻き込みたくないとはいえ、悪手だった。これでエアネストに完全に嫌われてしまったな。


◇◇◇◇◇
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...