【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ

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四十九話「太陽《シゲル》」

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「それでエアネスト、あなたはどうしたいのですか?」

「どうと言われても……」

光魔法も使えない剣術の腕もそれなりなボクが行っても、ヴォルフリック兄上の足手まといになるだけだ。

「ボクが行っても、兄上の足を引っ張るだけです」

「そうですか、あなたに光の魔法が戻ったとしても?」

「えっ?」

ボクが瞬きしてる間に、シュトラール様の唇がボクの額に触れていた。シュトラール様、おっとりとした見かけに反して素早い! 微動だにできなかった。

アルファベットの「S」似た文字がボクの頭に浮かぶ。

「シゲル……」

それがルーン文字の読み方なんだろう。

「シゲル」と言葉にした瞬間、体の奥底から何かが湧き上がってくるような感覚に襲われた。

体中から魔力がみなぎってくる、この感覚は一体……?

「泉に自分の姿を映してみてください」

シュトラール様に言われるままに泉の前に立つ。

「あっ……」

泉には光魔法を失う前のボクが映っていた。

太陽のように輝く金色の髪、サファイアのように澄んだ青い目。

金髪碧眼のものが多い王族にも、めったに現れないプラチナブロンドの髪と深いブルーの瞳。

兄上に光の魔力を譲渡したことで、失われた二つの色。

「なぜボクに光の魔力を戻したんですか?」

それが正直な感想だった。

父親や母親や兄上達の本性を知ってしまった。

光の魔力が戻ったボクを見たら、また前のようにちやほやしてくるだろう。

でもそれは「ボク」にではなく、「光の魔力」に対して媚(こ)び諂(へつら)っていただけなのだ。

城に戻ってもつらいだけだ。

「シゲルのルーン文字の意味は『太陽』、あなたに私の光の力の一部を授けました。光の魔力が戻ったら喜ぶと思ったのですが、あまり嬉しくないようですね」

「そんなことは……」

少なくともこれで魔王に対抗できる、ヴォルフリック兄上の力になれる。

ヴォルフリック兄上がボクを愛していなくても、魔王に一人立ち向かう兄上を見捨てられない。

「あなたに光の魔力が戻ったら、ヴォルフリックが罪悪感から解放され、あなたの元を離れていってしまうからですか?」

さすが精霊、すべてお見通しというわけか。

ボクはヴォルフリック兄上に愛されていない。

それでもボクは、ヴォルフリック兄上の罪悪感にすがり付きたい。ボクへの罪悪感があるうちは、兄上がボクから離れて行くことはない、離れてもいつか帰ってくる。

愛されていなくても、ボクの側にいる理由が罪悪感でも、兄上を手放したくない。

性行為を拒否し、その後の接触を拒んでおいて、ボクは身勝手だな。

兄上が自分の側にいるのはつらい、だけど自由にはしたくない。最低だ。

「いけませんか?」

今は愛のないセックスを強要しようとした、兄上に対するわだかまりがあって、素直にはなれない。

「そもそもあの子は……ヴォルフリックは、本当にあなたを愛していなかったのでしょうか?」

「えっ?」

シュトラール様からの予想外の質問に目を瞬かせる。

「私にはあの子が、あなたのことを誠心誠意愛していたように見えましたが」

「ええっ?!」

兄上がボクのことを愛していた? そんなはずは……?






『エアネストは私が好きか?』

『えっ?』

『好きかと尋ねている』

『好きです、大好きです!』

『私もそなたを愛おしいと思っている』







……思い当たる節がある。

兄上がボクを抱きしめたり、キスするようになったのはあの会話の後だ。

兄上がボクに光の魔力を戻そうと思ってキスしたのは、最初の一回だけ? その後の口づけは、ボクと両思いだと認識した兄上が、愛情表情でしていた!?

あの時ヴォルフリック兄上は、弟として家族として「愛おしい」と言ったのではなく、恋愛対象として「愛おしい」と言った??





『私の幸せはエアネストの側にいることだ』

『えっ?』

『永久にお前の側にいたい、許可してくれるか?』

『もちろんです兄上、兄上さえ宜しければずっとボクの側にいてください』

『エアネスト、私はお前の側を絶対に離れない!』

『私はお前がこの世界の何よりも愛おしい』






「ああっ……!」

身に覚えがありすぎて恥ずかしさで立っていられなくなった。ボクの顔が耳まで赤くなる。

兄上は最初からボクを「好きだ」と、「愛している」と言ってくださっていた。それなのにボクはずっと気づかなくて……!

「穴があったら入りたいとはこのことだ……!」

頭を抱えうなるボクに、シュトラール様の檄が飛ぶ。

「穴に入っている場合ですか? あなたにはやるべきことがあるでしょう?」

シュトラール様の言葉にはっとする。

「シュトラール様、ボク、兄上の後を追います!」

ボクの言葉にシュトラール様が穏やかにほほ笑む。

「道はそこの馬が知っています」

泉のそばで草を食べていた白馬にまたがり、ボクは兄上のあとを追った。

ヴォルフリック兄上がどれくらい前に出発したのか分からない。旅の準備もしていない、お金もない、屋敷のものにも何も伝えていない。そんな状況で単身で旅に出た。

ヴォルフリック兄上と再会したら、また叱られてしまうな。

ボクの無鉄砲さは一生治らない気がする。


◇◇◇◇◇
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