42 / 83
四十二話「サンドイッチ」
しおりを挟む「はぁ……」
馬車に揺られながら、ボクは深く息を吐いた。
「どうした、エアネスト?」
兄上が心配そうにボクの顔をのぞき込む。
「人々に感謝されることに、なれてなくて」
先ほど農民たちに神のように崇められ、気づかれしてしまった。
「少しは私の気持ちがわかったか?」
兄上が苦笑いを浮かべる。
祖父のラグ様譲りの銀色の髪に、紫の目を持つヴォルフリック兄上。どこに行っても人々に珍しがられ注目を浴び、「銀の髪を目にしただけでもご利益がある」と言って拝まれることもある。
見ず知らずの人に突然拝まれるのはつらい。今回の件でそれがよくわかった。
「はい」
力なく返事をすると、ボクの頭を兄上が撫でた。
「皆、お前に感謝しているのだ」
「それは分かっているのですが……」
ひざまずかれ拝まれると、こそばゆい気持ちになる。
「まだなれなくて」
「なれなくてもいい、初々しいところがお前のよいところだ」
兄上がボクの額にキスを落とすと、くすぐったくて目を細めてしまう。
至近距離に兄上の唇があり、キスをしたいなぁと思い眺めていたら、「ぐ~~!」と音を立てボクのお腹が盛大に鳴った。
「ホッとしたらお腹がすきました」
そういえば朝食を食べていなかった。昨日の夜馬車の中で寝てしまったから、夕飯も食べていない。
「お弁当を食べてもいいでしょうか?」
さっきまで死の荒野でなにかあったのかと、心配していたから、お腹が空いているのを忘れていた。
「私が食べさせてやる」
兄上がくすりと笑い、長い指でバスケットを開ける。
「何が食べたい?」
「サンドイッチ」
兄上がサンドイッチを手に取りボクの口に運んでくださる。
美味しい、野菜のシャキシャキ感と、ハムの食感がちょうどいいバランスだ。
「うまいか?」
「はい、とっても」
笑顔で返すと、兄上がふわりとほほ笑んだ。美味しかったのは、兄上が食べさせてくれたからというのもある。
「ヴォルフリック兄上も召し上がりますか?」
「ああ」
「ではボクが食べさせてあげます」
ボクが新しいサンドイッチを取ろうとすると、兄上に止められた。
「お前の食べかけがいい」
手をつけてないサンドイッチがあるのにボクの食べかけがいいの? 兄上って変わってる。
「分かりました、あーんしてください」
兄上の手からボクの食べかけのサンドイッチを受け取り、兄上の口に運ぶ。
ヴォルフリック兄上の形の良い口が上品に開き、サンドイッチ咀嚼していく。サンドイッチを食べ終えた兄上が、ボクの指をしゃぶった。
「兄上……?」
ボクの指を食べても美味しくないですよ?
兄上の口から解放されたボクの指は、てらてらに光っていた。
指をなめられ、ボクの心臓はドキドキしていた。キスするのとは、違ったときめきがあった。
「うまかった」
兄上がボクの目を見てニコリと笑う。兄上はとても機嫌がよさそうだった。
サンドイッチがそんなに美味しかったのかな?
そんな感じでご飯を食べさせあっているうちに、馬車は精霊の森に着いた。
昨日精霊の森に拒まれた兄上は、今日も外で待つと言う。
精霊にはおそらくボクしか会えないので、カールとルーカスも留守番することになった。
森に入る前に、兄上に抱きしめられた。
「兄上?」
「お前が何て言おうと、いかなる邪魔が入ろうと、シュタイン邸に帰ったらお前を抱く、覚悟しておけ」
兄上に耳元でささやかれ背筋がゾクゾクとした。
抱くって抱きしめるって意味だよね? 今兄上はボクを抱きしめているよね?
抱きしめるとは違った意味の「抱く」があるのかな?
兄上が言った言葉の意味はよくわからない。でもきっと屋敷に帰れば分かるよね。
ボクを見送る兄上の笑顔が怪しいほど綺麗で、ボクの心臓がドキドキとうるさかった。
◇◇◇◇◇
14
お気に入りに追加
2,611
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる