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三十七話「B《べオーク》」
しおりを挟む帰りは迷わずに馬車のところまで帰れた。
まるで森の木々が「こっちだよ」と、道を教えてくれてるように。
「エアネスト!」
「ヴォルフリック兄上」
森を出ると、森の外にいたヴォルフリック兄上に抱きしめられた。
「心配していたのだ、一人で行くな!」
「ごめんなさい」
兄上にギューっと抱きしめられ、叱られた。
「兄上が後ろからついて来てくださると思って……」
はぐれてしまうと分かっていたら、兄上と手を繋いで森に入ったのに。
兄上がボクの言葉を聞いて、悲しそうなお顔をした。
「兄上?」
「入れなかった……」
「えっ?」
「お前の後を追い、森に入ろうとして結界のようなものにはじかれた」
「そんな……」
兄上が悲痛に満ちた面持ちで、眉根を寄せる。
「魔王の血を引く私は、神聖な森にふさわしくないということらしい」
「そんなことは……」
ないと思いたい。精霊の森が兄上を拒否したなんて。
森が拒否したのかな? それとも森で会った精霊様が拒絶した?
「あの、兄上……」
森で精霊様に会ったことを兄上にお伝えした方がいいかな? もしかしたら兄上のお祖父様のラグ様かもしれないし。
「エアネスト様、お戻りでしたか!」
「エアネスト様、探しましたよ!」
その時森から、家令のカールと、御者のハンクとルーカスが出てきた。
「カール、ハンク、ルーカス」
「三人はお前を探しに、森の中に入ったのだ」
兄上が説明してくれた。
「そうだったんですね。すみません、みなに心配をかけました」
ボクは三人に謝罪した。
「そんなこと、気になさらないでください」
「エアネスト様が、ご無事でなによりです」
三人はにっこり笑って許してくれた。
兄上以外は精霊の森に入れたんだ。
おそらく泉まで行けたのは、ボクだけだろうけど。
「カールに聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょうか?」
「この森に泉ってある?」
カールが困った顔で首をかしげた。
「川があるのは存じておりますが、泉があるというのは初めて聞きました。この森に詳しいものにも尋ねてみます」
「うん、ありがとう」
この土地の家令をしているカールが知らないんだ。多分他の人も知らないだろう。
めったに行ける場所じゃないんだろうな。精霊様の機嫌しだいなのか、精霊様が人を選んでいるのか、それはわからないけど。
「とにかく今日は屋敷に戻るぞ、直(じき)に日が暮れる」
兄上に言われ空を見ると、日が西の山に半分以上沈み、薄暗くなりかけていた。
「兄上その前に死の荒野に行きたいのですが」
精霊の泉で手に入れた、「B」の文字。
べオークの文字は形を変え、ボクが握っている白樺の枝になった。
精霊様は白樺の枝を北の荒野に植えろとおっしゃった。
北にある荒野とは、死の荒野のことだろう。
「今から死の荒野に行かれるのですか? 危険です! あそこにはモンスターが出ます、夜は凶暴化します! 明日の朝になさった方が……」
家令のカールが忠告してくれた。
普通に考えて今から行くのは無謀だ。
だけどボクの手にある白樺の枝が、今すぐそこに行きたいと言っているような気がするのだ。
「お前がどうしても行きたいと言うなら私が手を貸す。案ずるな、モンスターぐらいバスタードソードで一刀両断にしてくれる」
兄上がボクの肩に手を置き、ニコリと笑う。
「兄上!」
ボクがパァっと顔を輝かせると、兄上がよしよしとボクの頭を撫でてくれた。
やはり最後に頼れるのは兄上だ。
◇◇◇◇◇
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