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十八話「第一王子と第二王子」
しおりを挟むヴォルフリック視点
◇◇◇◇◇
王が王なら家臣も家臣だ。この城にはろくな奴がいない。
アデリーノのような男もいるから、全員がろくでなしというわけでもないが。
御者まで、元王子に対し邪な思いを抱くような城ではエアネストを一人にできない。
牢を後にし、エアネストの部屋へと急いで戻る。
エアネストの部屋の近くまで来た時、廊下から話し声が聞こえた。この声には聞き覚えがある。
「本気ですかワルフリート兄上?」
「もちろんだ」
壁の影に身をひそめ、相手の様子を伺う。
「いくら見目がよいとはいえ、弟に懸想(けそう)しますか?」
「エアネストは類(たぐい)まれな美少年だ、弟とか関係なく犯したくなるだろ」
どいつもこいつも、本当にこの城の人間には反吐(へど)が出る。
「あいつは今まで父上や王妃に可愛がられていたから手をだせなかった。だがいつか泣かせてやりたいと思っていた」
ワルフリートが苦々しそうに眉根を寄せる。
「まあ僕もそう思ったことは、何度かありますが」
ティオが人差し指でメガネを押し上げる。
「エアネストは金色の髪と青い目を持っていた以外に取り柄がなかっただろ? へんぴな土地に送られて、泣きべそかくのが関の山だ。精神的に弱っているところを野蛮な男に襲われて無理やり犯される未来が見えるね。御者のブロックだっけ? あいついやらしい目でエアネストを見てたからな、侯爵領につく前にあいつに襲われるかもよ。それなら俺がやさし~~く処女を奪ってやった方が、エアネストのためだろ?」
ワルフリートが舌なめずりをする。
「兄上の気持ちも分からなくはありませんが、いくら見目がよくても弟を抱く気にはなれませんね」
ティオが苦笑する。
「エアネストも辺境の土地に送られて、侯爵なんかやるぐらいなら、王都にいて俺にしっぽを振って、俺の靴の裏を舐める犬になった方が百倍ましだって思うさ」
「エアネストがそう簡単に言うことを聞くでしょうか? あいつ見かけによらずプライドが高いですから」
「俺の男根をエアネストの下の口に突っ込んで、い~~っぱい泣かせてやれば、従順になるさ、そうなるように躾(しつけ)てやるのが飼い主の仕事だろ? プライドの高いやつを泣かせる方が興奮するぜ!」
ワルフリートがアハハと高笑いし、ティオがそれに合わせるようにくすくすと笑う。
「それはちょっと、見てみたいですね」
「特等席で見せてやるよ! 観客がいたほうがエアネストだって喜ぶだろ! なんなら城に仕える独身の男全員が見ている前で、犯してやってもいいな!」
「それは趣味が悪いですよ兄上、最初のやさしく処女を奪うという名目はどこに行ったのですか?」
「ああ? 俺そんなこと言ったっけ?」
「兄上に手込めにされるエアネストも大変だ。もっとも同情はしませんが」
だめだこいつら見てると殺意が湧いてくる。
「おい!」
背後から声をかけると、ワルフリートとティオが驚いた様子で振り向いた。私の存在に気付き目を見開く。
奴らが何か喋る前に、バスタードソードが空を斬っていた。
「ひゃあああっ!」
「うわぁあああっ!!」
ワルフリートとティオの服を切り裂く、服の残骸が床に落ちる。
母上の形見のバスタードソードで、一番最初に斬ったものがこいつらの服とはな。ひどくつまらないものを斬ってしまった。
「服だけを斬るつもりだったが、余計なところまで切ってしまったな」
ワルフリートの肩から腕にかけて数十センチ、ティオの左腕を数センチほど斬った。二人の傷口から血がにじみ出る。
二人が傷口を手で押さえる。大事なところを隠すのを忘れているから、下半身が丸見えだ。深くは斬ってない、回復魔法をかければ数日であとを残さず治るだろう。
「次はお前達の大事な物を切り落とそうか? それともおしゃべりな舌を切ってしまおうか? いっそのこと首を落とそうか?」
血のついた剣をワルフリートの首に向け、ニヤリと笑う。
「ひぇぇっ! 母上ぇぇっっ!」
「助けてください! 父上ぇぇぇっっ!!」
ワルフリートとティオが、真っ青な顔で逃げていく。
動揺しているのか、すっ裸であることを忘れている。
第一王子と第二王子が素っ裸で泣き叫びながら、城の中を走ったことは明日には城中の噂になるだろう。
そうなれば奴らは城中の笑いものだ。プライドの高いあいつらには死ぬよりも辛い罰になる。
少しだけ留飲が下がった。
アデリーノに部屋を用意してもらおうと思ったがやめた。
あんなアホが一つ屋根の下に住んでいるのでは、エアネストの身が危険だ。
今日はエアネストの部屋の前で寝ずの番をすることにしよう。
◇◇◇◇◇
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