【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ

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十四話「玉座の間、国王との謁見④」

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「あなた方はなにも変わっていない」

ヴォルフリック兄上のうなるような低い声が玉座の間に響いた。

「不服があるなら申してみよ、ヴォルフリック」

父上がヴォルフリック兄上を身じろぎせずに見る。

「エアネストを侯爵にするだと? 王子であれば公爵の身分がふさわしい、それを侯爵の身分に落とし辺境の地に追いやると言うのか!」

ヴォルフリック兄上が今にも人を殺しそうな鋭い目つきで、父上を睨みつける。

「私の髪が黒くなったら不吉だといい、牢に押し込め! エアネストの髪が茶色になったら、いやしい色だと言い王位継承権を剥奪する! あなたはあの頃と何も変わっていない!」

ヴォルフリック兄上が、射るような眼差しを父上に向ける。

父上が眉間にしわを寄せ、額に青筋を立てた。

ワルフリート兄上とティオ兄上が青い顔でお互いの顔を見合い。母上が口に手を当て悲鳴を上げた。

ヴォルフリック兄上の髪が黒かったことも、牢屋に閉じ込められていたことも三人は知らないのだ。

「黙れヴォルフリック! それが父であり王である予に対する口の利き方か!」

父上の怒号がとぶ。

「銀の髪であれば精霊の子と言って崇め、漆黒の髪になれば不吉だと言い忌み嫌い幽閉する! 今また金の髪と濃紺の目を失った弟を辺境の地へ追いやろうとする! そんなあなたを父親として王として尊敬できるとでも?」

「銀髪に戻った途端に随分と強気な物言いだな」

父上が奥歯をぎりぎりと噛む。

「一度すべてを失った私には怖いものなどない。それに今の私は偶然にですが雨が降ったことにより、民の信頼を得ておりますゆえ」

兄上が不敵な顔に笑みを浮かべる。

「民の支持を元に私を脅すか、もともとはお前を殺そうと集まった民だぞ」

「エアネストのためなら使えるものなら何でも使います。私のたった一人の可愛い弟ですから」

「変わったな、幽閉されていた時は自分以外を全て拒絶し否定していたお前の口からそんな言葉が出るとはな」

「人は変わる。今は陛下を支持している民の心も明日はどうなるか分かりませんよ。銀髪紫眼の私を神のように崇めている連中だ。私を怒らせない方が身のためですよ」

父上と兄上の間にバチバチと火花が飛んでいた。

「ヴォルフリックお前のその言動、お前の髪の色が戻った事と、エアネストが金髪でなくなったことには関わりがあるのだな?」

父上の言葉に、母上が兄上に目を向ける。

母上の目が驚きに見開かれ、ヴォルフリック兄上をキッと睨みつけた。

母上のヴォルフリック兄上に対する怒りは、ボクのためではなく、息子の髪が茶色に変わり、自分の面目がつぶされたことによるものだ。

ボクを見捨てたくせに、母上にヴォルフリック兄上を憎む資格はない。

「そうだとしても陛下に教える義理はありません」

「ヴォルフリック、お前が精霊の血を引いていなければ追放しているところだ」

「牢に入れられるのも追放されるのもさして変わりはない」

空気がピリピリしている。

ヴォルフリック兄上の髪と目の色が元に戻ったから、父上と仲直りさせたかった。

ワルフリート兄上とティオ兄上とも仲良くなってほしかった。

仲を取り持つはずのボクが、みんなから軽蔑されている今、それは難しいだろう。

せめてこれ以上はこじれないようにしなくちゃ!

「止めてくださいヴォルフリック兄上、今すぐ父上に謝ってください!」

ボクはつないでいない方の手で、兄上の服の裾を引っ張った。

兄上が驚いた顔でボクを見た。

「私はお前の事を思って言っている、なぜ止める?」

「ボクのことはいいですから! ボクは王位を継げなくてもいいですし、侯爵の地位に落とされても構いませんし、侯爵領にも喜んで行きます! だからもう止めてください!」

ボクの言葉を聞き、兄上は複雑な顔をした。

だけどすぐに穏やかな表情に戻り「お前が言うのならそうしよう」と言って頭をなでてくださった。

ヴォルフリック兄上が父上に向きなおり、鋭利な視線を向ける。

「陛下、私の願いを一つ聞いていただきたい」

「さんざん暴言を吐いたあと何が願いだ」

「精霊の神子を地下牢に監禁し、その祟で雨が降らなかったと公表されたくないのなら、聞いたほうが賢明かと」

父上が苦虫をかみつぶしたような顔をした。

「申してみよ」

「エアネストが侯爵領に行くと言うのなら、同行する許可をいただきたい」

「貴様、何という口のきき方をする!」

「父上に対して無礼だぞ!」

ワルフリート兄上とティオ兄上が、ヴォルフリック兄上の態度に切れ、口を挟む。

「やめんか騒がしい!」

父上がワルフリート兄上とティオ兄上を制する。父上にしかられ二人の兄上はシュンとうなだれていた。

「ヴォルフリックこたび予に暴言を吐いた事は不問にふす。エアネストとともに侯爵領に行きたいと申すのならそれを許可しよう」

「父上、そんなわがままを許しても良いのですか!?」

先ほど父上に叱られたばかりなのにワルフリート兄上が父上に吠える。アホな人だ。

父上が険しい表情でワルフリート兄上をねめつけると、今度こそ静かになった。

「長い間塔に隔離されていたため一時の自由を味わいたいのだろう。病弱とはいえ何年もの間塔に押し込めておいた事への罪悪感もある」

父上は兄上を牢屋に監禁していた事をこの期に及んで認めなかった。あくまでも病弱のために塔に入れていたということにするつもりらしい。

「三年猶予をやろう国中を回ってみるといい。三年のち王都に帰還し予に仕えるように!」

精霊の血を引き、雨を降らせ民に神のごとく信仰されている兄上を敵には回したくないのだろう。表向き謝罪し、兄上の意見を受け入れた。

「前半部分は承知いたしました。後半部分はお断りします」

兄上の言葉に父上がまた苦虫をかみつぶした。

「エアネスト、お前は髪と目の色が元に戻ったら、いつでも帰ってきなさい。王太子の地位を用意して待っている」

「はい、父上」

返事をしたもののそんなことはありえない。それはボクが一番よく分かっている。

父上はボクのプラチナブロンドの髪と深い青色の目が気に入っていただけだった。

母上は自分の地位と子爵家の名誉の方が大事だった。

ワルフリート兄上とティオ兄上は、ボクが王位についた時恩恵に与ろうと、やさしい兄の振りをしていた。ボクが王太子候補から外され、ざまぁと思っている事がよく分かった。

ボクのことを本当に思っていてくださったのは、ヴォルフリック兄上だけだった。

つないだ手から伝わってくるヴォルフリック兄上のぬくもりが、心地よかった。


◇◇◇◇◇
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