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八話「一緒にお風呂」*
しおりを挟む兄上が上半身を起こす。
均整の取れたギリシャ彫刻のような肉体に思わず目を奪われる。
ぼくの筋肉の少ない華奢な体とは大違いだ。
「ところでどうしてボクたち、裸で同じベッドに寝ているんですか?」
ボクはシーツで体を隠しながら上半身を起こす。
「牢で倒れたお前を私がここまで運んだ。服は途中雨に濡れたので脱がせた」
「そうだったんですか」
いかがわしい目的だったのでは、とちょっとだけ疑いました。ごめんなさい。ボクは心の中で兄上に謝罪した。
「魔力がなくなり冷え切ったお前の体に回復魔法をかけていた」
兄上なんて優しい人なんだ! こんなにお優しい兄上を疑うなんて……! 心がズキズキと痛む。
「私の服も濡れていたので脱いだ、冷えは人肌で温めた方が良いと思い同じ寝具に入り抱きしめていた。迷惑だったか?」
「そんな迷惑だなんて! 助けてくださりありがとうございます!」
ボクは兄上に頭を下げた。
「お前に光の魔力が戻るかと思い、時おり口づけをしていたのだが」
「ええっ!」
ボクの顔がボンと音を立てて顔が赤くなる。
キスは目覚めたときの一回だけではなかったのか!
いや落ち着けボク、兄上はボクを助けてくれようとしてたんだ!
キスじゃない、あれは人工呼吸だ。人命救助だ! 変な意味はない!
「やはり迷惑だったか?」
兄上が眉を下げる。
「そんなことありません嬉しいです!」
心を閉ざしていた兄上がボクを助けようとしてくれた、すごく嬉しい! そうとわかっていてもちょっと恥ずかしいけど。
ボクの言葉に兄上が嬉しそうに目を細める。
ボクの胸がキューンと音を立てる。一推しキャラの笑顔が尊い。
「私は湯を浴びる、お前も一緒にどうだ?」
「でも父上に呼ばれていますし」
悠長にお風呂なんか入ってていいのかな?
「私は長年牢にいた、風呂にも入らずに王に会いに行く方が不敬であろう?」
確かに兄上の言うことにも一理ある。
兄上は久しぶりに父上にお会いするんだ。お風呂に入りさっぱりしてから会いたいよね。
「わかりましたボクも一緒に入ります」
◇◇◇◇◇
ボクの個室にはお風呂がついている、さすがは王子様。
三十畳ほどの浴室の床は大理石でできており。八畳ほどの湯船にはライオンをもした石像の口から、絶えず湯が注がれている。
その広い湯船の中でボクはなぜか兄上の膝に乗って入っている。密着度がハンパない。
兄上が時折ボクの髪をなで髪にキスしてくるので、くすぐったくってたまらない。
きっとあれだ。兄上は幼少の頃に牢に入れられたから、人との距離感がうまくつかめないんだ。
兄上の価値観は牢にいれられた九歳の時で止まってる。だからなんの疑いもなく弟と一緒にお風呂に入り、ゼロ距離で戯れてくるんだ。
この世界では十歳を過ぎたら、兄弟で一緒にお風呂に入らない。
だけどそのことを兄上に話したら、きっとお悲しみになる。
久しぶりに兄弟水入らずでお風呂に入っているんだ、今は黙っておこう。
兄上は家族の愛と、スキンシップに飢えているんだ。九年間の心の傷を癒やすためにも、気がすむまで触れ合いさせてあげよう。
兄上の長い腕がボクのおなかにまわり、後ろから抱きしめられても、首に軽くキスされても、耳たぶをかまれても「スキンシップ過多ですよ兄上!」と突っ込んではいけない!
そんなことを言ったら兄上が傷ついてしまう。最悪また心を閉ざしてしまう! それは嫌だ。だから今はそっとしておこう。
それに兄上に抱きしめられるのはそんなに嫌じゃない。
どちらかと言うとドキドキして、ふわふわした気持ちになって、顔に熱が集まって、好き……かも?
でもそんな事、兄上には言えない。
◇◇◇◇◇
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