6 / 8
6話「愚かな親子」
しおりを挟む「真実の愛に生きる、素敵じゃない、私はデールの恋を応援しますよ」
アロンザはニッコリと笑った。
「先週デールを私の執務室に呼び出したとき、男爵令嬢との婚姻に関する書類の他に、王位継承権を放棄し、王族の籍を抜ける書類も一緒に渡しましたよね? デールが真実の愛に生きる=王族を辞めるということですからね。もちろんきちんと書類を確認してからサインしたのでしょう?」
「……ペピンと結婚できることに浮かれて、書類を読んでいなかった」
デールが消え入りそうな声で言った。
「あらあらデールはお間抜けさんね、まさか書類を読まずにサインするなんて」
アロンザがオーバーに驚いたふりをした。王位継承権を放棄する書類と王族の籍を抜ける書類は難しい文言を多用していたので、デールごときが読んでも理解できないことをアロンザは知っていたのだ。
「ちょっとデール! あんた何やってるのよ! 書類も読まずにサインするなんて! 王位継承権を放棄して、王族の籍を抜けてこれからどうやって生きていくのよ!」
ミアがデールをののしる。
「ミアさんも人のことを言えませんよ。先週お城を出る前に、側妃の地位を辞する書類に、ご自分の意思でサインなさったでしょう?」
アロンザの言葉を聞き、ミアの顔色は真っ青になった。
「あ、あれは宝石をくれるって書類じゃあ……?」
「ミアさんは国王陛下と婚姻されてからずっと、側妃に割り当てられた予算以上のお金を遣い、国費を無駄遣いしていましたからね。大きな宝石を一つ上げるから、国王陛下との縁を切ってお城から出ていってという内容の書類を渡したのですよ。まさかミアさんも書類を読まずにサインなさったのですか? もしかして字が読めませんでした?」
「馬鹿にしないで! 字ぐらい読めるわよ! ……何が書いてあるのか理解できなかったけど」
アロンザはミアがサインするように、書類を作るとき宝石を付与する文面は分かりやすく、側妃の地位を辞し、城から出ていく下りは難解な言い回しを多用していた。
「ですから一週間前から、デールは王子ではなくザイツ男爵令嬢の婿。ミアさんは平民なのですよ」
「ちょっと待って! 私はクッパー男爵家の令嬢じゃないの?」
「ミアさんは、国王陛下と結婚するときに実家の男爵家から除籍されています。ミアさんのご実家のクッパー男爵家は何年も前に没落し、爵位を返上しております。ですからミアさんの今の身分は平民です」
「そんな……」
「デールが貴族社会に残るにはザイツ男爵家を継ぐしかないのだけど、男爵にすらなれるかしらね?」
「それはどういう意味だ?」
「デールがザイツ男爵家を継ぐには学園を卒業しなくてはいけないの。今までは教師から事前にテスト問題を聞き出すなどの不正をしていたようだけど、これからはどうなるかしらね? 不正を働いていた教師は首にしたから実力で試験を受けるしかないわ。
王家の雇った優秀な家庭教師もいないし、そもそも男爵家に二人分の学費を支払うお金はあるのかしら? 学園の成績が振るわない二人は王家の奨学金を受けられなくてよ。そうなると学費が払えなくて自主退学するしかないわね」
「自主退学……」
「えっ? デール学園に通えないの? アタシも退学なの? ねぇパパなんとかして!」
黙って聞いていたザイツ男爵は、自身の腕にすがりつくペピンの言葉を無視した。
「王妃陛下、発言をお許しください」
「発言を許可します。ザイツ男爵?」
「一週間、王子殿下……デール様とミア様が当屋敷に滞在し、飲み食いした食費や使用人を雇い入れた費用は……?」
「デールもミアさんも既に王族とは無関係の人間、そちらでなんとかしてください」
「そんな……」
アロンザの言葉に、ザイツ男爵はその場で膝をついた。
☆☆☆☆☆
64
お気に入りに追加
1,133
あなたにおすすめの小説
貴方は何も知らない
富士山のぼり
恋愛
「アイラ、君との婚約は破棄させて欲しい。」
「破棄、ですか?」
「ああ。君も薄々気が付いていただろう。私に君以外の愛する女性が居るという事に。」
「はい。」
「そんな気持ちのまま君と偽りの関係を続けていく事に耐えられないんだ。」
「偽り……?」
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
婚約破棄したので、元の自分に戻ります
しあ
恋愛
この国の王子の誕生日パーティで、私の婚約者であるショーン=ブリガルドは見知らぬ女の子をパートナーにしていた。
そして、ショーンはこう言った。
「可愛げのないお前が悪いんだから!お前みたいな地味で不細工なやつと結婚なんて悪夢だ!今すぐ婚約を破棄してくれ!」
王子の誕生日パーティで何してるんだ…。と呆れるけど、こんな大勢の前で婚約破棄を要求してくれてありがとうございます。
今すぐ婚約破棄して本来の自分の姿に戻ります!
婚約者にざまぁしない話(ざまぁ有り)
しぎ
恋愛
「ガブリエーレ・グラオ!前に出てこい!」
卒業パーティーでの王子の突然の暴挙。
集められる三人の令嬢と婚約破棄。
「えぇ、喜んで婚約破棄いたしますわ。」
「ずっとこの日を待っていました。」
そして、最後に一人の令嬢は・・・
基本隔日更新予定です。
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?
四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?
「婚約破棄、ですね?」
だましだまし
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」
「殿下、もう一度仰ってください」
「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」
「婚約破棄、ですね?」
近頃流行りの物語にある婚約破棄騒動。
まさか私が受けるとは…。
でもしっかり聞きましたからね?
やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。
あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。
そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。
貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。
設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる