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5話「天使の顔も四度まででしてよ」

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「デール、あなたが王太子になるには現国王の正妃である私の養子に入り、なおかつ侯爵家の長女であるスフィアと結婚するしかなかったのよ。

せっかく養母である私が、お膳立てして差し上げたのに、あなたは自らの手で王太子になる道を閉ざした。王太子になることより真実の愛で結ばれた男爵令嬢との結婚を選んだ」

「そんな……嘘だっ!」

デールの体はぷるぷると震えていた。

「全部本当のことよ。デールが王太子の座をいらないというから、あなたとの養子縁組を解消し、現国王の甥であるレオナルドを私の養子にしたの。レオナルドは喜んで王太子になってくれたわ」

アロンザは扇で口元を隠しくすりと笑った。

「違う! 俺はレオナルドに王太子の地位を譲ってない!」

デールが声の限りに叫んだ!

「デール、側妃の子にすぎないあなたが、男爵令嬢と結婚し、真実の愛に生きるというのはそういうことなのよ」

アロンザはデールを見下しながら告げた。

「だって……父上は真実の愛に生きたじゃないか! 好きな人を側室にして、仕事は正室に任せて、母上と遊んでばかりいて、全然仕事しなくて、それでも国王になれて……楽して暮らしていたじゃないか!」

デールは父親である現国王と己の人生を比べながら、「不公平だ」とぼやいた。

「ハインツ様は悪い前例を作ったわね。でもねデール、あなたは国王であるハインツ様とは違うの。

ハインツ様をお生みになった王太后陛下は公爵家の出身。つまり国王陛下には強力な後ろ盾があったの。だから国王陛下は一度公衆の面前で婚約破棄した相手を正室に迎え仕事だけさせて、身分の低い女を側室として迎え、公務を放り出して側室と遊んで暮らす…………という無茶が通ったのよ。

その代わり王太后陛下のご実家のエーダー公爵家は、無茶を通した代償を払ったわ。エーダー公爵家は貴族社会から爪弾きにされて、商売がうまくいかず、今や没落寸前よ」

王太后の実家のエーダー公爵家は、この十八年で急速に力を失った。事業に失敗し、借金を重ね、今や名ばかりの貴族となり、貴族社会から孤立している。

エーダー公爵家が孤立するように仕向けたのは、王妃の実家であるイルク公爵家なのだが。

「デールあなたの生みの親は誰? ミアさんのご実家のクッパー男爵家はあなたが幼い頃に没落しているのよ。あなたにはなんの後ろ盾もないの」

『もっとも、ミアさんは側妃ですらなくなったから今は平民なのですが』

「だったら王妃、あんたが俺の後ろ盾になってくれたらよかったんだ! あんたは俺の養母だろう!」

「そうよ! そうよ! アロンザ様は義理の息子のデールのことが可愛くないの!」

デールとミアがアロンザに向かって吠えた。

「無礼者! 王妃陛下に向かって何たる口の利き方! その者共を捕らえよ!」

レオナルドがデールとミアの態度に激怒し、衛兵にデールとミアを捕らえるように命じた。

あっと言う間にデールとミアは衛兵に捕らえられ、縄で縛り上げられた。

「デールが生まれたときに現国王陛下が勝手にあなたを私の養子にしたの。以来私はずっとデールの後ろ盾になることを強要されてきたわ。

高い給料を払い優秀な家庭教師を雇い、デールをまともな人間に育てようとしました。

国内でも有数の名家であるシフ侯爵家のご令嬢を婚約者にしてあげた。仕事もしないで側妃と遊んでばかりいるハインツ様や、男爵家出身のミアさんがいくら頭を下げても、シフ侯爵家との縁組なんてできなかったのよ。デールがスフィアと婚約できたのは王妃である私のおかげだったの。

それなのにデールはまったく感謝せず、厳しいことを言う家庭教師は勝手に解雇。男爵令嬢のペピンと浮気をし、大勢の前でスフィアに罵詈雑言を吐きスフィアとの婚約を破棄。

私がお膳立てしてあげたこと全て壊して、私に罵詈雑言を吐いて『お前なんか母親じゃない! 俺の母親は俺を生んでくれた母上だけだ!』と言ったのはどこのどなたかしら?」

「くっ、それはそうだけど……」

デールは苦渋の表現を浮かべた。

「昔から天使の顔も四度までって言うでしょう? どんなに温厚で忍耐強い人間でも、四度目には腹を立てるのですよ。

当時王太子だったハインツ様から、卒業パーティーで公衆の面前で婚約破棄され、恥をかかされ。

前国王陛下と王太后陛下から正室になり仕事だけするように言われ、プライドを傷つけられたわ。

現国王陛下とミアさんの息子であるデールを、私の養子にさせられ、デールの後ろ盾になることを強要される。

私はこれまでに三度、王室に煮え湯を飲まされてきましたわ」

アロンザは美しい指を折り、数を数えた。

「そして四度目がデールとスフィアの婚約破棄」

アロンザは四本目の指を折った。

「これ以上はデールの面倒を見られないわ、甘えるのも大概たいがいにしなさい」

デールはこのときになって始めて、自分が誰を怒らせ、何を失ったのかに気づいた。



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