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4話「門は開かない」
しおりを挟むデールは「そんなはずはない! 王太子は俺だ! 王太子がいるのに立太子の儀式を行えるはずがない!」と言い慌てて席を立った。
デールは男爵家の馬車を借り、ミアとペピンとザイツ男爵を連れて城に帰った。
「王太子は俺だ! 門を開けろ!」
デールは城に着くなり門番に食ってかかったが、門番は「許しの無い者はお通しできません」と言って首を横に振るだけだった。
「私は国王陛下の側妃よ! 門を開けなさい!」
ミアが怒鳴ると、門番は「王妃様の許可なく、平民を通せません」と冷静な口調で言った。
「ちょっとあんた誰に向かって口を聞いているの! わたしはこの国の側妃で王太子の母親よ! そのわたしを平民呼ばわりする気! 絶対に許さない! わたしに盾突いたことを後悔させてやる! 国王陛下に言ってあんたなんか首にしてやるんだなら! いいえそんなんじゃ生ぬるいわ! 牢屋に入れてやる! 覚悟しなさい!」
ミアが門番に向かって怒鳴っていると、城門を見下ろせる位置にあるバルコニーから王妃アロンザが顔を出した。
アロンザの隣には王弟の子であるレオナルドと、デールの元婚約者である侯爵令嬢のスフィアがいた。
アロンザは残念な物を見る目で階下を見下ろし、「哀れね」と呟いた。
「誰が哀れだ! この女ぎつね! 俺はこの国の王太子だぞ! 門を開けろ!」
「わたしは王太子の母親よ! いずれは王太后になる人間なのよ! さっさと門を開け中に入れなさい!」
キャンキャンと騒ぐデールとミアを見下ろし、アロンザは深く息を吐いた。
「伯母上、あの二人本気で言っているのでしょうか?」
レオナルドがゴミを見る目でデールとミアを見た。
「馬鹿につける薬はないというから、本気なのでしょう」
スフィアが階下を見下ろし、扇で口元を隠しくすりと笑う。
「なんだと! レオナルド貴様国王の甥の分際で王太子である俺に失礼たぞ! スフィア、俺に婚約破棄されたことを根に持っているのか! 己の分をわきまえない愚かな女め!」
「レオナルドもスフィアも今の言葉取り消しなさい! わたしは現国王ハインツ様の寵愛を一心に受ける側妃なのよ! あんたたち二人とも不敬罪で死刑にしてやる!」
デールとミアがつばを飛ばしながら喚いた。
アロンザははぁーと息を吐き、階下にいるデールとミアを一瞥した。
「デール、ミア、己の立場をわきまえてないのはあなた方よ。私はこの国の王妃でレオナルドは王太子、スフィアは王太子の婚約者。あなた方の身分は何かしら? デールは男爵令嬢の婿、ミアさんは平民。不敬罪に問われるのはどちらかしらね? 男爵令嬢の婿と平民を諌めた私たち? それとも王族と王族の婚約者に暴言を吐いたあなた方?」
門前にいた四人は、アロンザが何を言っているのか分からなかった。
「レオナルドが王太子だと!? それはどういう意味だ! この国の王太子は現国王の息子である俺だ!」
デールがバルコニーにいるアロンザに向かって吠える。
「デール、あなたは本当にお馬鹿さんね。あなたは王太子じゃないの。あなたがこの国の王太子だったことは一秒たりともないのよ」
「何っ……!」
「デール、あなたは立太子の儀式を受けた記憶がある?」
アロンザに言われてデールは過去を振り返った。立太子の儀式を受けた記憶はなかった。
「た、確かに……立太子の儀式を受けた記憶はない。だけど母上は俺が幼い頃から『デールがこの国の王太子よ』って言ってた! だから俺の記憶に残ってないだけで、俺がうんと幼いときに立太子の儀式を受けたんだろ!」
デールはアロンザをキッと睨んだ。
「やはりあなたは愚かねデール。王太子の素質があるかどうかも分からないのに、物心すらついていない幼子を、国王の息子というだけで王太子にするわけないじゃない」
「じゃあ俺は……!」
「そうよ、あなたは王太子じゃない。あなたは側妃の生んだ、王子に過ぎなかったのよ」
デールにとって、アロンザから告げられた事実はかなりの衝撃であった。
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