101 / 122
101話「お帰りカルム、会いたかったよ」
しおりを挟む「皇太子殿下、ご命令によりノヴァ様とシエル様をお連れしました」
体育館ような高い天井、天井から吊るされた豪華なシャンデリア、日差しを受けて輝く美しいステンドグラス。
床には蒼玉色の絨毯が敷き詰められ、部屋の奥は三段高くなっていて、黄金色の華美な椅子が二脚並んでいた。
真冬の湖のような濃紺のジュストコールを身に着けた二十代前半くらいの男が玉座に座っている。
彼が皇太子殿下……?
腰まで届く銀色の髪、雪のように白くきめ細やかな肌、アメジスト色の氷のように鋭い切れ長の瞳。
…………どことなくノヴァさんに似てる。
「ご苦労だったねバルナール、もう下がっていいよ」
ギルドから出た俺とノヴァさんは大勢の男に取り囲まれた。男たちは皇太子の近衛兵だった。
近衛隊長のバルナールさんのあとに着いてきたら、玉座の間だった。
「はっ」
皇太子殿下が命ずると、近衛隊長は直角に腰を曲げ深々と礼をし下がって行った。
玉座の間には俺とノヴァさんと、玉座に座る美麗な青年だけが残された。
「お帰りカルム、会いたかったよ」
美しい青年がにこやかにほほ笑む。
「カルムが寄り道ばかりするから、待ちきれなくて近衛兵を差し向けてしまったよ」
皇太子殿下が楽しそうに笑う。
皇太子殿下が【カルム】と呼んだ相手……俺の腰に手を回している最愛の人を見上げる。
「兄上」
最愛の人から発せられた言葉に俺は息をのむ。
【ノヴァさん】が【カルム】で、玉座に座ってる男が皇太子で、ノヴァさんがその弟ということは…………ノヴァさんは皇子様!?
思い返せばノヴァさんの身分が高いのでは? と思えるような出来事はたくさんあった。
高位貴族とお友達だと息巻いていたラック・ヴィルの市長が、ノヴァさんに耳元でなにか囁かれ急に大人しくなったこと。
帝都城門で年配の門番がノヴァさんに対してえらく低姿勢で、身分証の提示も、荷物チェックもなく城門を通過できたこと。
冒険者ギルドで特別室に通されギルド長自ら対応にあたったこと。
皇太子殿下の近衛隊隊長がノヴァさんに敬語を使い、終始低姿勢だっこと。
それもこれも、ノヴァさんがこの国の皇子様だったから!
立ち居振る舞いや身につけている衣服や、お金を湯水のごとく使うところから、もしかしたら身分の高い人なのかも?と何度か思った。だけどせいぜい高位の貴族……侯爵家か公爵家の子息程度だろうと思ってた。
だけど……まさか帝国の皇子様だったなんて!
皇太子殿下がノヴァさんのことを【カルム】と呼んでいた。【ノヴァ・シャランジェール】という名は偽名で【カルム】が本名なのだろう。
ノヴァさんに本名を教えてもらえなかったことが少し悲しい。いや俺も偽名を使ってるからおあいこかな。
ノヴァさんは帝都に着いたら俺を実家に連れて行くと言っていた。実家が宮殿だったのには驚いたけど、きっと実家に着いたら本当のことを話してくれるつもりだったんだ。そう信じてる。
罪が重いのは俺の方だ。レーゲンケーニクライヒ国のアインス公爵家の子息だということも、王太子の元婚約者だということも伝えてないのだから……。
66
お気に入りに追加
3,923
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ(近況ボードご挨拶)
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる