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101話「お帰りカルム、会いたかったよ」

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「皇太子殿下、ご命令によりノヴァ様とシエル様をお連れしました」

体育館ような高い天井、天井から吊るされた豪華なシャンデリア、日差しを受けて輝く美しいステンドグラス。

床には蒼玉色の絨毯が敷き詰められ、部屋の奥は三段高くなっていて、黄金色の華美な椅子が二脚並んでいた。

真冬の湖のような濃紺のジュストコールを身に着けた二十代前半くらいの男が玉座に座っている。

彼が皇太子殿下……?

腰まで届く銀色の髪、雪のように白くきめ細やかな肌、アメジスト色の氷のように鋭い切れ長の瞳。

…………どことなくノヴァさんに似てる。

「ご苦労だったねバルナール、もう下がっていいよ」

ギルドから出た俺とノヴァさんは大勢の男に取り囲まれた。男たちは皇太子の近衛兵だった。

近衛隊長のバルナールさんのあとに着いてきたら、玉座の間だった。

「はっ」

皇太子殿下が命ずると、近衛隊長は直角に腰を曲げ深々と礼をし下がって行った。

玉座の間には俺とノヴァさんと、玉座に座る美麗な青年だけが残された。

「お帰りカルム、会いたかったよ」

美しい青年がにこやかにほほ笑む。

「カルムが寄り道ばかりするから、待ちきれなくて近衛兵を差し向けてしまったよ」

皇太子殿下が楽しそうに笑う。

皇太子殿下が【カルム】と呼んだ相手……俺の腰に手を回している最愛の人を見上げる。

「兄上」

最愛の人から発せられた言葉に俺は息をのむ。

【ノヴァさん】が【カルム】で、玉座に座ってる男が皇太子で、ノヴァさんがその弟ということは…………ノヴァさんは皇子様!?

思い返せばノヴァさんの身分が高いのでは? と思えるような出来事はたくさんあった。

高位貴族とお友達だと息巻いていたラック・ヴィルの市長が、ノヴァさんに耳元でなにか囁かれ急に大人しくなったこと。

帝都城門で年配の門番がノヴァさんに対してえらく低姿勢で、身分証の提示も、荷物チェックもなく城門を通過できたこと。

冒険者ギルドで特別室に通されギルド長自ら対応にあたったこと。

皇太子殿下の近衛隊隊長がノヴァさんに敬語を使い、終始低姿勢だっこと。

それもこれも、ノヴァさんがこの国の皇子様だったから!

立ち居振る舞いや身につけている衣服や、お金を湯水のごとく使うところから、もしかしたら身分の高い人なのかも?と何度か思った。だけどせいぜい高位の貴族……侯爵家か公爵家の子息程度だろうと思ってた。

だけど……まさか帝国の皇子様だったなんて!

皇太子殿下がノヴァさんのことを【カルム】と呼んでいた。【ノヴァ・シャランジェール】という名は偽名で【カルム】が本名なのだろう。

ノヴァさんに本名を教えてもらえなかったことが少し悲しい。いや俺も偽名を使ってるからおあいこかな。

ノヴァさんは帝都に着いたら俺を実家に連れて行くと言っていた。実家が宮殿だったのには驚いたけど、きっと実家に着いたら本当のことを話してくれるつもりだったんだ。そう信じてる。

罪が重いのは俺の方だ。レーゲンケーニクライヒ国のアインス公爵家の子息だということも、王太子の元婚約者だということも伝えてないのだから……。

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