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100話「皇太子の近衛隊」
しおりを挟むノヴァさんと腕を組み、うきうき気分で冒険者ギルドをあとにした。
しかし忘れてはいけない。これから俺はノヴァさんに俺の身に起きたすべてを話さなければならない。
ノヴァさんが受け入れてくれなかったら俺は……。
シエル・シャランジェール、良い響きの名前だった。
ノヴァさんに拒否されたら、シャランジェールの姓も名乗れなくなる。
ノヴァさんに否定されるのは辛い。でも打ち明けない訳にはいかない。
ラック・ヴィルの市長やフォレ・カピタール門番の対応から推測して、ノヴァさんは多分貴族、それも高位の貴族だ。
ノヴァさんとノヴァさんの家族が本気で調べれば、俺の素性も俺の身に起きたことも簡単に分かってしまう。
第三者の口からノヴァさんの耳に入るくらいなら、真実は自分で伝えたい。その結果ノヴァさんに拒否されたとしても。
俺の本当の名前がザフィーア・アインスで、アインス公爵家の息子で、王太子に婚約破棄されたこと。
王都を追放され、国外れの教会に移送される途中で殺されそうになって、自ら崖に身を投げたこと。その時ザフィーア・アインスの心が死んだこと。
川に流されているとき前世の記憶を取り戻したこと。今ここにいるのはザフィーアとして生きた記憶と、前世で竜胆蘭として生きた記憶を持つ、ザフィーアとは違う人格の人間だってこと。
ノヴァさんに名前を聞かれて、とっさに【シエル】という仮の名前を名乗ったことを。
ノヴァさんが俺の全て知って、それでも俺を受け入れてくれるか分からない。
でもこのまま何も伝えずに、ノヴァさんのご家族には会えない。
「実家に帰る前に宿屋に寄り身を清めるのだったな」
「はい」
「大事な話があると言っていたな」
「うん、宿屋についたら話しますね」
ギルドの前に止めた馬車に向かうと、大勢の人間に取り囲まれた。その数およそ五十人。
ノヴァさんが俺を背中の後ろに庇う。
着てる服や体格から推測して素人じゃない。揃いの制服と槍、ボワアンピール帝国の紋章が入った制服。
「近衛兵か……」
ノヴァさんが剣を抜き、ボソリと呟く。
城の近衛兵がなんで? 身分証を見せずに城門を通っだのがバレた?
それだけのことでこれだけの数の近衛隊が出動するのはおかしい。
「剣をお納めください、カル……ノヴァ様」
近衛隊の奥から、緑の短髪に日に焼けた肌をした隊長らしき人物が出てきた。
「近衛隊長のバルナール・ロードか……ということはここにいるのは皇太子の近衛兵」
ノヴァさんの知り合いなの?
皇太子の近衛兵? なんだってそんな人がノヴァさんのところに?
「私を誰だか知っていて槍を向けるとはな、どういう了見だバルナール!」
ノヴァさんは剣を構えたまま、近衛隊長を睨んだ。
「悪く思わないでいただきたい。わたしは皇太子殿下の命に従ったまで」
「なんだと?」
「ノヴァ様とシエル様を丁重に宮殿にお連れするように仰せつかっております」
「……上の命令か、近衛兵など出さなくても宮殿には行くつもりだった」
「貴方様があちこち寄り道するからいけないのですよ。皇太子殿下が気が短いのは貴方様もご存知のはず、貴方様のことになると特に」
近衛隊長の言葉にノヴァさんは言葉をつまらせた。
「槍を下げよ大人しくそなたたちに着いていく、だがシエルに手を出すな! 手を出したら誰であっても容赦しない!」
ノヴァさんが鋭い眼差しを近衛隊長に向ける。
ノヴァさんの眼光に隊長以外の近衛兵は、顔を青ざめさせ、額から汗を流した。
「シエル様は特に丁重に扱うように言われております。ご安心ください」
隊長が命ずると近衛兵は槍を下げた。
それを確認してノヴァさんも剣を鞘にしまう。
「すまないシエル、宿屋には寄れなくなった。だが安心して欲しい、シエルを決して危険な目には合わせない」
ノヴァさんが俺の目を見つめ手をぎゅっと握る。
「俺はノヴァさんを信じます」
皇太子殿下の近衛兵がどうしてノヴァさんと俺を迎えに来たのか気になるところだが。
ノヴァさんと隊長さんは知り合いみたいだし、隊長さんはこちらに敵意はないみたいだし、着いて行っても大丈夫だろう。
こうして俺とノヴァさんは、近衛隊長のあとについて宮殿に向かうことになった。
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