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99話「冒険者ギルド」
しおりを挟む帝都の冒険者ギルドはラック・ヴィルの冒険者ギルドの十倍はある大きくて立派な建物だった。
馬車をギルドの前に止め、馬車を降りる。
建物の大きさにぽかんとしている俺の手を取り、ノヴァさんが冒険者ギルドの扉を開けた。
ノヴァさんが冒険者ギルドに入ると周囲がざわついた。
「S級冒険者のノヴァ・シャランジェール様だ!」
「帝都に帰ってたのか?!」
「かっこいい!」
「サイン欲しいな!」
さすがS級冒険者のノヴァさん、周囲から羨望眼差しをむけられる。皆がノヴァさんの噂をしている。
ノヴァさんはそんな人々など眼中にないようで、真っ直ぐに受付に向かった。
ノヴァさんが冒険者証を見せると、受付の綺麗なお姉さんが目をパチパチとさせていた。
「S級冒険者のノヴァ・シャランジェール様ですね、本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付のお姉さんの頬がほんのりと赤いのは気のせいだろうか?
「私の連れの冒険者登録したい。私の最愛の人だ粗相のないように頼む」
ノヴァさんが俺の腰に手を回すと、受付嬢は少しがっかりした顔をした。ノヴァさんのファンだったのかな?
「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」
受付嬢はさっと仕事モードの顔に切り替え、席を立つ。
受付嬢に案内された部屋の扉には「特別室」と書かれいた。
冒険者登録するだけなのに特別室に通されるの?? これもS級冒険者のノヴァさんの仲間だから? 文字通り特別扱いを受けているようだ。
受付のお姉さんにお茶とお菓子を出してもらい特別室で待つこと数分、ベテランの冒険者っぽいおじさんが入ってきた。
そのおじさんはギルド長だと名乗った。
マジか! 新人冒険者が冒険者登録をするのにギルド長が出てくるのか!
S級冒険者のノヴァさんに対するギルドの対応半端ないな。ここまでVIP待遇されるとは思ってなかった。
受付で書類にサインして提出するだけだと思っていた俺は、特別室に案内されセレブ対応されて落ち着かない。
ギルド長に高そうな羽根ペンを渡されて、書類に必要事項を書くように言われた。
書類を前に俺は固まっていた。
レーゲンケーニクライヒ国とボワアンピール帝国では、スペルが微妙に違う言葉がいくつかある。アメリカ英語とイギリス英語が微妙に違うみたいなもんだ。
うっかりレーゲンケーニクライヒ国の文章の癖が出たらどうしよう? そこから素性がバレたら?
それから名字をどうしよう? なにか適当な名前を考えないとな。ボワアンピール帝国でよくある名字がいいな。
俺が悩んでいることを察してくれたのか、「私が書く」と言ってノヴァさんが羽根ペンを手に取る。ノヴァさんはサラサラと筆を走らせ、ギルド長に書類を提出した。
提出された書類の名前の欄を見ると【シエル・シャランジェール】と記されていた。
ノヴァさんは「シエルは私の妻だからな」と言って微笑んだ。
そっか名前のことあれこれ考える必要なんてなかったんだ。
シエル・シャランジェール、ノヴァさんと同じ名字。嬉しいけどちょっと照れくさい。
このときの俺はこれから起こることも知らず、ノヴァさんと同じ姓を名乗れることに浮かれていた。
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