86 / 131
八十六話「レーゲンケーニクライヒ国、国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ」④
しおりを挟む
ーーレーゲンケーニクライヒ国、第二十四代国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ視点ーー
「アインス公爵すまぬ!! この通りだ!!」
余は玉座の間にアインス公爵を呼び出し、
人払いしたあとアインス公爵に頭を下げた。
「陛下、おやめください。上に立つものがむやみに頭を下げるものではありません」
直角に近い角度で深々と頭を下げた余にアインス公爵はそう言った。
いつもと変わらぬ、穏やかな声だった。
「しかし、ザフィーアが……あの子が、死んでしまった……」
死んでいなければどうとでも出来た、しかし死んでしまってはどうしようもない。
「愚息の事でお心を痛めておられるのでしたら、不要です。ザフィーアは神子様を害そうとし、王太子エルガー様の不興を買い、婚約者の地位を追われ追放されたのです。王太子殿下の温情で追放処分で済んだというのに、そのことに感謝せず、罪人として王都を追われたことに耐えられず、移送中に自ら崖に身を投げただけのこと、陛下がお心を痛めることはありません」
アインス公爵の言葉に余ははっとして顔を上げる。
アインス公爵にはそう知らされているのか?
ザフィーアが神子を害そうとした証拠などない。神子と証人の話しだけだ。その証人も実家が困窮しているものや、素行の悪いもので神子に買収された可能性が高く、証言は信ぴょう性に欠ける。
にも関わらずザフィーアはパーティー会場で断罪され、牢屋に入れられ、ろくに取り調べもされず、翌日王都を追放された。靴も履かされず民衆に石まで投げられたと聞く。
息子がそのような仕打ちを受けたのだ、アインス公爵が憤るのは当然のこと。
だがアインス公爵は全てザフィーアの素行の悪さが招いたことだと言う、本心からそう言っておるのか?
ザフィーアは移送中に兵士に斬られ崖の下に落ちて死んだ。だがアインス公爵は、ザフィーアが自らの意思で崖に身を投げ死んだと報告を受けているようだ。アインス公爵はそれを信じているのか?
「此度のことを許してくれるのか?」
「許しを乞うのは私の方です。愚息がご迷惑をおかけしました」
そう言ってアインス公爵は深々と頭を下げた。
アインス公爵がそう思っているならそれでよいか。
「愚息が王太子殿下と神子様にご迷惑をおかました。公爵家の王族への忠義は変わっておりません。どうか今までのように王家に仕え、陛下と王太子殿下をお支えするこたをお許しください!」
「いやいや、ザフィーアも若げの至りで婚約者に近づくものに嫉妬したまでのこと。そのザフィーアももう亡くなっている。この件はザフィーアの死を持って落着したこととしよう」
「ありがたき幸せ、ヴュルデ・アインスこの身が朽ちるまで王家のために尽くします!」
切れものと言われたアインス公爵も、身内のこととなると盲目になるらしい。
余から詫びるべきだと思っていたが、向こうが否を認め謝罪して来るのなら、それを受け入れておこう。
◇◇◇◇◇
数日後、王太子エルガーと神子の婚約を阻止したいと相談していた隣国ボワアンピール帝国の皇太子から、ザフィーアをボワアンピール帝国で発見し、保護したという知らせが届いた。
ザフィーアよ、生きていたのか!
生きていたのならば好都合だ。
神子とエルガーの婚約を阻止するために、ザフィーアにはエルガーの婚約者に戻って貰おう。
いや婚約破棄はエルガーが勝手に言ったこと、国王である余は婚約破棄を認めていない。
ザフィーア・アインスは現状、王太子エルガーの婚約者だ。
ザフィーアはエルガーを心底愛していた。
ザフィーアにエルガーとそなたの婚約破棄などなかった、そなたはエルガーの婚約者のままだと告げたら、ザフィーアはさぞ喜ぶだろう。
「アインス公爵すまぬ!! この通りだ!!」
余は玉座の間にアインス公爵を呼び出し、
人払いしたあとアインス公爵に頭を下げた。
「陛下、おやめください。上に立つものがむやみに頭を下げるものではありません」
直角に近い角度で深々と頭を下げた余にアインス公爵はそう言った。
いつもと変わらぬ、穏やかな声だった。
「しかし、ザフィーアが……あの子が、死んでしまった……」
死んでいなければどうとでも出来た、しかし死んでしまってはどうしようもない。
「愚息の事でお心を痛めておられるのでしたら、不要です。ザフィーアは神子様を害そうとし、王太子エルガー様の不興を買い、婚約者の地位を追われ追放されたのです。王太子殿下の温情で追放処分で済んだというのに、そのことに感謝せず、罪人として王都を追われたことに耐えられず、移送中に自ら崖に身を投げただけのこと、陛下がお心を痛めることはありません」
アインス公爵の言葉に余ははっとして顔を上げる。
アインス公爵にはそう知らされているのか?
ザフィーアが神子を害そうとした証拠などない。神子と証人の話しだけだ。その証人も実家が困窮しているものや、素行の悪いもので神子に買収された可能性が高く、証言は信ぴょう性に欠ける。
にも関わらずザフィーアはパーティー会場で断罪され、牢屋に入れられ、ろくに取り調べもされず、翌日王都を追放された。靴も履かされず民衆に石まで投げられたと聞く。
息子がそのような仕打ちを受けたのだ、アインス公爵が憤るのは当然のこと。
だがアインス公爵は全てザフィーアの素行の悪さが招いたことだと言う、本心からそう言っておるのか?
ザフィーアは移送中に兵士に斬られ崖の下に落ちて死んだ。だがアインス公爵は、ザフィーアが自らの意思で崖に身を投げ死んだと報告を受けているようだ。アインス公爵はそれを信じているのか?
「此度のことを許してくれるのか?」
「許しを乞うのは私の方です。愚息がご迷惑をおかけしました」
そう言ってアインス公爵は深々と頭を下げた。
アインス公爵がそう思っているならそれでよいか。
「愚息が王太子殿下と神子様にご迷惑をおかました。公爵家の王族への忠義は変わっておりません。どうか今までのように王家に仕え、陛下と王太子殿下をお支えするこたをお許しください!」
「いやいや、ザフィーアも若げの至りで婚約者に近づくものに嫉妬したまでのこと。そのザフィーアももう亡くなっている。この件はザフィーアの死を持って落着したこととしよう」
「ありがたき幸せ、ヴュルデ・アインスこの身が朽ちるまで王家のために尽くします!」
切れものと言われたアインス公爵も、身内のこととなると盲目になるらしい。
余から詫びるべきだと思っていたが、向こうが否を認め謝罪して来るのなら、それを受け入れておこう。
◇◇◇◇◇
数日後、王太子エルガーと神子の婚約を阻止したいと相談していた隣国ボワアンピール帝国の皇太子から、ザフィーアをボワアンピール帝国で発見し、保護したという知らせが届いた。
ザフィーアよ、生きていたのか!
生きていたのならば好都合だ。
神子とエルガーの婚約を阻止するために、ザフィーアにはエルガーの婚約者に戻って貰おう。
いや婚約破棄はエルガーが勝手に言ったこと、国王である余は婚約破棄を認めていない。
ザフィーア・アインスは現状、王太子エルガーの婚約者だ。
ザフィーアはエルガーを心底愛していた。
ザフィーアにエルガーとそなたの婚約破棄などなかった、そなたはエルガーの婚約者のままだと告げたら、ザフィーアはさぞ喜ぶだろう。
243
お気に入りに追加
4,304
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる