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八十二話「立花葵」⑨
しおりを挟むーー水の神子視点ーー
高校に入って二カ月ぐらい過ぎた頃かな。
水竜メルクーアに呼ばれる直前、ボクは女の子を物置に閉じ込めて遊んでいた。
子供の頃のトラウマで、ストレートロングヘアの苦労知らずのお嬢様を見るとイライラしてね。特に性欲なんてありません、ってタイプが一番ムカつく。十六歳にもなってコウノトリやキャベツ畑から赤ん坊が出来ると信じてるなんて馬鹿じゃないの。
とにかくクラスメイトにそんな女がいたから、人気のない場所に呼び出し、ポツンと建ってる物置に閉じ込め、外から鍵をかけた。彼女が何分で泣き出すのか知りたくてね。
ほんの十秒でワンワン泣き出したから興ざめだったな。泣きわめいてドンドンと物置の扉を叩く音をBGにMゲームしてたんだ。扉を開けたとき彼女の手が真っ赤になっていて、扉に血がついていたら愉しいなぁと思いながら……。
そのときどこから声が聞こえた。そして気がついたらボクの目の前に大きな水色の竜がいたわけ。
水竜メルクーアは言った【お前と波長が合ったから呼び出した】【我の言うとおりにすればお前の望みを叶えてやる】【地位も権力も金もお前の望み通りにしてやる】と。
ボクと波長が合ったから呼び出したという竜の話を聞いて、ボクはゾクゾクした。
今までよりも、もっと楽しい日々が始まるんだって。
ねぇ水竜メルクーア、ボクと一緒に遊ぼうか。
えっ? 物置に閉じ込めた子はどうなったかって? 知らない、あの場所にはボクしかいなかったから、誰にも気づかれずに餓死しちゃったんじゃない? その子が死んだとしても何の問題もない。メルクーアは元の世界には二度と戻れないと言っていた。元の世界でボクが殺人を犯したとしても、元の世界の人間はボクを罪に問えない。
それより新世界での生活を考えるとワクワクする! 水竜メルクーアの加護を受けた神子、皆が傅く存在、ゾクゾクするね。
ボクはこの世界でとてもいじめがいのある子をみつけた。
サラサラのストレートロングの髪、何不自由なく育った公爵家の令息、生まれた時から王太子の婚約者という肩書き、婚約者に指すら触れさせないお高く止まった態度、清廉とか清楚とかを絵に描いたような存在。
いいね、一番大嫌いなタイプだ! とことん落として、踏みにじって、汚してやりたい。
水竜の加護を得た神子なら何をしても許される、例えそれが大量殺人でもね……。
水竜メルクーアの空腹を満たすのがボクの仕事、だからボクみたいな性根が腐った人間が召喚された。
ボクの手際の良さを気に入った水竜メルクーアが、歴代の神子にはない特別な加護を与えてくれた。
ザフィーア・アインス、君はボクが出会った中で一番ムカつく存在だったよ。
ぐちゃぐちゃに踏み潰して、この世の全てに絶望させて、真綿で首を締めるようにゆっくりじっくり殺してやりたかったのに、剣で切られてあっさりと死んでしまうなんてね。
つまらないなぁ、もっと遊びたかったのに。
◇◇◇◇◇
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