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六十五話「素朴な味①」
しおりを挟む「村の大恩人にいらしていただいたのに、大したおもてなしもできませんで」
四人がけの小さなテーブルには野菜サラダとじゃがいものスープ、硬そうなパンなどが並んでいた。
トマのお母さんはミラ・ロカールさんといい、トマと同じ茶色い髪をしていた。顔立ちも似ている。トマの目は深い緑色だが、トマのお母さんの目はルビーのように赤いので、目はお父さんに似たようだ。
トマのお父さんは一年前に亡くなり、それ以来二人で暮らしているそうだ。
「いえいえ病み上がりのところにお邪魔して、その上ごちそうになってしまって」
村の人たちは約二週間、キメラの毒による体調不良で仕事ができなかった。街に買い物も行けなかっただろうし、畑仕事などもできなかっただろう。食料不足に陥っていることは容易に推測できる。
ノヴァさんが持ってきた食材を各家に平等に配り、残った食材を使い村長さんの家で炊き出しをしているけど、それだって十分ではないはずだ。
テーブルに乗った料理を見て「わぁ! スープに具が入ってる! パンとサラダもある!! やったぁ!」と、トマがはしゃぐ。
トマに聞くと、ここ数日具のないスープしか食べていなかったそうだ。
「粗末なものしかなくてお恥ずかしいのですが」
トマのお母さんは貴重な食料を使い目一杯のおもてなしをしてくれた、その気持ちが嬉しい。
トマの家は風通しの良い村のハズレにあり、トマもトマのお母さんも軽症だった。
トマのお母さんは村に残り重症者の看病をしていたので、村を離れられなかったらしい。
事情があるとはいえ、小さな子を一人で街にお遣いに出すのはさぞ辛かっただろう。
「いえ、充分です。それにとても美味しそう」
皆が席につくとトマのお母さんが神様に祈りを捧げる。
キメラの毒騒動が解決しこうしてまたご飯を食べられることを神様に感謝し、それが終わると俺とノヴァさんへの感謝の言葉を並べ始めた。
俺とノヴァさんのことを救世主とか、神の使いとか言って褒め称えられたので、こそばゆい気持ちになる。
長い祈りが終わりようやく食事になった。トマがスプーンを掴み、スープをガツガツと口に運ぶ。よっぽどお腹が空いていたんだな。
「野菜ばかりで申し訳ありません」
トマのお母さんがすまなそうに謝る。
「俺は肉とか魚とか食べられないから、逆に助かります」
スープに口をつけると、普通に美味しかった。冷えた体に温かいスープが染みる。
高級ホテルの料理にはない素朴さが良い、おふくろの味って感じかな、お代わりが欲しいくらいだ。
ただ野菜サラダは苦かった。
「あのこの野菜サラダって……」
「頂いた薬草と毒消し草を使わせていただきました。どうせなら美味しく食べようと思いまして」
いや、全然美味しくなってないです。しかし出された手前不味いとも言えずもくもくと食べる。体にもいいのは確かだし。
ノヴァさんはサラダに手をつけていなかった。ノヴァさんは苦いの嫌いだもんな。
流石に人様のお宅で「はいあーん♡」して食べさせ合うなんてできないし、見てみぬふりをするしかない。
「お二人はご夫婦ですか?」
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