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六十二話「下山と毒消し草②」
しおりを挟む「ほら口を開けて」
「やっ、……俺、それ……嫌い」
頬を膨らませ、顔をそむけてもノヴァさんは許してくれない。
「だめだ、口を開けて」
「う~、ノヴァさんの意地悪」
口をちょっとだけ開くと、先っぽを入れられた。
「もっと大きく口を開けないと全部入らないぞ」
「……ん、やっ……苦いよぅ」
口を無理やり開けさせられ、口の中に物が入ってくる。
「……っん、ァっ……イヤッ……!」
苦くて独特の青臭さがあって…………毒消し草は苦手だ。
俺が身につけているワンピ、妖精の歌には毒を八割無効化する力がある。
それでも油断はできないというノヴァさんに、二十分に一度毒消し草を口に入れられている。
俺が解毒の魔法を習得していればそれを使えるのに……。いや今からでも遅くない、解毒の魔法を習得しよう! 毒消し草は苦い、もう食べたくない!
山の中腹まで降りてきた俺たちは開けた場所で休憩を取っている。休憩といより毒消し草のもぐもぐタイムだ……。
「そういえばノヴァさん、今日は魔法力に余裕があるんですね?」
「どうしてそんなことを聞く?」
「以前、ラック・ヴィルの湖畔でパンツを探すのに『魔法の光』の魔法を使って下さいとお願いしたら、魔法力が切れたと言われたので、『魔法の光』の呪文って燃費が悪いのかなって」
ノヴァさんは今日数時間に渡って『魔法の光』を使い、その上攻撃呪文を使ってる。魔法力が底をつかないのが不思議だ。
「魔法力がなくなったりしないんですか?」
ノヴァさんを見つめると視線を逸らされた。
「……魔法力を回復させる薬を飲んでいる」
「そうだったんですね、えっ? でもいつ飲んだんですか?」
俺が見ている限りノヴァさんが何かを飲んでいた様子はない。
「シ、シエルが毒消し草を食べて顔をしかめている間に飲んだ……」
「なるほど」
あの一瞬の隙きに飲んだのか? ノヴァさんは素早いんだな。
「そういえば、ノヴァさんは毒消し草を食べたんですか?」
「私の服は毒耐性十割だから問題ない」
「でも、心配だから念の為」
ノヴァさんの口に毒消し草を運ぶ。
「…………がい…は……だ」
ノヴァさんがボソボソと話し顔をしかめる。
「はい?」
「苦いのは……苦手だ」
ノヴァさんが眉間にしわを寄せ、顔をそむけた。
「えっ?」
ノヴァさん今『苦いのが苦手』って言った? めちゃくちゃ強いのに毒消し草を食べたくないって駄々をこねてる。やばい、めっちゃ可愛い♡
「はいあーんで食べせてあげますから」
「……」
「はいあーん」
俺は毒消し草をノヴァさんの口に近づける。固く結ばれた口は開きそうにない。
俺はノヴァさんの体を思って言ってるのに。決して毒消し草を何度も食べさせられた仕返しではない。断じて違う。
「くっ……、そうだシエルが口移ししてくれるなら食べるぞ」
「ふぇっ?! 口移しですか?」
それは諸刃の剣……!
苦くてエグくて青臭い毒消し草を噛み砕き、それを口移しで食べさせるのか……。
「ノヴァさん、それはずるいです!」
「シエルの口移しでなければ食べぬ」
ノヴァさんがそっぽを向く。
子供っぽいところも可愛いし好きだけど、できれば口移しはしたくないな。
でもノヴァさんの健康には変えられないし……。
「わっ、分かりました……ノヴァさんの健康には変えられません!」
俺はノヴァさんが出した条件を飲んだ。
口移しぐらいなんだ、前にいちごを口移しで食べさせたことだってある。あのときは甘くて酸っぱいいちごだった。だが今日口移しするのら、苦くてまずい毒消し草。
頑張れ俺!
意を決し毒消し草の葉を掴み、自身の口に近づける。毒消し草を口に入れる寸前にノヴァさんに手を掴まれた。
「ノヴァさん?」
「シエルが毒消し草を口に含むたび苦味に顔をしかめるのは、とてもそそるものがあり、正直萌えた」
俺が毒消し草を食べる姿を見て萌えてたんですか? ちょっと引きます。
「だがそれはシエルの体を思えばこそ出来たことだ。私の為にシエルが苦痛に顔を歪めるのは耐えられない!」
「ということは、一人で毒消し草を食べてくれるんですね」
「うっ、だが自らの手で口に入れたくはない……シエルがはいあーんしてくれるなら食べる」
「分かりました。口を大きく開けて下さい、はいあーん♡」
このあと「はいあーん」で毒消し草を食べさせられたノヴァさんは、眉間に深いしわをつくり、なんとも言えない渋い顔をしていた。
苦悶の表情を浮かべるノヴァさんに、ちょっと萌えたのは内緒だ。
ノヴァさんの言うとおり、愛する人が苦痛に顔を歪める姿って尊い。
◇◇◇◇◇
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