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五十九話「妖精の微笑《フェー・スーリール》の葉①」*
しおりを挟む「シエル」
いつの間にか目の前に立っていたノヴァさんに、ギュッと抱きしめられた。
「ノヴァさん?」
「シエル、愛しい人……!」
どうしたんだろう? 魔物との戦いの後だから心配してくれてるのかな?
「ノヴァさん」
俺もノヴァさんの背に腕を回した。
「絶対に離さない、誰にも渡さない」
ノヴァさんが俺の顔をまっすぐに見つめる。
改めて言われると照れくさいな。
「俺もノヴァさんが好きです。ずっと一緒にいたいよ」
ノヴァさん手が俺の頬に触れ、唇が重なる。
「……っん、……ぁっ……」
ノヴァさんの舌が俺の口内をペロリとなめ、舌を絡めとる。舌を絡めたキスは昨日の朝して以来だな。
ノヴァさんの唇が離れていく。
ノヴァさんが口付け中にお尻や胸を触ってこなかったことに若干驚きを隠せない。
今はモンターニュ村の人が毒で苦しんでいるんだ、いちゃいちゃしている場合ではない。
ノヴァさんもそれが分かっているから自重しているんだ。寂しいけど俺が煽ってはいけない。
村の人の様子が気がかりだ、キメラを倒したことだし早く山を下りよう。
「ノヴァさん、見て」
魔法の光に照らされた、ピンクの花が風にそよいでいる。
空には満天の星空。
キメラの死骸さえなければ、すごくロマンチックな景色だ。
「綺麗ですね」
「妖精の微笑の花だな」
「妖精の微笑の花?」
「高山にのみ生息する植物で、淡いピンク色の花を付ける、昔は解熱薬として用いられていた」
「へぇ~」
ノヴァさんは物知りだな。
「葉がハートの形をしていて、たまに四つ葉のものがありそれを持っていると家運降盛になると言われ、一時期好きな相手に妖精の微笑の四つ葉を贈るのが流行った」
「家運隆盛……?」
「子供だましの噂にすぎない」
前世でいう四つ葉のクローバーみたいなものかな?
「ノヴァさんちょっとだけ、三十分、いえ十分だけ時間をもらえますか? それで見つからなかったら諦めますから!」
「それは構わないが」
「ありがとうございます!」
俺はしゃがみこみ、あるものを探し始めた。ノヴァさんにはいつもお世話になってるし恩返ししたい。これならお金がかからない。
――二十分後――
見つけた!
十分と言ったのに、二十分ほど掛かってしまった。
葉の先が丸い形をしているクローバーと違い、妖精の微笑の葉はハート形をしていた。
可愛い! これなら四つ葉のクローバーよりご利益がありそうだ!
「ノヴァさん、これ良かったらもらってください。俺の気持ちです」
四つ葉の妖精の微笑を、ノヴァさんに手渡す。
家運隆盛って一家の運命の勢いが盛んって意味たったよな?
ノヴァさんとノヴァさんの家族に幸せが訪れますように。
「シエルが私にくれるのか?」
ノヴァさんが驚いた顔で俺を見ている。心なしか顔が赤い。
ノヴァさんからはプレゼントをもらってばかりで、俺からノヴァさんに物を贈ったことがなかったな。
「はい! ノヴァさんに持っていてほしいんです、もらってください!」
にっこりとほほ笑むとノヴァさんに抱きしめられた。
「ありがとう大切にする! いや家宝にする!!」
家宝にするなんて、ノヴァさんは大げさだな。
でもノヴァさんに喜んでもらえて良かった。
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