39 / 131
三十九話「ラック・ヴィル②」
しおりを挟む「この宿にしよう」
宿屋は通常街の入口か大通りに面した分かりやすい場所にある。
ノヴァさんに紹介された宿は街の中央、湖がよく見える場所にあった。
五階建ての石造りの壮麗な建物、これ貴族とか金持ちの商人専用の宿なんじゃ?
「この宿の壁は厚い、私が保証する」
高級感のある宿だから、確かに壁は厚そうだけど……。ノヴァさんが壁の厚さを知っているということは、ノヴァさんは以前この宿に泊まったことがある?
一人で、それとも誰かと?
もしかして……その当時の恋人と一緒に泊まった?
針で刺されたように、胸がチクチクと痛い。
いや推測で判断するのはよくない、一人で泊まったのかもしれないし。
「ノヴァさん、この宿に以前泊まったことがあるんですか?」
「ああ、何度かある」
一回じゃないんだ。
「そのとき、誰かと一緒でしたか?」
ノヴァさんの目をじっと見る。
「一人で泊まった、どうしてそんなことを?」
ノヴァさんの目を見てたけど、嘘ついてる感じじゃなかった。
良かった、一人で泊まったんだ。ホッと息をつく。
昔の恋人とセックスした部屋で、治療行為するのは……嫌だ。
ノヴァさんに過去に恋人がいて、その人と何をしていても、俺が口出しできることじゃないのに。
胸がズキズキして、心臓に手を当てシャツをギュッと掴む。なんでこんなにモヤモヤしてるんだろう。
「いえ、純粋に気になっただけです」
「そうか、この宿のスイートルームは見晴らしもいい、行こう」
ノヴァさんが俺の腰に手を回す。
ちょっと待った、今スイートルームって言いました?
「ノヴァさん、俺はこんな豪華な宿じゃなくても……」
一泊するのに金貨何枚かかるんだ? ノヴァさんは出世払いでいいと言ってくれたけど、冒険者登録しても最初はそんなに稼げないだろうし、宿代を支払うのにいくつの依頼をこなす必要があるんだ?? 今年中に返せるだろうか??
「私が嫌だ! 隣の部屋に音が漏れるのを気にしてシエルが声を抑えるのはつまらない! いや、最初は口に手を当て声を抑えるシエルの姿に萌えた! 興奮した! だが私はシエルの愛らしい求め声を聞きたい! 私の竿でめいっぱい喘ぐシエルが見たい! 隣の部屋の住人に声を聞かれた恥ずかしさで機嫌をそこねたシエルに、半日無視されるのは辛い!」
ノヴァさん俺に無視されたこと気にしてたんですね。というか外でそういう話をするのは止めてください。
道行く人がちらちらとこちらを見ている。俺は被っていたフードをさらに深く被った。耳まで赤いのを隠すためだ。
「それはあの、色々とすみませんでした」
と、言うべきなのかな? どうでもいいけど早くこの場を離れたい。
「金のことを心配しているなら気にしなくていい、私のわがままで泊まるのだから私が全額支払う! 返さなくて構わない!」
ノヴァさんのわがままになるのかな? 治療行為は俺のためにしてくれてる訳だし。
いや性行為はノヴァさんの性欲発散も兼ねている、そういう意味ではノヴァさんの為とも言える。…………もっともその場合、相手は俺じゃなくてもいい訳だが。
「行こう!」
俺が思案している間に、ノヴァさんにエスコートされ宿屋に連れ込まれていた。
331
お気に入りに追加
4,321
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。


【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる