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三十五話「既視感②」

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夢を見た。

今日の出来事を空から俯瞰ふかんしていた。でもおかしいんだ、夢の中の俺は俺だけど俺じゃないみたいで……。

髪は腰まで長いし、俺より賢そうな顔をしている。賢そうっていうか、冷たい目をしていた。

夢の中の俺はノヴァさんの事が嫌いなのか、ノヴァさんに触れられるとノヴァさんを叩くんだ。愛情表情とかじゃなくて、本気で嫌だって感じでバシッバシッと。

リナちゃんに「新婚旅行」って言われ、眉間にしわを寄せてたし。ノヴァさんに指輪をはめられたら、眉を釣り上げてノヴァさんの頬を叩いていた。

「僕の指に指輪をはめていいのは、エルガー様だけです!」

プンプン怒りながら、ノヴァさんに指輪を付き返していた。

えっ? 指輪って抜けるの? 俺のはめた指輪は抜けなかったのに? 俺の指が太いのかな? それとも他に理由があるのか?

つうかまだエルガーのこと好きだったの? あんなひどい振られ方をしたのに? その上エルガーには神子もいるのに? 未練がましいな。

リナちゃんが強盗に人質にされると、夢の中の俺は自ら人質を買って出た。そのまま森の奥に連れて行かれた。

森で強盗に眠りシュラーフの魔法かけられ、ノヴァさんから貰った指輪がないので魔法を弾き返すことが出来ず、眠ってしまった。

何を思ったのか強盗は夢の中の俺の服を脱がせていく……。

ローブと服のボタンを全部外すと日に焼けてない肌が顕になった。強盗は喉をごくりと鳴らし、夢の中の俺のパンツを半分脱がせた、そこにノヴァさんが現れて。

強盗はノヴァさんにボッコボコにされた、多分死んだかもしれない。

ノヴァさんが強盗に半分脱がされたシエルのパンツを元に戻そうとしたとき、夢の中の俺が目を覚ました。

自分の格好とノヴァさんがパンツに手をかけてるのを見て、夢の中の俺はノヴァさんがパンツを脱がそうとしたと勘違いしたらしく、ノヴァさんの頬を平手で叩いた。

「最低ですね!」

夢の中の俺はノヴァさんの話を一切聞かず、ノヴァさんをそう罵った。

ノヴァさんは言い訳をせずに「すまない」と謝っていた。

賊に辱めを受けたと夢の俺が知ったら傷つくと思い、ノヴァさんは何も伝えなかったのだ。

なんでかな、夢の中の俺は俺じゃなくてザフィーアな気がした。

ザフィーアの心が崖から落ちたときに死なかったら。前世である竜胆蘭が現れず、ザフィーアがそのまま旅をしていたら、こんな感じだったんじゃないだろうか?

ザフィーアはエルガーに未練がある。だからエルガーの好みに合わせて伸ばした髪を切らなかった。それで夢の中の俺は髪が長いままなんだ。

俺は邪魔だし手入れが面倒だし、金になりそうだからばっさり切った。

ザフィーアはノヴァさんに指輪をはめられて、『僕の指に指輪をはめていいのは、エルガー様だけです!』と言って怒っていた。それはつまりザフィーアはエルガーを愛してるってことだ。

俺はエルガーとの結婚だけは絶対にないと思っている。あんなわがままでおこりん坊で思慮が浅い王子様は死んでもお断りだ。

だから夢の中の俺は、俺じゃなくてザフィーアだと思う。自分のことを『僕』って呼んでたしな。

うーん、でもなんでだろ? この一連の流れ見覚えがあるんだよな。今日あった出来事に酷似しているからっていうんじゃなくて。もっとずっと前に、どこかで見たことがあるような?

漫画で読んだのだろうか? でも雑誌の連載はザフィーアが崖から落ちた所で終わっている。続きはないはず。

ならどこで見たんだろう? なんでこんなに既視感きしかんがあるんだろう?

うーん、思い出せん。


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