BL「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」第9回ＢＬ小説大賞、奨励賞受賞作品

三十三話「駅馬車の旅⑨」

ノヴァさんが強盗を縛り上げる。そういう作業はうっとりするぐらい素早い。

馬車に戻ると、リナちゃんとリナちゃんのお母さんに感謝された。

「人質になるためにわざと指輪がはずれない振りをしてくれたのですね！　シエルさんの機転がなかったらリナは今頃どうなっていたことか！」

リナちゃんのお母さんに何度も頭を下げられた。いやそういうつもりじゃなかったんだけどね。結果的にリナちゃんが解放されたから良かった。

「お姉ちゃん、無事でよかったぁ～～！」

リナちゃんが泣きながら抱きついてきた。

俺は人質にされたリナちゃんのメンタルの方が心配だ。この世界じゃ駅馬車強盗に遭遇したぐらいでへこたれていては生きていけないようで、俺の予想に反しリナちゃんも乗客も案外ケロリとしていた。

リナちゃんにも乗客にもケガがなくてよかった。

もちろん強盗を倒したノヴァさんも乗客から、めちゃくちゃ感謝されていた。

強盗は特殊な魔法をかけたロープで縛り上げ道に放置した。宿駅に着いたら報告し自警団か軍に出動してもらう。

駅馬車に乗せられない以上、道に放置するしかない。

強盗の仲間が助けにくる可能性もあるが、ノヴァさんの縛った縄はそう簡単には解けないらしい。

リーヴ村に戻るのも、先に進み宿駅に行くのも同じぐらい時間がかかるので先に進むことにした。

馬車の中でノヴァさんが、手をつなごうとしてきたり、肩に手を回してきりしたが、俺はそれを全て拒否した。

ノヴァさんに話しかけられても無視した。

リナちゃんが「痴話喧嘩？」と心配そうに尋ねてきたが、そもそも付き合っていないので痴話喧嘩などできるはずがない。

夕方、二つ目の宿駅に着いた。今日はここに泊まるらしい。

部屋に入ると、ノヴァさんがえびす顔でぐいぐい迫って来た。

「ここ壁が薄そうだから一回だけにしてください、それからセックス……解毒治療中のキスも愛撫も止めてください。体位は後背位でお願いします。解毒治療以外での接触、口づけやハグなんかも止めて下さい」

治療してもらっている身で申し訳ないのだが、これ以上正常位でエッチしていたら、ノヴァさんを本気で愛してしまう。

ノヴァさんにとっては性欲処理のための行為でしかないのに、俺だけ本気になるのは嫌だ。