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三十一話「駅馬車の旅⑦」※

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ノヴァ視点



道には二つの道がある、一つは大きな都市と都市を結ぶ街道。軍事用や商業目的で作られた道なので道幅は広く交通量も多い。

もう一つは街道から外れ村へと続く細い道。

街道沿いに村を作ると農作地が減る。その上街道沿いにある畑の作物は馬やロバが食べてもいいことになっている。見知らぬものが村の周囲を歩くことを警戒する村も多い。

そのような理由から村は街道から離れたところに作られることが多くなった。

駅馬車が強盗の襲撃を受けたのは、村と街道を結ぶ道のちょうど中間地点だった。

村からも街道からも離れているため、強盗に遭遇してもすぐに村の自警団や、冒険者ギルドに通報することができない。

交通量が少ないので、旅人が偶然性通りかかるリスクも少ない。

駅馬車の出発日と出発時間を知っていれば襲撃の計画も立てやすい。

強盗の数は、約二十人。

魔法で一気にふっ飛ばしてもよかったが、そうすると道の修復に時間がかってしまう。

剣で一人づつ倒して行くことにした。十分後、私は後悔した。

外の敵を倒し馬車に戻るとシエルの姿がなかった。

「お姉ちゃんが強盗に連れてかれちゃったの~~!」

シエルにあめをくれたリナという少女が泣きながら教えてくれた。

どうやら馬車の中に強盗の仲間がいたようで、そいつが乗客から金品を奪いシエルを人質に取って逃げたらしい。

くそっ! 戦闘に気を取られ、強盗とシエルが馬車を降りたことに気づかなかった!

しかし自分を責めている場合ではない。乗客から強盗が向かった方向を聞き出し、後を追う。

全力で走ればすぐに追いつくはずだ。

無事でいてくれシエル!

森を走ると人影が見えた、一人は地面に倒れている。まさかシエルの身に何かあったのでは!

「シエル!」

倒れている人物に駆け寄る! 抱きおこし顔を覗き込むと……知らない男だった。いや、この顔には見覚えがある。馬車で斜め後ろの席に座っていた男だ。

「ノヴァさん」

シエルに名を呼ばれ振り返る。シエルは強盗のすぐ横に立っていた。

「無事で良かった!」

シエルをぎゅっと抱きしめる。

「心配かけてすみません。強盗が眠りシュラーフの魔法を唱えたと思ったらいきなり倒れて」

「そうだったのか、ケガをしてないか? 回復ベッセルング

ケガの有無を確認する前にシエルに回復魔法をかけていた。

「いやらしいことをされなかったか?」

シエルは天使のように愛らしい、いかがわしいことをされたのではないかと冷や冷やした。

シエルをわいせつ目的で浚ったのなら、強盗を逆さずりにし意識を失わないようにしてから、爪と全身の皮をはぎ取り指を一本づつ切り落としてやる!

「大丈夫です何もされていませんから、というか苦しいです」

力いっぱい抱きしめていたらしい。シエルが肩をポンポンと叩いてくるので拘束を解いた。

強盗め、命拾いしたな半殺しで許してやる。

「すまないつい力が入ってしまった、だが無事で良かった」

シエルの瞳を見つめ、頬に手を当て顔を近づける。

「いやっ、あの……キスはちょっと」

シエルが私の口に手を当てる。この流れは口付けではなかったのか?

「ノヴァさん、この指輪……もしかして魔法を跳ね返す効果とか組み込まれてます?」

シエルが私の送っだ指輪を私の前にかざす。

「ああ、呪文を跳ね返す魔法陣が刻まれている」

「やっぱり……こんな高価なもの受け取れません」

「なぜだ?」

「だって……もらう理由がないです」

シエルが愛らしい顔を曇らせる。

「理由ならある!」

シエルは私の初恋の人で、運命の相手だ! 私はシエルを愛している! 

リナという少女が、私を見るときシエルの目からラブ光線が出ていると言うものだなら、てっきりシエルも私を愛していると思っていた。だから指輪を贈った。

人の言葉などあてにできんな。シエルから直接聞かなくては。

「返します! って……なんで抜けないんだ!」

シエルが指輪を抜こうとするが、動かないようだ。

「シエル、その指輪本当に抜けないのか?」

「本当ですよ! さっきから力いっぱい引っ張ってるのにびくともしない!」

シエルの指は赤くなっていた。

「やめよシエル! 手が傷つく!」

シエルの手を包み握りしめる。

「そうか、指輪が抜けないのか……フフフ、ハハハハハハ!」

「ノヴァさん急にどうしたんですか?」

急に笑い出した私をシエルが不審そうに見つめる。

「その指輪は母の形見だ、シエルにはめていてもらいたい」

「お母さんの形見……重っ」

シエルが顔をしかめる。

宝石の重さの事を言っているのだろうか? 宝石と言っても石だ、シエルの細い指で支えるのは大変かもしれない。

「それとも、そこまで計算……そういう手口?」

シエルがつぶやいたが私には聞き取れなかった。

『運命の相手が見つからなくても諦めないで、プラトニックな関係を築くという手もあるわ。あなたに愛する人が出来たなら、この指輪を渡しなさい。あなたが心から愛していなければ相手の指にはめることができず、相手があなたを心から愛していなければ指からするりと抜けてしまう指輪よ』

シエルの指から指輪が抜けないと言うことはシエルも私の事を……!

「嬉しいぞシエル! 私は今日ほど嬉しい日はない!」

シエルを抱き上げその場でくるくると回る。

「ちょっ、ノヴァさん……! 離して下さい……! 目が回る……!」

回転を止めシエルを地面に下ろす。シエルはふらついた足で私の胸に飛び込んできた。

初恋の人が運命の相手で、その相手も私を愛している!

こんなに嬉しいことはない。王都に帰ったらすぐに結婚しよう! その前に兄上と父上に紹介しなければ………!

シエルの腰に手を添え後頭部を抑え、唇に唇を重ねる。

「ノヴァさん、やっ! キスは嫌っ……!」

シエルがちょっとだけ抵抗したのを、聞かなかったことにし深く口づけた。

シエルの口が開いていたのをこれ幸いと、舌を滑りこませ舌を絡めとる。

口づけの間もシエルは私のポカポカと叩いてきたが、構わず口内を貪る。くちゅくちゅと唾液がまじる音が響く。

長い口付けのあと唇を離すと、二人の間を愛の糸が引いた。

愛しているシエル! シエルを見つめラブ波を送ると、シエルは眉間にシワを寄せ私を見ていた。ちょっとすねたような、そんな表情も可憐だ。

強盗を縛り上げ駅馬車に戻る。馬車に戻ってからシエルの態度が冷たい。

手をつなぐのも肩に手を回すのも腰に手を添えるのも嫌がる。

話しかけても返事をしてくれないし、目も合わせてくれない。

宿駅に一泊することになり、思いが通じた記念に熱い夜を過ごそうとシエルに迫れば、するりと躱されてしまう。

「ここ壁が薄そうだから一回だけにしてください、それからセックス……解毒治療中のキスも愛撫も止めてください。体位は後背位でお願いします。解毒治療以外での接触……口づけやハグなんかも止めて下さい」

シエルがクールな表情で言い放つ。

なぜだかシエルは浮かない表情をしていた。これがいわゆるマリッジブルーというやつなのだろうか?



◇◇◇◇◇
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