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二十八話「駅馬車の旅④」
しおりを挟む馬車がガタガタと揺れ、急停車した。
「きゃー!」とか「うわっ!」といった悲鳴が馬車内のあちこちから上がり、座席の上にある荷物棚から鞄や袋などがドサドサと音を立てて落ちた。
「無事か?」
頭の上からノヴァさんの声が聞こえる。
俺はノヴァさんの胸に顔をうずめていた。揺れを察知したノヴァさんがとっさに抱きしめてくれたので、どこもケガしてない。
「はい大丈夫です、ありがとうございます」
またノヴァさんに助けられてしまった。
「駅馬車強盗です! 二十人はいます! 皆さん逃げて下さい!」
御者の言葉に馬車内が騒然となる。
リナちゃんが泣きそうな顔でお母さんにしがみついていた。お母さんは『大丈夫よ』と言ってリナちゃんを落ち着かせようとしている。だがリナちゃんのお母さんも顔色が真っ青で、手が震えている。
なんとかこの親子だけでも逃したい。
「S級冒険者のノヴァ・シャランジェールだ! 私が外に出て盗賊を退治してくる! 危険だから皆は外に出るな!」
ノヴァさんがすくっと立ち上がった。ノヴァさんってS級冒険者だったのか? すごいな!
「少しの間待っていてくれ、外にいる連中を片付けてくる」
ノヴァさんが俺の頭をなでた。
「俺も行きます!」
ザフィーアは魔法を習ってたから、多少は戦えるはず。
「悪いが足手まといだ」
ノヴァさんにバッサリ切られた。
呪文が使えても戦闘経験ゼロじゃな。S級冒険者のノヴァさんの足を引っ張るだけだ。だが何もしないでいると落ち着かない。
「シエルは馬車の中にいて乗客を守ってくれ」
ノヴァさんがそんな俺の心を読んだように、うなだれる俺の頭を撫でてくれた。
「分かりました!」
車内の乗客を守るのも大切な仕事だ!
ノヴァさんはS級冒険者だからきっと強い。でも敵は大勢いるみたいだし、一人で行かせるのは心配だ。
俺は無意識にノヴァさんの服の袖を掴んでいた。ノヴァさんが不思議そうに俺を見る。
「……帰ってきて下さいね」
上目遣いで伝えると、ノヴァさんの顔が朱色に染まった。
「必ず帰る!」
ノヴァさんが俺の頬をなでる、マントを翻し馬車を颯爽と降りて行った。
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