28 / 131
二十八話「駅馬車の旅④」
しおりを挟む馬車がガタガタと揺れ、急停車した。
「きゃー!」とか「うわっ!」といった悲鳴が馬車内のあちこちから上がり、座席の上にある荷物棚から鞄や袋などがドサドサと音を立てて落ちた。
「無事か?」
頭の上からノヴァさんの声が聞こえる。
俺はノヴァさんの胸に顔をうずめていた。揺れを察知したノヴァさんがとっさに抱きしめてくれたので、どこもケガしてない。
「はい大丈夫です、ありがとうございます」
またノヴァさんに助けられてしまった。
「駅馬車強盗です! 二十人はいます! 皆さん逃げて下さい!」
御者の言葉に馬車内が騒然となる。
リナちゃんが泣きそうな顔でお母さんにしがみついていた。お母さんは『大丈夫よ』と言ってリナちゃんを落ち着かせようとしている。だがリナちゃんのお母さんも顔色が真っ青で、手が震えている。
なんとかこの親子だけでも逃したい。
「S級冒険者のノヴァ・シャランジェールだ! 私が外に出て盗賊を退治してくる! 危険だから皆は外に出るな!」
ノヴァさんがすくっと立ち上がった。ノヴァさんってS級冒険者だったのか? すごいな!
「少しの間待っていてくれ、外にいる連中を片付けてくる」
ノヴァさんが俺の頭をなでた。
「俺も行きます!」
ザフィーアは魔法を習ってたから、多少は戦えるはず。
「悪いが足手まといだ」
ノヴァさんにバッサリ切られた。
呪文が使えても戦闘経験ゼロじゃな。S級冒険者のノヴァさんの足を引っ張るだけだ。だが何もしないでいると落ち着かない。
「シエルは馬車の中にいて乗客を守ってくれ」
ノヴァさんがそんな俺の心を読んだように、うなだれる俺の頭を撫でてくれた。
「分かりました!」
車内の乗客を守るのも大切な仕事だ!
ノヴァさんはS級冒険者だからきっと強い。でも敵は大勢いるみたいだし、一人で行かせるのは心配だ。
俺は無意識にノヴァさんの服の袖を掴んでいた。ノヴァさんが不思議そうに俺を見る。
「……帰ってきて下さいね」
上目遣いで伝えると、ノヴァさんの顔が朱色に染まった。
「必ず帰る!」
ノヴァさんが俺の頬をなでる、マントを翻し馬車を颯爽と降りて行った。
330
お気に入りに追加
4,304
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる