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11話「美しいメイド」

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メイドは前髪で顔を隠しているので、彼女の顔はほとんど見えない。

「エラ、何で入ってきたんだい!
 今大事な方をおもてなししているところなんだよ!」

「お義姉様、何で書斎に入ってきたのよ!
 王子様との婚約が駄目になったらお義姉様のせいよ!」

カウフマン伯爵夫人とアルゾンが眉を釣り上げ、エラと呼ばれたみすぼらしい少女を怒鳴りつけた。

そんなアルゾンを俺はぼんやりと眺めていた。美人は怒った顔も美しいな。

美しい二人を怒らせたのだから、このメイドが悪い。

しかし二人はメイドを「エラ」と呼んでいるのが気になる。

確かカウフマン伯爵家の実子がそんな名前だったな。

後でこの娘に、カウフマン伯爵家の相続権を訴えられたら面倒だ。

今のうちに仲間にしておこう。

ブスでも構わないから俺の愛人にしてしまおう。

そうすれば後で伯爵家の相続権がどうのと、ごねないはずだ。

「申し訳ございません。
 お義母様、アルゾン。
 私はただお客様にお茶とお菓子をお持ちしただけで……」

エラと呼ばれた少女はおどおどしながら答えた。

「それが余計なお世話だと言っているのよ!」
「お母様の言うとおりだわ!
 お義姉様は引っ込んでて!」

カウフマン伯爵夫人とアルゾンが、鬼の形相でエラを叱りつけている。

凄い迫力だな!

母娘揃って元気があってよろしい!

「カウフマン伯爵夫人もアルゾンも、そうカリカリしないでくれ」

俺は二人をなだめた。

「エラといったね?
 俺は気にしてないよ。
 お茶とお菓子を持ってきてくれてありがとう」

俺はエラに優しく声をかけた。

「カウフマン伯爵夫人もアルゾンも、彼女も家族の一員なのでしょう?
 家族に冷たくするのはよくないですよ」

エラという娘を俺の愛人にするため、俺は彼女に優しく接した。

エラという娘は継母と義妹に辛く当たられているようだ。

こういうタイプは、優しい言葉をかければ簡単になびく。

俺がエラのことを「家族の一員」と言うと、カウフマン伯爵夫人は面白くなさそうな顔をした。

「エラは亡きカウフマン伯爵の娘なのですが、性格の悪く、根性のネジ曲がった子なのです。
 だからこうして、時折あたくしが彼女を躾けているのです」

カウフマン伯爵夫人がエラと呼ばれた少女を睨みつけながら言った。

「それから、家督相続の件については問題ございません。
 パーティでもお話しましたが『カウフマン伯爵家は養女のアルゾンに継がせる』という夫の遺言書がございますから」

「誤解しないでください、カウフマン伯爵夫人。
 俺はアルゾンが相続権を持っているか心配し、亡き伯爵の血を引くエラに優しくしたわけではない」

嘘だ。

俺がエラに優しくするのは、後で彼女に伯爵家の相続権を主張させないためだ。

そのためには今のうちに彼女を丸め込んでおく必要がある。

「彼女はカウフマン伯爵夫人の義理の娘、アルゾンの義理の姉に当たるのでしょう?
 なら俺にとっては義姉だ。
 俺はエラを家族として受け入れ、優しく接したいと思っています」

「そうでしたか。
 王子殿下はとても親切なのですね」

「王子様のそういう思いやりのあるところ素敵だわ」

カウフマン伯爵夫人とアルゾンが俺を褒め称えた。

美人親子に褒め称えられて俺はいい気分だった。

「エラ、お茶をありがとう。
 これから俺たちは家族になるんだ、近くに来て顔を見せてくれないか?」

だが、エラはその場から一歩も動こうとしなかった。

王子である俺が優しくしてやっているのに、生意気な女だ!

痺れを切らした俺は、自らエラに近づき彼女の前髪をかき分けて、彼女の顔を確認した。

顔を見せられないぐらい不細工なのか?

「こ、これは……!」

彼女の顔を見て、俺は驚いた。

継母と義理の妹に虐げられているから、とんでもないと不美人なのかと思っていたが……!

エラの目鼻立ちは整っていて、そこはかとなく気品を感じた。

俺の勘が告げている。これは磨けば光るタイプの女だと!

美人姉妹に取り合いされる日々か……それも悪くないな。

この娘を愛人にしたら、アルゾンの次に愛でてやろう。

アルゾンとは週に四日、エラとは週に三日、床を共にしよう。

エラは俺に髪を触られて顔を赤く染め俯いていた。

男に慣れていない感じもいい。

エラとの初夜が楽しみだ!  

「怖がらないでエラ。
 もっとよく顔を見せて」

俺がエラの頬に手を触れようとしたとき……。


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