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第一章

74話「楽しい旅にしたい」ハルト・サイド

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――ハルト・サイド――


「ただいま~~」

アダルギーサが転移の魔法を使って帰ってきた。

アダルギーサは黒髪お下げのメイドの変装はやめ、本来の姿に戻り赤いドレスを身に纏っていた。

高速で移動するシャインくんの元に、転移魔法で帰ってくるのは高度な技術が必要だ。やはりアダルギーサの魔法は侮れないな。

本気で戦ったら僕でもアダルギーサに勝てるかどうか……。アダルギーサを敵に回すのだけは止めておこう。

それはそうと、魔女のまとっているドレスと、リーゼロッテがいま着ているドレスのデザインが似ているのが気になる。

「私の今着ているドレスと、魔女様のお召になっているドレスのデザイン、とても似ていますね」

「あら気づいた? リーゼロッテは私のお気に入りだから、アタシが愛用しているドレスと、似たデザインのドレスを贈ったの。こうして並ぶと姉妹みたいでしょう?」

「はい。私、魔女様のことを尊敬しているので、魔女様のドレスと、似たデザインのドレスが着れて嬉しいです」

リーゼロッテはアダルギーサのことを尊敬しているのか……。

将来リーゼロッテが、アダルギーサみたいになったら嫌だな。

僕は二人の会話に、そこはかとない不安を感じていた。

「アダルギーサ、忘れ物はみつかったの?」

「ええ、簡単にね」

アダルギーサが口角をあげる。

「そう、それは良かったね」

アダルギーサが何をしてきたかなんとなく想像はつく。分かっているけど、あえて触れずにおく。

アダルギーサは僕以上に、僕が魔女の呪いを受けたことで王宮での評価が下がり、不遇の扱いを受けてきたことを気にしているから。

おそらくアダルギーサは忘れ物をしたと言って戻り、僕の汚名を注ぐ手助けをしてきてくれたのだろう。

「アダルギーサ、ありがとう」

「ハルトがアタシにお礼を言うなんて珍しいわね。なんのお礼かしら?」

「別に、ただなんとなく言ってみただけだよ」

「ひねくれ者のあんたからお礼を言われるなんて、めったにないから、受け取っておいてあげるわ」

そう言ったアダルギーサはどこか嬉しそうだった。

「ところでハルト様、シャインさんはどこに向かって飛んでいるんですか?」

「リーゼロッテには言ってなかったね。海の国だよ」

「海の国?」

「リーゼロッテに三冊の本を渡しただろ?」

「はい、海の国と、砂漠の国と、雪の国の本ですね」

「その三国を、順番に巡って行こうと思っているんだ」

「それでは海の国のあとは、砂漠の国や雪の国にも行かれるのですか?」

「うん、リーゼロッテさえよければだけど」

「嬉しいです。私はハルト様と色んな国を一緒に回ってみたいです。ハルト様と海に沈む夕日を眺めたり、砂漠でお月様の光を浴びたり、雪原でオーロラのカーテンを見てみたいです!」

リーゼロッテが子供のように無邪気な笑顔を浮かべる。

「そうだね、僕もリーゼロッテと一緒にいろんな景色を見てみたいな」

これがリーゼロッテとする最初で最後の旅になる。

この旅の終わりに、リーゼロッテは新しい名前と新しい家を見つけ、僕は……呪いで死を迎える。

「ハルトとリーゼロッテの新婚旅行ね。海の国ではビキニを着て海に入るのが流行っているのよ」

「魔女様、ビキニとはなんですか?」

「あらハルトから渡された本に書いてなかった? ビキニは布面積が極端に少ない防水性の高い装備よ」

「布面積が極端に少ない防水性の高い装備……?! それを着て海に入るのですが?」

「そうよ、海の国では海に入るときはみんな水着を着るのよ。ハルトもリーゼロッテのビキニ姿が見たくて、旅の目的地を海の国にしたんでしょう?」

「えっ……? そうなのですか? ハルト様……」

困惑した表情でリーゼロッテが僕に問う。

「違う! 誤解だよリーゼロッテ!」

変態を見る目で僕を見ないでくれ!

「私は……ハルト様だけが見るなら、ビキニを着ても……」

「ええっ……!?」

リーゼロッテまで何を言い出すんだ!

「良かったわねハルト。リーゼロッテのビキニ姿が拝めるわよ」

「アダルギーサ! 悪ノリしすぎだ!」

だけどアダルギーサの悪ノリのおかげで、ほんの少し、この場の空気が和んだ。

さっきまで、城に乗り込んだ余韻で暗い雰囲気だったから。

優しいリーゼロッテには、報復とか、復讐とか、仇討ちとか、敵討ちとか、物騒なことは似合わない。

リーゼロッテとの最初で最後の旅を、楽しいものにしたい。そのために僕は最大限の努力をする。

シャインくんは、僕が魔女の呪いが解けずに死んだとき、一緒に地獄まで来てくれると言ってたけど、やっぱりシャインくんを僕の巻きぞいにはできない。

それに新しい土地で一人で暮らすリーゼロッテが心配だ。

シャインくんには僕の死後、リーゼロッテの側に護衛としてついていてもらいたい。

僕の最後のわがままを、シャインくんは聞いてくれるかな……。



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新作短編を投稿しました。こちらもよろしくお願いします。

「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする~二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/225602514 #アルファポリス

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