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第一章
65話「ワルモンド、青ざめる」ハルト・サイド
しおりを挟む大臣とトレネンとデリカにけしかけられ、ワルモンドの顔色は青を通り越して紫になっていた。
「ワルモンド、君にはできないよね? 君は魔導書の誤字の修整どころか、魔導書一冊すら最後まで読み切ったことがないんだから。君には下級魔法のファイア一発満足に放てないだろ?」
「父上を馬鹿にするな! 数々の魔法陣を開発した父上が、下級魔法のファイアすら放てないはずがない!」
トレネンがキャンキャンと吠える。
トレネンは口では勇ましいことを言っているが、奴はまだテーブルの下に体を半分隠したままだ。
そういうことは、テーブルの下から出てきてから言ってくれ。
「父親を信じるのならそれもいいだろう。だけど僕の放った魔法をワルモンドが弾き返せなかったら城にいる人間が一人残らず骨すら残らず灰になるんだよ。それでもいいのかな?」
と言って脅してやると、
「ゑっ……?!」
トレネンは声を裏返らせて震え出した。
「ワルモンド、城にいる魔道士に加勢を求めてもいいんだよ。もっとも庭にいる魔道士の魔法は僕がさっき封じてしまったけどね」
さっき庭にいる魔道士をワルモンドが首にしたから、魔法が使えたとしても誰も加勢しないだろうけど。
「用意はできたかな? じゃあいっくよ~~」
ゆっくりと火球を降下させると、ワルモンドは床に膝をついた。
「ウィルバート……いや兄上。余にその火球を返すすべはない……降参だ」
ワルモンドが力なく呟いた。
「父上! 戦いもせずに自ら敗北を認めるというのですか?!」
だからトレネン、そういうセリフはテーブルの下から出てきてから言いなよ。
「陛下! 何と弱気な!」
大臣がワルモンドに責めるような視線を送る。
「陛下が降参したらお姉様にギャフンと言わせられないじゃない! あんな生意気なガキ、陛下の魔法でねじ伏せてやってよ!!」
デリカがギャーギャーと騒いでいる。
「黙れーー!! 皆のもの、あの火球を見よ! あんな巨大な火球を操るものを見たことがあるか?! あんな物を作り出せる奴は化け物だ! 化け物に勝てる訳がないだろう!!」
ワルモンドが周りにいた人間を一喝した。
化け物か……言ってくれるね。
リーゼロッテにもそう思われたのだろうか? それはちょっと嫌だな……。
リーゼロッテをちらりと見る。ワルモンドの発言を特に気にしている感じはしない。
良かった。ホッと胸をなでおろす。
他の誰にどう思われても構わない。だけどリーゼロッテにだけは、化け物だとは思われたくなかった。
【ハルト様、奴らに止めを】
「ああうん、そうだね」
シャインくんに言われ我に返る。
ワルモンドたちを一瞥すると、全員の顔が死人のように青ざめていた。
シャインくんの言った「止め」を、火球を放ち全員を焼き殺すことだと勘違いしたらしい。
火球を放つつもりはないんだけどね。放ったとしても大した威力はないし。
そういえば火球を出したままだった。まあいっか、城を去るまで火球は出したままにしておこう。
「トレネン、デリカ。助けてほしいなら君たちの犯した罪を正直に白状するんだ。そしてリーゼロッテに謝罪しろ」
「俺は罪など犯していない!」
トレネンがやっとテーブルの下から出てきた。へっぴり腰で足がガクガクと震えているが、言葉だけは威勢がいい。
「わたしもリーゼロッテに謝罪するような、悪いことなんてしてないわ!」
トレネンとデリカがしらばっくれた。
それとも二人には罪を犯した意識がないのだろうか?
「なら僕が君たちの罪状を教えてあげるよ」
覚えてないなら嫌でも思い出させてあげるよ。自分たちが何してきたのかをね。
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