上 下
64 / 99
第一章

64話「火球」ハルト・サイド

しおりを挟む



「大丈夫だよリーゼロッテ。彼らの放った矢は、絶対に僕たちに当たらないから」

僕はシャインくんの体を覆うように、半径二十メートルほどの結界を張る。

これであらゆる攻撃は僕らには届かない。

シャインくんはドラゴンだから、人間の放った矢に当たっても、かすり傷一つ負わない。傷を負わないからって放ってはおけない。だからシャインくんの体を覆える大きさの結果を張った。

僕は空中に魔法陣を描き、放たれた矢を空中で止める。

弓矢の向きを反転させ、矢を弓兵の足元を狙って返してやった。

体には当てない、リーゼロッテの前で流血沙汰は避けたいからね。

自ら放った弓矢を返され、弓兵たちは動揺していた。
  
殆どの弓兵は呆然としている。だが気丈にも二発目の矢をかまえる者もいた。

僕は魔法陣を展開し、弓兵を透明な球体の中に個別に閉じ込めてやった。半径五十センチほどの球体だから、大人の男が入るには少々狭いだろう。

「弓兵もこれで使い物にならなくなったな? ワルモンドまだやる気? 次は剣士が相手かな? それとも槍兵かな?」

ワルモンドを煽ると、ワルモンドは「くそぉぉぉ!」と言って悔しがっていた。

「こないなら、こっちから行くね」

僕は片手を上げ上空に半径三十メートル程の魔法陣を描いた。

庭にいる王宮魔道士団からどよめきが起こる。どうやら彼らはこの規模の魔法陣を見たことがないらしい。

大きいだけの魔法陣なんて効率が悪いだけだから、これはただの苔脅しだ。

普段はこんな効率の悪い魔法陣を展開しない。

ワルモンドの配下には、それを見抜けるだけの才のある魔道士がいないようだ。

魔法陣の上に半径六十メートル程の巨大な火球を作り出す。

たんなるパフォーマンスなので、この大きさの火球でファイア一発分の威力しかない。

高威力の火球を出して、万が一暴発したら、城の半径五十キロメートルが消失する。

魔石に魔力を流すのをやめたから、魔力がいっぱいあまってる。

その気になれば大陸一つ吹っ飛ばせる程の威力のある火球を出せるけど、万が一にもコントロールに失敗したら大惨事だからやめておく。

庭に集まった王宮魔道士たちが、僕が作り出した巨大な火球を見て腰を抜かしている。

ワルモンドとトレネンとデリカが大きく口を開け、マヌケな顔でこちらを見ていた。

「ワルモンド。君が本当に魔法陣を開発し、魔導書の誤字を直し、魔石にルーンを刻んだと言うのなら、この程度の火球なら簡単に弾き返せるはずだ! 僕の作っ火球と君の作った火球で、勝負をしようじゃないか!」

僕の言葉を聞いたトレネン、デリカ、大臣、庭にいる魔道士、球体に閉じ込めた弓兵が期待を込もった瞳でワルモンドを見つめる。

「陛下、王兄殿下の名を語る子供に、好き勝手に言わせておいて良いのですか? 陛下の魔法であ奴に目にものを見せてやってください!」

大臣がワルモンドをあおる。

「そうです父上! あの小僧の作り出した火球を遥かに超える大きさの火球を作り出し、あいつを消し炭にしてください!」

「そうですわ国王陛下! 生意気なお姉様とお姉様の仲間に天誅を下してやってくださいな!」

トレネンとデリカがワルモンドをたきつける。



☆☆☆☆☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐を誓った亡国の王女は史上初の女帝になる

霜月纏
恋愛
 超大国のブリテギス帝国の隣に位置する王国ティルノーグの第一王女に生まれたフレイア。ある日、神との邂逅で前世を思い出し、自分勝手な神々と賭けをすることに! その賭けの内容とは世界を統一すると言う無理難題で更には賭けに負ければ死ぬというハードモード! しかし勝てば何でも一つだけ願いを叶えるという条件を聞き、フレイアは神を一発殴ることを目標に賭けを受け入れる。そして世界統一のために、まずは自国の内政を改善しようとするのだが…………。 この作品は「小説家になろう」でも掲載されています。 「滅国の王女」の改訂版ですが、人物名、国名などが大きく変更されています。新作としてお楽しみ頂けると幸いです。 誤字脱字がございましたらご指摘下さい! 感想、批評、全てが作品を磨き上げる材料になります! たくさんの感想をお待ちしています!

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

処理中です...