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第一章
64話「火球」ハルト・サイド
しおりを挟む「大丈夫だよリーゼロッテ。彼らの放った矢は、絶対に僕たちに当たらないから」
僕はシャインくんの体を覆うように、半径二十メートルほどの結界を張る。
これであらゆる攻撃は僕らには届かない。
シャインくんはドラゴンだから、人間の放った矢に当たっても、かすり傷一つ負わない。傷を負わないからって放ってはおけない。だからシャインくんの体を覆える大きさの結果を張った。
僕は空中に魔法陣を描き、放たれた矢を空中で止める。
弓矢の向きを反転させ、矢を弓兵の足元を狙って返してやった。
体には当てない、リーゼロッテの前で流血沙汰は避けたいからね。
自ら放った弓矢を返され、弓兵たちは動揺していた。
殆どの弓兵は呆然としている。だが気丈にも二発目の矢をかまえる者もいた。
僕は魔法陣を展開し、弓兵を透明な球体の中に個別に閉じ込めてやった。半径五十センチほどの球体だから、大人の男が入るには少々狭いだろう。
「弓兵もこれで使い物にならなくなったな? ワルモンドまだやる気? 次は剣士が相手かな? それとも槍兵かな?」
ワルモンドを煽ると、ワルモンドは「くそぉぉぉ!」と言って悔しがっていた。
「こないなら、こっちから行くね」
僕は片手を上げ上空に半径三十メートル程の魔法陣を描いた。
庭にいる王宮魔道士団からどよめきが起こる。どうやら彼らはこの規模の魔法陣を見たことがないらしい。
大きいだけの魔法陣なんて効率が悪いだけだから、これはただの苔脅しだ。
普段はこんな効率の悪い魔法陣を展開しない。
ワルモンドの配下には、それを見抜けるだけの才のある魔道士がいないようだ。
魔法陣の上に半径六十メートル程の巨大な火球を作り出す。
たんなるパフォーマンスなので、この大きさの火球でファイア一発分の威力しかない。
高威力の火球を出して、万が一暴発したら、城の半径五十キロメートルが消失する。
魔石に魔力を流すのをやめたから、魔力がいっぱいあまってる。
その気になれば大陸一つ吹っ飛ばせる程の威力のある火球を出せるけど、万が一にもコントロールに失敗したら大惨事だからやめておく。
庭に集まった王宮魔道士たちが、僕が作り出した巨大な火球を見て腰を抜かしている。
ワルモンドとトレネンとデリカが大きく口を開け、マヌケな顔でこちらを見ていた。
「ワルモンド。君が本当に魔法陣を開発し、魔導書の誤字を直し、魔石にルーンを刻んだと言うのなら、この程度の火球なら簡単に弾き返せるはずだ! 僕の作っ火球と君の作った火球で、勝負をしようじゃないか!」
僕の言葉を聞いたトレネン、デリカ、大臣、庭にいる魔道士、球体に閉じ込めた弓兵が期待を込もった瞳でワルモンドを見つめる。
「陛下、王兄殿下の名を語る子供に、好き勝手に言わせておいて良いのですか? 陛下の魔法であ奴に目にものを見せてやってください!」
大臣がワルモンドをあおる。
「そうです父上! あの小僧の作り出した火球を遥かに超える大きさの火球を作り出し、あいつを消し炭にしてください!」
「そうですわ国王陛下! 生意気なお姉様とお姉様の仲間に天誅を下してやってくださいな!」
トレネンとデリカがワルモンドをたきつける。
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