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第一章

61話「デリカ嫉妬する」ハルト・サイド

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二十九年ぶりの再会だが、全く感動しない。ワルモンドのふてぶてしい顔を見ていると腹立たしさすら感じる。

「お、お前が本物のウィルバートなら、なぜ二十九年間姿が変わっておらぬのだ!」

ワルモンドは僕の北の森にある屋敷に幽閉されてから一度も、北の森にある屋敷を訪ねてきたことがない。

僕に用事があるときは使者を送っていたからね。使者にはシャインくんが対応していたから、使者も僕の姿を目にしていない。

ワルモンドが僕の姿が変わっていないことを知らなくても仕方ない。

「そっちは老けたね。それから元々悪かった趣味がさらに悪くなった」

ワルモンドが着ている金ピカな服を上から下まで眺め、クスリと笑う。

「くそっ! その人を食ったような笑い方は、間違いなくウィルバート! 相変わらず無礼な奴だ!」

ワルモンドが怒りで顔を歪めた。

僕が本物のウィルバートだと分かってもらえて嬉しいよ。

「久しぶりね、デリカ」

「嘘っ……! リーゼロッテ……なの?」

デリカは突如現れたリーゼロッテを見て驚愕していた。

デリカの表情が驚きから嫉妬へと変わっていく。

「リーゼロッテ、その格好はなんなのよ!」

デリカは鬼のような形相でリーゼロッテを指差した。

「トレネン様に婚約破棄された分際のくせに! 私より華やかなドレスを着て、高価なイヤリングやネックレスをつけてるなんて生意気よ!

髪が輝くほど艶々しているのも、肌が白くてつるつるしているのも、ドラゴンの背に乗って現れたのも、仲間がいるのも。全てがムカつくわ!」

デリカは苦虫をかみ潰したような顔で、ギリギリと奥歯を噛んでいる。

「リーゼロッテ……なのか? 綺麗になったな……」

声のした方向を見ると、テーブルの下からトレネンが頭だけ出していた。トレネンの頬がほのかに色づいているのが、しゃくに触る。

リーゼロッテが綺麗になったからなんだというんだ。

リーゼロッテを侮辱して婚約破棄した男が、今更リーゼロッテに声をかけるな。不愉快だ。

「君がワルモンドの息子のトレネンだな」

トレネンの顔をじっくりと眺める。近くで見ると、上空から見たときより間の抜けた顔をしている。

「初めまして、君の伯父のウィルバート・エックハルト・クルーゲだ。

リーゼロッテは僕の妻、つまり君の義理の伯母にあたる。軽々しくリーゼロッテの名前を呼ぶことは僕が許さない。それからリーゼロッテに気安く話しかけるな」

「嘘をつけ! お前のような子供が俺の伯父な訳ないだろ! お前こそ王太子である俺の名前を気安く呼ぶな! 無礼だそ!」

今さっき、ワルモンドが僕のことをウィルバートと呼んだだろ? 聞いてなかったのか? それとも馬鹿なのか? 

「デリカと言ったね、君もリーゼロッテへの態度を改めるんだ。僕は王の兄で王族の中では一番の年長者だ。その僕の妻であるリーゼロッテへの暴言は許さないよ」

「何よ! 子供が偉そうに! リーゼロッテは私の双子の姉なんだから、文句を言って何が悪いのよ!」

トレネンとデリカ、どっちも頭が空っぽのようだ。お似合いの二人だね。

リーゼロッテはこの二人と縁を切って正解だ。

【ハルト様への不敬はこのわたくしが許しません。ハルト様、この無礼な小僧どもを頭から食べても構いませんか?】

シャインくんが低い声で唸り、トレネンとデリカを睨みつける。

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ! い、命ばかりはお助けを!!」

トレネンは顔を真っ青にして、また机の下に潜ってしまった。

デリカは顔面蒼白で立ち尽くしている。デリカの立っている場所が濡れていることから推測すると……失禁したらしい。

こんなのが王太子と王太子の婚約者とはね、世も末だ。


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