上 下
57 / 99
第一章

57話「バルコニーでブランチ」国王・サイド

しおりを挟む



――国王ワルモンド・クルーゲ・サイド――


「それでは父上、明日にはリーゼロッテは城に来るのですね?」

城のバルコニーで、息子のトレネンと息子の婚約者のデリカと共にブランチを食べていた。

「ああそうだ、今日ウィルバートの元に使者を送った」

手紙を読んだときのウィルバートの反応を想像すると笑いがこみ上げてくる。

長年独り身で暮らして来た男が、快楽を知った頃に新妻を奪われるのだ、さぞかし悔しかろう。

「明日もう一度、ウィルバートの屋敷に使者を送り、リーゼロッテを城に連れてこされる」

使者には、ウィルバートが抵抗するようなら暴力を振るっても構わんと伝えてある。

「助かりますわ、国王陛下」

「これで明日からリーゼロッテをデリカの身代わりとして学園に通わせることができる。デリカは王太子妃教育に集中できるな」

「はい、トレネン様」

余はリーゼロッテを愛人に出来るし、三方丸くおさまるな。

「それにしても父上、今日使者に王命を持たせ伯父上の暮らす北の屋敷にいかせたんですよね? なぜそのとき、無理やりにでもリーゼロッテを連れてこさせなかったのですか?」

「余は情け深い男だ。ウィルバートに、妻との別れの時間を与えてやったのよ」

「伯父上は魔女の呪いをかけられ城を追放された王族の恥です! 情けをかけるだけ無駄です!」

トレネンにはウィルバートが王家の恥で、働きもせずに税金で暮らしている穀潰しに見えるのだろう。

トレネンにはウィルバートが魔石を開発したことも、様々な魔法陣を新しく発明したことも、魔導書や古文書の誤字や計算ミスを修整していることも伝えていないからな。

「俺がデリカと結婚して子を成したら、伯父上の血のスペアとしての役割も終わります! いえ本来なら俺が生まれた時点で、伯父上の血のスペアとしての役割は終わっていたのです! 父上、俺とデリカが結婚したら、伯父上を王族の籍から除籍し、追放処分にしましょう!」

「そうですわ陛下、役立たずの王兄殿下に予算を使うなんてもったいないですわ」

トレネンとデリカの言い分にも一理ある。

ここ数年ウィルバートは新しい魔法陣を開発していない。魔石の数や種類を増やせと命じているのに、ずっと無視している。

ここ数年ウィルバートがやったことと言えば、誰も読まないような古い書物を読みふけり、誤字を報告するのみ。

そろそろウィルバートの切り時かもしれんな。

先代の国王であった父が、『ウィルバートのことは何があっても王族から除籍してはならん。国外追放など以ての外。絶対にウィルバートの機嫌を損ねてはならん!』と言っていた。

父上は甘い人だったから、城から追い出したウィルバートに同情でもしたのだろう。

父はウィルバートが余の代わりに魔女の呪いを受けたことに、うすうす感づいていたからな。

父は気づいていながら余に何も言わなかった。ウィルバートの汚名を注ぐことも、ウィルバートの名誉を回復することも、ウィルバートを城に戻すこともしなかった。

父は余に王位を譲るという遺言を残して亡くなった。それはつまり父は、余の人の上に立つ能力を認めていたということだ。父上はウィルバートより、余の方が可愛かったのだ。

唯一の憂いであったウィルバートの呪いは解けた。魔女にゴブリンにされることはない。

「そうだな、ウィルバートの役目は終わった。王族の籍から廃し、国外処分としよう」

明日北の森の屋敷に送る使者に、ウィルバートを王族から除籍し、国外追放にする王命も持たせよう。

ウィルバートは嫁を奪われた上に王族ですらなくなる。

ウィルバートは地団駄を踏んで悔しがるだろうな。奴が苦しむ想像するだけで、顔が綻んでしまう。

「伯父上を王族から除籍してもなんの弊害へいがあもありません! むしろ王家にとってプラスになります! 英断です父上!」

「王兄殿下に使われていた予算は、私たちに回してほしいですわ」

「わははは! そうだな考えておこう」

その時、

「国王陛下! 一大事でございます!」

バルコニーに大臣が駆け込んできた。

「何用だ。今は息子と息子の婚約者とブランチを取っている最中だ」

「それが、ま、魔石が……! 魔石が動かなくなりました!」

大臣の言葉に、血の気が引いた。


☆☆☆☆☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐を誓った亡国の王女は史上初の女帝になる

霜月纏
恋愛
 超大国のブリテギス帝国の隣に位置する王国ティルノーグの第一王女に生まれたフレイア。ある日、神との邂逅で前世を思い出し、自分勝手な神々と賭けをすることに! その賭けの内容とは世界を統一すると言う無理難題で更には賭けに負ければ死ぬというハードモード! しかし勝てば何でも一つだけ願いを叶えるという条件を聞き、フレイアは神を一発殴ることを目標に賭けを受け入れる。そして世界統一のために、まずは自国の内政を改善しようとするのだが…………。 この作品は「小説家になろう」でも掲載されています。 「滅国の王女」の改訂版ですが、人物名、国名などが大きく変更されています。新作としてお楽しみ頂けると幸いです。 誤字脱字がございましたらご指摘下さい! 感想、批評、全てが作品を磨き上げる材料になります! たくさんの感想をお待ちしています!

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...