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第一章
57話「バルコニーでブランチ」国王・サイド
しおりを挟む――国王ワルモンド・クルーゲ・サイド――
「それでは父上、明日にはリーゼロッテは城に来るのですね?」
城のバルコニーで、息子のトレネンと息子の婚約者のデリカと共にブランチを食べていた。
「ああそうだ、今日ウィルバートの元に使者を送った」
手紙を読んだときのウィルバートの反応を想像すると笑いがこみ上げてくる。
長年独り身で暮らして来た男が、快楽を知った頃に新妻を奪われるのだ、さぞかし悔しかろう。
「明日もう一度、ウィルバートの屋敷に使者を送り、リーゼロッテを城に連れてこされる」
使者には、ウィルバートが抵抗するようなら暴力を振るっても構わんと伝えてある。
「助かりますわ、国王陛下」
「これで明日からリーゼロッテをデリカの身代わりとして学園に通わせることができる。デリカは王太子妃教育に集中できるな」
「はい、トレネン様」
余はリーゼロッテを愛人に出来るし、三方丸くおさまるな。
「それにしても父上、今日使者に王命を持たせ伯父上の暮らす北の屋敷にいかせたんですよね? なぜそのとき、無理やりにでもリーゼロッテを連れてこさせなかったのですか?」
「余は情け深い男だ。ウィルバートに、妻との別れの時間を与えてやったのよ」
「伯父上は魔女の呪いをかけられ城を追放された王族の恥です! 情けをかけるだけ無駄です!」
トレネンにはウィルバートが王家の恥で、働きもせずに税金で暮らしている穀潰しに見えるのだろう。
トレネンにはウィルバートが魔石を開発したことも、様々な魔法陣を新しく発明したことも、魔導書や古文書の誤字や計算ミスを修整していることも伝えていないからな。
「俺がデリカと結婚して子を成したら、伯父上の血のスペアとしての役割も終わります! いえ本来なら俺が生まれた時点で、伯父上の血のスペアとしての役割は終わっていたのです! 父上、俺とデリカが結婚したら、伯父上を王族の籍から除籍し、追放処分にしましょう!」
「そうですわ陛下、役立たずの王兄殿下に予算を使うなんてもったいないですわ」
トレネンとデリカの言い分にも一理ある。
ここ数年ウィルバートは新しい魔法陣を開発していない。魔石の数や種類を増やせと命じているのに、ずっと無視している。
ここ数年ウィルバートがやったことと言えば、誰も読まないような古い書物を読みふけり、誤字を報告するのみ。
そろそろウィルバートの切り時かもしれんな。
先代の国王であった父が、『ウィルバートのことは何があっても王族から除籍してはならん。国外追放など以ての外。絶対にウィルバートの機嫌を損ねてはならん!』と言っていた。
父上は甘い人だったから、城から追い出したウィルバートに同情でもしたのだろう。
父はウィルバートが余の代わりに魔女の呪いを受けたことに、うすうす感づいていたからな。
父は気づいていながら余に何も言わなかった。ウィルバートの汚名を注ぐことも、ウィルバートの名誉を回復することも、ウィルバートを城に戻すこともしなかった。
父は余に王位を譲るという遺言を残して亡くなった。それはつまり父は、余の人の上に立つ能力を認めていたということだ。父上はウィルバートより、余の方が可愛かったのだ。
唯一の憂いであったウィルバートの呪いは解けた。魔女にゴブリンにされることはない。
「そうだな、ウィルバートの役目は終わった。王族の籍から廃し、国外処分としよう」
明日北の森の屋敷に送る使者に、ウィルバートを王族から除籍し、国外追放にする王命も持たせよう。
ウィルバートは嫁を奪われた上に王族ですらなくなる。
ウィルバートは地団駄を踏んで悔しがるだろうな。奴が苦しむ想像するだけで、顔が綻んでしまう。
「伯父上を王族から除籍してもなんの弊害もありません! むしろ王家にとってプラスになります! 英断です父上!」
「王兄殿下に使われていた予算は、私たちに回してほしいですわ」
「わははは! そうだな考えておこう」
その時、
「国王陛下! 一大事でございます!」
バルコニーに大臣が駆け込んできた。
「何用だ。今は息子と息子の婚約者とブランチを取っている最中だ」
「それが、ま、魔石が……! 魔石が動かなくなりました!」
大臣の言葉に、血の気が引いた。
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