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第一章

54話「勝負服」ハルト・サイド

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「さてとそれじゃ手始めに、魔石に魔力を流すのをやめようか」

宙に魔法陣を浮かべ、今まで使用していた術式を解除する。これで魔石に僕の魔力は流れない。魔石は魔力を失い、石ころ同然になった。

もちろん僕以外の魔道士が魔石に魔力を流せば、魔石は稼働する。

ただ並の魔術師では、魔石を可動させるのも一苦労だろう。

一つの魔石を動かすのに最低百人の魔術師が必要かな。

そんなことをするなら、井戸から水を汲み、薪を集め火を起こした方が早い。

火と水のルーンを刻んだ魔石だけでなく、魔除けのルーンを刻んだ魔石も使えなくなった。

結界がなくなったから、国内にモンスターが入って来るだろう。

これからは人の手で魔物退治を行わなければならない。

今まで通りに魔石に魔力を込め、結界を作動させようとすると、六万人以上の魔道士を雇う必要がある。

数万人規模で魔道士を雇うなら、魔石を動かすよりも、普通に魔物退治をした方が効率的だ。

王国の魔術師や騎士団だけでは対処し切れないだろう。

これからクルーゲ国は、冒険者や傭兵を雇い入れることになる。

傭兵や冒険者に支払うお金が国庫に残っていればいいけど。

どちらにしても、この国を出る僕には関係のないことだ。

魔石に魔力を流すのを止めた瞬間、体が軽くなった。

国中の魔石に魔力を流す行為は、自分で思っていたより、体に負荷がかかっていたらしい。

「シャインくん、魔道具に貯めておいた五十年分の魔力だけど……」

「もちろん持っていきますよ。これ以上この国の者にハルト様の魔力が使われるのは耐えられませんから」

シャインくんは、僕の言いたいことが分かっていたようだ。

「ああ、頼むよ」

「おまかせください」

僕がシャインくんに尋ねたときには、シャインくんは僕が五十年分の魔力を貯めた魔道具を、アイテムボックスに詰め込んだあとだった。

「さぁ敵陣に乗り込むわよ! みんな戦闘準備はいい!」

一番張り切っているのはアダルギーサだった。

アダルギーサが着ているメイド服が戦闘服に見えるから不思議だ。

「あのねアダルギーサ、僕たちは戦争に行くわじゃ……」

「ちょっと、リーゼロッテとハルトのその格好はなに!? 締まらないわね」

アダルギーサが僕を遮った。

「何っていつもの服だけど……」

僕は白のジュストコール、リーゼロッテは普段着用の淡い水色のドレス。

「そんな格好じゃ敵に舐められちゃうわ! まかせなさい、アタシが二人にぴったりな服をコーディネートしてあげる!」

アダルギーサがパチンと指を鳴らすと、僕の服は漆黒のジュストコールに。

靴が棘がいっぱいついた黒のブーツに。

ドクロのマークのついたシルバーのアクセサリーを付けられ。

腰には豪華なつばのついた細身の短剣が装備されていた。

こういう格好は僕の趣味じゃないんだけどな……。

リーゼロッテの服はフリルやレースがいっぱいついた真っ赤なドレスに変わる。

大きなダイヤモンドがついた、ネックレスとイヤリングが、ドレスに彩りを添えている。

「どう? 気合い入ったでしょう! こういうときは形から入らないとね!」

城を襲撃する魔王になった気分だ。まぁいいか、たまにはこういう格好も。

「魔女様、このドレスちょっと派手ではありませんか?」

リーゼロッテが頬を赤く染める。

「似合ってるわよリーゼロッテ。あなたにはそういうはっきりした色が似合うんだから、自信を持ちなさい」

「はい」

「ほらハルトからも、なんと言ってやりなさいよ」

「えっ……?」

急に振らないでくれ!

「あっ、うん……似合っ……てる。その……か、可愛い……よ。ドッ、ドレスじゃなくて……、君が!」 

リーゼロッテの顔は見れなかったが、なんとか「可愛い」と伝えることができた。

「相変わらずハルトは、ヘタレね。『可愛い』ぐらいリーゼロッテの目を見て言えないの?」

「アダルギーサ様、私はハルト様に……『可愛い』……と言って頂けただげでも、充分幸せです」

リーゼロッテの顔は耳まで赤い。僕に「可愛い」と言われて照れてる?

「ハルト様の装いも、す……素敵です」

「あ、ありがとう」

リーゼロッテに「素敵」だと言われ、心臓がうるさいくらい高鳴っている。

「いつまでやってるの? さっさと城に乗りこまないと日が暮れちゃうわよ!」

「わたくしはハルト様の初々しいお姿を、鑑賞しているだけでも楽しい」

アダルギーサにジト目で睨まれ、シャインくんに生暖かい目で見られた。

僕は女性の服装を褒めたり、女性に服装を褒められたりするのには慣れてないんだよ!


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