上 下
47 / 99
第一章

47話「双子の兄弟」国王・サイド

しおりを挟む




――国王ワルモンド・クルーゲ・サイド――


幼い頃からウィルバートが嫌いだった。

余よりたった数分早く生まれ、第一王子というだけで、奴は何の努力もせずにすべてを手にしていた。(ワルモンドが、ウィルバートが努力してる姿を見てないだけ)

両親の愛情も、王太子の地位も、海の国一の美少女の婚約者も、学年主席の座も、全てなんの苦労もなく手にしていた。(ワルモンドの性格が悪いからみんな逃げていっただけ)

対して私に与えられたのはやつの残りカスのゴミばかり。(被害妄想)

パラパラと本をめくっただけで本の内容を理解し、古文書や魔導書の翻訳ミスを指摘し、効率の良い魔法陣を作り出すウィルバートを、皆が天才とモテはやした。

私だってそれなりに優秀なのに、ウィルバートの双子の弟に生まれたせいで、阿呆扱いされた。(自分でそう思っているだけ、対して優秀じゃない)

憂さ晴らしにウィルバートの名を語って女遊びをした。奴の評判を地の底まで落としてやるために。(陰険)

しかしウィルバートが女遊びをしているという噂を広げても、誰も彼もウィルバートを咎めなかった。

「ウィルバート様は天才なので、多少の破天荒な振る舞いは仕方ない」
「ウィルバート様の天才的な頭脳を、そんな些細なことで失う訳にはいかない」

重臣や研究者は口を揃えてそう言い、ウィルバートの悪い噂をもみ消しにかかった。

ウィルバートの婚約者の海の国の公女に、「ウィルバートは毎日城下に出て町娘と遊んでいる」と伝えたが、

「ウィルバート様はそのような事をする方ではありません」と公女に一蹴された。

そんな時たまたま付き合った女が、町娘に化けた魔女だったのは僥倖ぎょうこうだった。

魔女は俺の名乗ったウィルバートという名と、金髪碧眼の美少年という、二つの手がかりで、本物のウィルバートの居場所を突き止めた。

魔女が余とウィルバートを待ちがえ、本物のウィルバートに呪いをかけたと知ったとき、余は笑いが止まらなかった。

馬鹿な魔女のお陰でやっと余にも運が向いてきた。

当時国王だった父上も、ウィルバートが魔女に呪いをかけられたことは容認できなかったらしい。

父上はウィルバートを廃太子し、北の森にある屋敷に幽閉した。

後は余が立太子し、海の国の公女を余の婚約者にすれば、余の全ての望みが叶うはずだった。

だが余が立太子した時、海の国の公女はウィルバートとの婚約を破棄し、自国に帰っていた。

すぐに海の国に使者を送り、公女に余との婚約を打診したが、公女はすでに自国の有力者の子息と婚約していた。

公女は海の国の王族の血を引いていた。海の国はクルーゲ国以上の大国。

脅しをかけ、公女との婚約を無理やり成立させるわけにもいかない。

海の国の公女との婚約を諦め、自国の貴族の娘と婚約した。

ウィルバートが北の屋敷に幽閉されたあと、奴の部屋を漁っていた。金貨でも隠していないかと、部屋の中を物色していたのだが。

そのとき奴の部屋から、古文書の誤字をまとめた本と、新しい魔法陣を記した本と、ルーン文字が刻まれた魔石を見つけることが出来たのはラッキーだった。

それらの研究成果を、余の名前で発表した。

そして今までウィルバートが発表していた物は、余から盗んだ物だと噂を流した。

余は天才として、人々から褒め称えられ、ウィルバートは他人の研究成果を盗んで発表していた卑劣な男として、世間に認識されていった。

ウィルバートを支持していた重臣や学者は、ハニートラップを仕掛けて城から追い出した。

その後余は高貴な血を引く美しい女性と結婚し、子宝に恵まれた。

トレネンと名付けた第一王子はすくすくと成長し、顔も頭も性格も良く民にも慕われる王太子となった。

全てが順調だった。

一カ月前……。余の前に、二十九年振りに魔女が現れるまでは……。


☆☆☆☆☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...