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第一章
44話「終わらない仕事」王太子・サイド
しおりを挟む――王太子トレネン・サイド――
「殿下、この書類の処理を急ぎでお願いします」
「殿下、昨日締め切りの書類がまだ提出されておりませんが」
「殿下、そんなペースで書類に目を通していたのでは、本日中に仕事が終わりませんよ」
「殿下……」
「殿下……」
「殿下……」
「あーもう、うるさい!」
どいつもこいつも口を開けば仕事仕事仕事……!
こっちは王太子の仕事の量が十倍に増えて困惑しているんだ!
その上、王太子妃の仕事に、二人分の学園の宿題まであるんだぞ! そう簡単に終わるものか!
どの書類もわざと難しい言い回しをしているから分かり難いし……!
適当にサインして提出すると、
「中身をよく確認してから再度ご提出ください」
と言われ再提出を食らう。
学園で下から数えた方が早い成績をとっていたリーゼロッテにも出来た仕事だから、
楽勝だと思っていたのに……なんでこんなに難しいんだ?
「殿下、学園から算術と歴史の宿題が出されております。提出期限は明日ですが終わっておりますか?」
「見れば分かるだろ! 俺は王太子と王太子妃の仕事で手一杯なんだ! 学園の宿題ぐらい家庭教師にやらせておけ!」
宿題に目を通して見たが、さっぱり理解できなかった。
あんな難しい宿題を、俺より成績の悪いリーゼロッテに解ける訳がない。
リーゼロッテは家庭教師を雇い、そいつに宿題を丸投げしていたに違いない。
王太子妃の仕事も、実は誰かにこっそり手伝ってもらっていたのではないかと推測している。
「殿下申し訳ありませんが、それはできかねます」
「なんだと!」
「家庭教師が、宿題を変わりにやって提出することは禁止されております」
「だが、今まで俺の宿題はリーゼロッテがやっていのだぞ? それはいいのか?」
「同学年の婚約者が代わりに宿題をすることは、グレーゾーンとされております」
「グレーゾーン……?」
「学園へは殿下は公務が忙しく、しばらく通えないと伝えておきます。デリカ様の宿題はご本人にやっていただきましょう」
「すまないが、そうしてくれ……」
学園に通えないのは癪だが、学園に通っている余裕がないのは事実だ。公務が終わらないのだから仕方ない。
「なぁ正直に答えろ。本当はリーゼロッテの公務を手伝い、リーゼロッテの代わりに宿題をしていた人間がいるんだろ? 怒らないから連れてこい」
王太子妃の公務を他人に手伝わせるなど言語道断だが、今はそれを断じているときではない。
「そのような方はおりません」
「嘘をつくな! 成績の悪いリーゼロッテに難しい書類の処理ができるわけないだろ! それに、あいつに二人分の宿題をこなせるわけがないんだ! 怒らないからリーゼロッテの仕事を手伝っていたやつを連れてこい!」
俺は困っているんだ! 助けてくれてもいいだろう!
「申し訳ありません、 殿下。そのような者はおりません。いない者を連れて来ることはできません」
なのにこいつらは同じ言葉を繰り返すばかり!
こいつらが口を割らないなら仕方ない。リーゼロッテに直接聞くだけだ!
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