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第一章
43話「魔女と執事」アダルギーサ・サイド
しおりを挟む――アダルギーサ・サイド――
「新妻をほっといて、自分にスリープの魔法をかけて先に眠るとか……デリカシーのかけらもない男ね」
水晶玉に映し出された映像を見ていたら、ため息が出た。これだから童貞は嫌なのよ。
「ハルト様は純粋な方ですから」
ハルト至上主義の執事が、ハルトのフォローをする、いじらしいこと。
「それよりアダルギーサ様、ハルト様の髪の色に変化は?」
「ないわね」
好きで新婚夫婦の寝室を覗き見しているわけでわない。ハルトの寝室を覗いているのには、ちゃんとした理由がある。
執事の話では、ガゼボでリーゼロッテがハルトに膝枕していたらしい。
そのとき夕日に照らされたハルトの髪の色が、茶色から金色に戻っていたという。
だからガゼボの状況を再現しようと、リーゼロッテとハルトを同じベッドで眠るようにしむけ、経過を観察しているのだ。
「ハルトの髪が金髪になったの? あんたの見間違いじゃないの?」
「いえそんなことはありません。確かにあのときハルト様の髪は金色でした」
ハルトの髪が元の色に戻ったということは、呪いが解けかけているのね。
「ハルト様の呪いを解く鍵はお二人が一緒に眠ることだと思ったのですが……他にも条件があるのかもしれません。夕暮れとか、ガゼボとか、膝枕とか」
執事が真剣な顔で思案している。
呪いをかけたアタシは知っている、呪いを解くのに執事がいま言った条件は必要ないと。
二人が触れ合ったまま眠る……これがポイント。といってもこの方法では完全に呪いが解ける訳ではない。、
「アダルギーサ様は呪いの解き方を知っているのでしょう? 何かヒントをくださいませんか」
執事も主の呪いを解くために必死ね。
「そうね私から言えるのは眠っているとき、人は素直になるってことかしら」
素直になれないハルトと、恋愛初心者のリーゼロッテ。
ガゼボで昼寝していたとき、二人の素直な気持ちが溢れ、ハルトの呪いに影響を与えた。
「眠っているとき人は素直になるのがヒントですか? ですが今回はハルト様の体に変化がなかった。お二人の体が触れ合っていないのが問題なのかも……。ならばこれからもお二人に毎晩同じベッドで寝ていただけば、いつか呪いが解けるかも……」
「却下」
「アダルギーサ様、なぜ止めるのですか?」
「水晶に映った二人をよく見てみなさい。ハルトはスリープの魔法で熟睡してるけど、リーゼロッテは眠れなくて苦しんでいるのよ。懸命に羊の数なんか数えて可哀想に……」
寝不足はお肌の大敵なのよ。明日の朝リーゼロッテの目の下にくまができていたらどうしてくれるのよ。
せっかくアタシがプレゼントした入浴剤と化粧水で、リーゼロッテが美しくなって来たところなのに。寝不足が続いてリーゼロッテのお肌がボロボロになったら、いたたまれないもの。
リーゼロッテは磨けば光るダイヤモンドの原石、久しぶりに育て甲斐がある子を見つけたわ。
「二人を同じベッドで眠らせるのは今夜だけよ。いいわね?」
執事は何か言いたそうな顔をしていたが、それ以上は何も言ってこなかった。
執事は、ハルトのためにリーゼロッテを犠牲にするつもりはないようだ。
最もハルトのためにリーゼロッテを犠牲にするような奴には、リーゼロッテを任せておけない。
執事がリーゼロッテの尊厳を踏みにじり、ハルトの呪いを解くために利用したその時は、私も黙っていないわ。
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