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第一章

41話「眠れない夜・1」ハルト・サイド

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――ハルト・サイド――


「シャインくん、なんで今日に限ってパシャマじゃなくてバスローブなの?」

「魔女様、このシュミューズ肌着丈がすこし短すぎませんか?」

「えっ? リーゼロッテがどうして僕の部屋に?」

「ふぇっ!? ハルト様がどうして私の部屋に?」

お風呂から上がったあと、バスローブを羽織り、自室に続く扉を開けると……なぜか膝上十センチのシュミューズをまとったリーゼロッテがいた。

「ここは僕の部屋だよ」

「そんなはずありません、ここは私の部屋です」

「おそらくリーゼロッテはお風呂から上がったあと、魔法で僕の部屋に転移させられたんだ」

「ええっ?!」

こんな芸当ができるのは、アダルギーサ魔女しかいない。

バスローブのポケットに手を入れると、
【初夜がまだ済んでないでしょう? たまには夫婦仲良く一緒のベッドで寝なさい。お節介な魔女より】
と書かれた紙が入っていた。

「まったく、アダルギーサは何を考えているのやら……」

リーゼロッテとセッ、そのまぐわ……いやその……みだらな行為をしても、僕にかけられた呪いが解ける訳じゃないのに。

「どうかしたんですか?」

リーゼロッテが僕の持っている紙を、横から覗き込んできた。

不用意に前かがみにならないでほしい。

リーゼロッテは自分が胸元が大きく開いた服を着ていることを忘れているのか?

それとも僕が子供の姿だから油断しているのか?

中身は四十一歳のおじさんなので、もう少し警戒してほしい。

僕はリーゼロッテから視線を逸し、持っていた紙をぐしゃりと握りつぶした。

僕はリーゼロッテを綺麗な体のまま、他所の国に移住させようと思っていたのに、アダルギーサはなぜ邪魔をしようとするのか?

まぁ、僕がリーゼロッテに手を触れなければ問題ないんだけど。

「なんでもないよ。どこかの魔女の質の悪いイタズラだよ」

「イタズラですか? 私がハルト様のお部屋にいることで、その方のイタズラは成功したのでしょうか?」

「どうだろうね、とりあえずこの部屋を出よう。何か仕掛けがしてあったら面倒だ」

「はい」

扉の取っ手に手を触れると、バチッと音がして指に電流が流れた。

「大丈夫ですか? ハルト様!」

「平気だよ、ちょっと指先がピリッとしただけだから」

何を考えてるんだあの魔女は? サンダー一回分のダメージを受けたぞ。

僕がドアノブに触れたからよかったようなものの、リーゼロッテが触っていたらどうする気だったんだ?!

「リーゼロッテは危ないから、ドアに近づかないで」

「はい」

ドアがだめなら窓から脱出するしかない。用心しながら窓に近づく。

窓をじっくりと観察すると、窓の取っ手に、ドアの取っ手に施されたのと同じ魔法陣が施されていた。

「ダメだ、窓にもドアと同じ魔法陣がしかけられている。どうやら僕たちはこの部屋に閉じ込められたみたいだ」

「ええっ?!」

リーゼロッテが困ったように声を上げる。

僕と同じ部屋で一夜を明かすのは、リーゼロッテにとってそんなに嫌なことなのか? ちょっとだけ傷ついた。

「心配しないで、朝になったら魔女の魔法陣を破るだけの魔力が戻ると思うから、そうすれば部屋から出られるよ」

夜は魔石を使うことが減る。魔石に送る魔力を減らし、魔力を回復することができる。

魔力さえ戻れば魔女のしかけた魔法陣を破るなんて造作もない。

「あっ、朝までハルト様と同じ部屋に……」

リーゼロッテが真っ赤な顔で、シュミューズの裾をぎゅっと握りしめる。

リーゼロッテの初々しい姿に、見ているこちらまで、つられて赤面してしまう。

「あっ、安心して、何もしないから! 僕はソファーで寝るし」

「それなら私がソファーで寝ます」

「女の子をソファーで寝かせる訳にはいかないだろ」

「それなら私だって、子供をソファーで寝かせる訳にはいきません」

僕はリーゼロッテに子供扱いされているのか。恋愛対象として見られていないことは知っていたけど、言葉にされるとちょっと……ショックだ。

「僕は子供じゃ…………ふっ、はっ、はっ、はくしゅん」

「くしゅん」

リーゼロッテとほぼ同じタイミングでくしゃみが出た。

「ハルト様と、なんだか急に寒くなってきましたね」

部屋の温度が急激に下がっている? もしかしてこれもアダルギーサの魔法か?

このままではリーゼロッテが風邪を引いてしまう。

ちらりとベッドを見る。あそこで二人で寝ろということなのか?

「仕方ない二人でベッドを使おう。大丈夫。ベッドは広いからベッドの端と端で寝れば、お互いの体が触れ合うことはないよ」

「は、はい……」

リーゼロッテの頬の色が先程より赤みを増している。こっちまで照れくさくなるからやめてほしい。

「ベッドの周りだけ温かい」

ベッドで眠っている間に、僕らを凍え死にさせる気はないようだ。

「僕と一緒に寝るのは嫌かもしれないけど、一晩だけだから我慢して。アダルギーサにはこんなイタズラをしないように、よく言っておくから」

「私は……ハルト様とでしたら……嫌では」

「えっ?」

聞き間違いかな? リーゼロッテは今「嫌じゃない」といったような気がしたけど? えっ? なにそれどういう意味?

「あの……今の言葉に、ふっ、深い意味はないんです! 忘れてください!」

「分かった……」

子供の姿の僕は男として意識してないから平気って言いたかったのかな?

「はっくしゅん」
「クシュン」

また同時にくしゃみが出た。風呂上がりに薄着でいることを忘れていた。

「寒いから、布団に入ろうか」

「そうですね」

僕はベッドの右端に、リーゼロッテはベッドの左端に寝ることにした。

「…………」

「…………」

ね、眠れない……!

壁時計の音が妙に部屋に響く。

寝ないと魔力は回復しない。魔力が回復しないと、アダルギーサの仕掛けた魔法陣を解除できない。

シーツと枕カバーと布団カバーは毎日シャインくんが変えているけど、オヤジ臭くないだろうか?

リーゼロッテの口から「この掛け布団、加齢臭がします」とか言われたら立ち直れない。

ちらりとリーゼロッテを見ると、スースーと寝息を立てていた。

リーゼロッテは眠れるのか。僕はリーゼロッテに男として認識されてないんだな。

僕だけ緊張して眠れないなんてバカみたいだ。

最終手段、自分にスリープの魔法をかけて眠ろう。

「おやすみリーゼロッテ、スリープ」

僕は小声でスリープの魔法を唱えた。

スリープの魔法の効果で、翌朝までぐっすりと眠ることが出来た。


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