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第一章

32話「甘すぎる紅茶」ハルト・サイド

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――ハルト・サイド――



リーゼロッテが屋敷に来てから二週間、図書室で本を渡してから一週間が経過した。

本を渡してから、リーゼロッテは部屋にこもり本を読みふけっている。

というわけで今日のティータイムも一人だ。

「ハルト様、リーゼロッテ様を本当に外国に移住させるおつもりですか?」

シャインくんがダージリンティーを淹れてくれた。

「そのつもりだよ。リーゼロッテは虐待されていたから実家には帰せない。新しい国で、新しい名前を使い、別人として生きた方がいい。そうすれば親や妹や王族に利用されることもない」

それがリーゼロッテにとって一番いいと分かっている。なのになんでこんなに胸の奥がもやもやするんだろう?

「それでリーゼロッテ様に本を三冊も贈られたのですか?」

「そうだよ、海の国、砂漠の国、雪の国、三カ国とも治安が良いし、政治も安定している、移住するにはうってつけだ」

リーゼロッテは本を受け取ったとき、嬉しそうにほほ笑んでいた。

彼女が僕の意図を汲み取ったんだとしたら、やはり彼女もこの屋敷に永住する気はないのだろう。

誰が好き好んで、魔女に呪いをかけられた四十過ぎの男と同居したがる?

「ハルト様、リーゼロッテ様に本を渡すのに一週間以上かかった理由をお伺いしてもよろしいですか?」

「図書室が広いから、探すのに手間取っただけだよ」

「ハルト様は図書室にある全ての本の位置を正確に把握していると、記憶しておりましが」

「そっ、それは! ほら三冊とも……普段あまり読まない本だったから……」

本当はリーゼロッテに渡した本が、図書室のどの位置にあるのか初めから分かっていた。

分かっていたのに、リーゼロッテに本を渡すのをためらっていた。

「さようでございますか、ところでハルト様」

「何?」

「角砂糖、十二個目でございます」

「えっ?」

シャインくんに言われティーカップに目を向ける。角砂糖を入れたことにより、容量が増えた紅茶がティーカップから溢れそうになっていた。

「あっ、いや……これは……その……。つ、疲れているから、甘いお茶が飲みたくて……」

我ながら苦しい言い訳だ。

「さようでございますか、では代わりの紅茶を淹れる必要ありませんね」

シャインくんのメガネがギラリと光る。

「えっ?」

シャインくんは笑顔で礼をして下がっていった。

残されたのは甘い紅茶と、チョコレートケーキだった。

「甘っ……!」

紅茶に口を付けると、想像を絶する甘さだった。

「紅茶を淹れ直してくれないなんて、もしかしてシャインくん怒ってるのかな?」

アダルギーサがリーゼロッテのことを目にかけているのは知っていた。

まさかシャインくんまで、リーゼロッテに肩入れしてるとは思わなかった。

「リーゼロッテもお茶に誘えばよかったかな?」

ガゼボでお茶会をしたとき、スコーンを美味しそうにほうばっていたリーゼロッテの姿がまぶたの裏に浮かぶ。

「でも……これ以上肩入れすると、別れるのが辛くなる……」

一人きりのティータイムに慣れていたはずなのに、なぜだか今日は一人でいるのが寂しく感じた。

「リーゼロッテが隣国に移住したら、あの花のように綻ぶ笑顔が見れなくなるのか……」

そう思うと心臓が締め付けられたみたいに、苦しくなった。



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