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第一章
21話「ガゼボにて」
しおりを挟む――リーゼロッテ・サイド――
「なっ、何ですか! その理不尽なお話はーー!!」
あまりの理不尽さに、立ち上がって叫んでしまいました。
私の声にびっくりしたのか、ハルト様とシャインさんとエミリーさんが目をぱちくりさせています。
「し、失礼しました。突然大きな声を出してしまって……」
私は着席し、皆さんにお詫びしました。
小鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日が心地よいガゼボ。
シャインさんが淹れてくれたハーブティーのミントの香りが鼻孔をくすぐり、焼き立てのスコーンに、シャインさん特性のクロテッドクリームと苺ジャムの組み合わせが絶妙で、つい食べすぎてしまう。
エミリーさんが用意してくれた、アップルパイとサンドイッチとアイスボックスクッキーもとても美味しい。
なのに……ハルト様のお話を聞いてから、心がざわついています。
天気が良いのでガゼボでブランチを食べながら、ハルト様の昔話を聞くことになったのですが……。
あんな酷い仕打ちをされて、二十九年間汚名を返上することすら許されず、耐えて来たハルト様の人生を考えると、あまりにも不憫で!
「リーゼロッテは僕のために憤慨してくれるの?」
「だってあまりにも不条理で……!」
「そんな風に怒ってくれたのはシャインくんとアダルギーサを除いて、君が初めてだよ。ありがとう」
ハルト様がニコリとほほ笑む。ハルト様の憂いを帯びた儚げな笑顔に、私の胸がキュンと音を立てる。
「あんな話を聞かされたら、誰だって怒ります」
「そうだといいけど……」
ハルト様がハーブティーを一口飲んで、空を見上げる。
ハルト様は今まで私には想像がつかないくらい、苦労されてきたのでしょうね。ハルト様の心境を考えると、胸が苦しくなります。
「ハルト様、お茶のお代わりはいかがですか?」
「ありがとう、シャインくん」
「あの素朴な疑問なんですが、なぜ皆様はウィルバート様のことを【ハルト】様と呼んでいるのですか?」
ハルト様の本名はウィルバート・エックハルト・クルーゲ。ファーストネームではなく、ミドルネームを愛称で呼ぶのは珍しい。
「ウィルバートって名前にいい思い出がなくてね。この屋敷に越して来てからは【ハルト】って読んでもらってるんだ」
そういうことだったのですね。
「と言っても、この屋敷に来てから愛称を呼ばれるほど深く関わった人間は、シャインくんとアダルギーサだけなんだけどね」
おいたわしい。
「あっ、リーゼロッテを入れて三人目かな」
私も数に入れてもらえて嬉しいです。
「私はワルモンドの本名を二十九年間ウィルバートだと思っていたから、ウィルバートって名前を聞くだけで腸が煮えくり返ってしまうのよね」
エミリーさんが鋭い目つきで、拳をバキバキと鳴らしはじめました。
「あのエミリーさん?」
エミリーさんはメイドさんですよね? それにしてはハルト様への口の聞き方と態度が……。
「リーゼロッテに怪しまれるほどボロが出てるよ。潮どきじゃない? そろそろ正体を明かしたら……アダルギーサ」
ハルト様がエミリーさんの顔を見て【アダルギーサ】と呼びました。アダルギーサ? その名前をどこかで聞いたことがあるような?
「あら残念、もう少し美少女メイドの姿で遊びたかったのに」
エミリーさんが指をパチンと鳴らすと、エミリーさんの艶やかな黒髪が、りんごのように真っ赤に染まり。
エミリーさんの身につけていた黒のワンピースと白いエプロンが、大きくスリットの入った真っ赤なドレスに変化しました。
目の前に現れた勝ち気な瞳が印象的な、ナイスバディの美女はいったい、どこのどなた様ですか??
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