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第一章
20話「むかしむかし……」過去回想
しおりを挟むそれは今から二十九年前のお話。
その国には十二歳になる双子の王子がおりました。
兄の名はウィルバート、弟の名はワルモンド。
王子は二人とも黄金のように輝く髪と、サファイアのように美しい青い目を持っており、誰もが振り返る美少年でした。
兄のウィルバートは美しいだけでなく、とても賢く、常人離れした魔力を持っておりました。国王は兄のウィルバートを王太子にしました。
ウィルバートは立太子後、午前中に執務をこなし、午後は王宮の図書室に通い魔導書を読みふけっておりました。
ウィルバートは、一度読んだ本の内容を全て記憶する特殊な能力を持っていました。
それだけでなくウィルバートはありとあらゆる言語に通じ、魔導書の誤字や脱字にすぐに気づき、魔導書に描かれた魔法陣のミスを指摘し、新たに効率の良い魔法陣を作り出す天才でした。
ウィルバートは次々に効率の良い新しい魔法陣を作り出しました。
またウィルバートは魔石にルーンを刻むことに成功。これにより魔力量が少ない者でも、簡単に魔法が使えるようになりました。
ウィルバートは国の魔法技術を、一人で百年進めたと言われている百年に一度、いえ千年に一度の天才でした。
それに比べ弟のワルモンドは、怠け者で、自己愛が強く、女好きで、浮気症のろくでもない男でした。
ワルモンドは国王や王妃に褒められているウィルバートに嫉妬し、憎々しく思っていました。
ワルモンドは家庭教師の目を盗み城を抜け出し、城下町に行き、日替わりで可愛い女の子と遊び回っていました。しかもウィルバートの名前を語ってです。
ワルモンドはウィルバートの名を地に落とそうと必死でした。
ワルモンドの計画は失敗に終わるはずでした、ある女に出会わなければ……。
ウィルバートにとって運が悪かったのは、ワルモンドが遊んでいた女の子の中に、平民の少女に変装した魔女が紛れていたことです。
そしてその魔女が感情的な性格で、うっかり者だったことです。
魔女はワルモンドに十五股をかけられたことを知り激怒!
町娘の変装を解き本来の姿に戻ると、王宮に乗り込み、ワルモンドの名乗った【ウィルバート】という名前を信じ、本物のウィルバートに呪いをかけてしまったのです。
呪いをかけられたウィルバートの黄金色の髪は茶色に変色し、キラキラと青く輝く瞳は緑になってしまいました。
ウィルバートに呪いをかけた魔女は「真実の愛がないと呪いは解けないわ! 一生十二歳の姿のまま過ごすし、呪いが解けないまま死ぬといいわ! 呪いが解けなかった場合、死後あんたの魂は……くに落ちるのよ!」という言葉を残し去っていきました。
魔女がワルモンドとウィルバートを間違えたことに気づくのは、二十九年後のこと。
ウィルバートが城を抜け出し女の子と遊び回った揚げ句、魔女にまで手を出し、魔女を怒らせ呪いをかけられたことを知った国王と王妃は、ウィルバートに失望しました。
ウィルバートは「僕ではない! 僕は何もしていないと!」と否定しましたが、国王夫妻をはじめ、ウィルバートの言葉を信じる者は誰もおりませんでした。
ウィルバートが魔女に呪いをかけられるところを皆が目撃していたことも、ウィルバートには災いしました。
魔女ははっきりと「ウィルバート! よくも十五股もかけてアタシをコケにしてくれたわね!」と口にしていたからです。
ワルモンドがウィルバートの名を語り、城の外で遊んでいたとは誰も考えませんでした。
国王はウィルバートを廃太子し、北の森にある屋敷に幽閉しました。
ワルモンドはウィルバートが失脚した、この機会を上手く利用しました。
ワルモンドは己の犯したすべての悪事をウィルバートになすりつけ、ウィルバートの功績を略奪し自分のものにしたのです。
ワルモンドは声高らかに叫びました「今までウィルバートの名で研究結果が発表されていたのは、ずる賢い兄上が俺の功績を盗んでいたからだ!」と。
人々は「ウィルバート殿下は魔女に呪いをかけられ、廃太子され、幽閉されるような人だ。そのような方なら弟の手柄を盗むぐらい平気でするだろう」と思い、ワルモンドの言葉を鵜呑みにしました。
ワルモンドは王太子に任命され、新しい魔法陣を開発し、魔石にルーン文字を刻むことに成功した天才として、民にもてはやされました。成長したワルモンドは美しい妃を娶り、子宝に恵まれ幸せに暮らしました。
対するウィルバートは、功績をワルモンドに盗まれ、悪事を全て押し付けられ、不名誉な噂まで流されました。
人々はウィルバートを「弟の功績を盗んでいた悪党」として罵り、「女好きが祟り魔女に呪いをかけられ、廃太子され幽閉された間抜け」として笑いものにしました。
ウィルバートは北の森にある屋敷で、友人である執事とともに、寂しく暮らしましたとさ。
――おしまい――
☆☆☆☆☆
※本編はまだまだ続きます。
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