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第一章
18話「自己紹介」ハルト・サイド
しおりを挟む「私が今着ている桃色のドレスは、王兄殿下から贈られたものです」
リーゼロッテの口から出た「王兄殿下から贈られたもの」という言葉に一瞬己の耳を疑った。
僕はリーゼロッテに何も贈ってない。
もしかしてシャインくんが僕の名義で贈ったのかな?
隣に立つシャインくんをちらりと見ると、シャインくんは無言で首を横に振った。
シャインくんでもないとすると残された可能性は……。
リーゼロッテのとなりに立っているアダルギーサが、ドヤ顔でこちらを見ていた。
王兄の名前でリーゼロッテにドレスを贈ったのは、アダルギーサで間違いないようだ。
「お綺麗ですよ、リーゼロッテ様。その桃色のドレスもよくお似合いです」
シャインくんの言葉を聞き、リーゼロッテが顔を輝かせた。
「ありがとうございますシャインさん。私ピンクとか赤とか明るい色のドレスを着るのが夢だったんです」
リーゼロッテがシャインくんを見て、ほがらかに笑う。シャインくんもリーゼロッテにほほ笑みを返す。
なぜだろう? 二人のやり取りを見ていると胸の奥がもやもやする。
リーゼロッテは明るい色のドレスを着るのが夢だったのか……。
シャインくんを王都に行かせたとき、ドレスの一着くらい買ってきて貰えばよかったな。
「シャイン様は及第点、ご主人様は落第点ですね」
アダルギーサが僕に白い目を向ける。
「ぐっ……!」
しょうがないだろ、二十九年も森の中にある屋敷に幽閉されてるんだ。その間、女っ気なんて全然なかったし。僕は女性を褒めるのに慣れてないんだよ。
「あのエミリーさん、王兄殿下はまだお休みなのでしょうか? 私、お屋敷に来てから一度も王兄殿下にお会いしていなくて。王兄殿下にきちんとご挨拶したいのですが……」
リーゼロッテの言葉を聞き、シャインくんとアダルギーサがポカンとしている。僕も言葉を失ってしまった。
「ちょっとハルト、あんたリーゼロッテに自己紹介しなかったの?」
アダルギーサが呆れ顔で僕を見る。メイドの演技はどうしたの? 素が出てるよアダルギーサ。
「そう言えば、自己紹介をしようとしたときにシャインくんが来て、自己紹介が途中になってしまったような……?」
「もう何やってんのよ、とろいわね!」
「とろい?」
アダルギーサの言葉遣いが急に変わったことに、リーゼロッテは戸惑っている。素が出すぎだよアダルギーサ。
「あらいやだ私ったら、ご主人様、リーゼロッテ様にきちんと自己紹介なさってください」
アダルギーサが慌てた様子で取り繕う。
僕は席を立ちリーゼロッテの前まで行った。コホンと咳払いをしてから改めて自己紹介した。
「僕の名前はウィルバート・エックハルト・クルーゲ。現国王ワルモンドの兄であり、この家の当主です」
僕が王族の礼にのっとった挨拶をすると、リーゼロッテは目を白黒させていた。
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