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第一章
12話「リーゼロッテの噂」ハルト・サイド
しおりを挟む――ハルト・サイド――
リーゼロッテにお茶とお菓子を出して、リビングに戻るとどっと疲れが出た。
「疲れた……」
パタリとソファーに横になる。
「ハルト様がご無理をなさるからですよ。お茶とお菓子ならわたくしがリーゼロッテ様のお部屋に届けましたのに」
「そうなんだけど……」
なぜかリーゼロッテとシャインくんが部屋で二人きりになるのは嫌だった。
疲れた体に鞭打って、お茶とお菓子をリーゼロッテの部屋まで届けてしまった。
「そよ風とヒールの呪文を唱えただけなんだけどな……」
まさかこんな初級の魔法を使っただけで、魔力切れを起こすとは思わなかった。
「ハルト様の今の状態では、初級の魔法を使うのも命取りです。国中の魔石に魔力を供給しているのをお忘れですか? もっとご自分の体をいたわってください」
シャインくんに怒られてしまった。
「分かっているんだけどね……あの子を見ていたら放っておけなくて」
門の前にいたリーゼロッテは雨の日に捨てられた子猫みたいな顔をしていた。そんな顔をした少女がいたら、誰だってできる限りのことをしたくなるだろう?
「リーゼロッテ様は美しい方ですね。気立ても良さそうですし、王都での噂とは大違いです」
「シャインくん、噂が全て事実とは限らないよ。誰かが意図的にリーゼロッテの悪い噂を流しているのかも」
先日国王ワルモンドから届いた手紙には、王兄ウィルバートと公爵令嬢リーゼロッテの婚姻が受理されたと記されていた。
国王が王兄を結婚させたがる理由は一つ。魔女が王兄にかけた呪いを解くためだろう。
だが国王は三十年近く呪いにかけられた王兄を放置してきた。国王が今頃になって王兄の呪いを解く気になったのはなぜだ?
王家の使者が国王の蝋印の押された手紙を届けに来た日、シャインくんにリーゼロッテのことを調べさせた。
リーゼロッテ・シムソン、公爵家の長女。十歳のときに王太子トレネンと婚約者した。
王都でのリーゼロッテに関する噂は酷いものだった。
リーゼロッテ・シムソンは男あさりが大好きで、年中男あさりをしている。
リーゼロッテ・シムソンは王太子の婚約者の立場でありながら、貴族や平民の身分を問わず、美形の男と関係を持っている。
リーゼロッテ・シムソンは、学園で下位貴族の令嬢を虐げている。
リーゼロッテ・シムソンは、公爵家で双子の妹のデリカをいじめている。
リーゼロッテ・シムソンは、双子の妹のデリカの手柄は自分のものにし、自分のした失敗はデリカのせいにしている。
シャインくんの話では、皆が口を揃えて同じことを言ったという。
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