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第一章
11話「つかの間の休息」
しおりを挟む「考えていても仕方ありませんね、とりあえず荷解きをしなくては!」
トランクを開けて普段着用のドレスをクローゼットにかけていきます。
広いクローゼットにドレスが三着。いささか寂しい気もしますが、ないよりはましです。
「そういえばこのドレス、王太子殿下に紅茶をかけられたんでした」
クローゼットの横にある大きな姿見を覗き込むと、疲れた顔、ボサボサの髪、荒れた肌、シミのついた古いドレスを着た己の姿が映った。
「門前払いされなかったのが不思議ですね」
今着ているドレスを脱ぎ、新しいドレスに着替えました。
そのとき
――トントントントン――四回ノックの音がして「リーゼロッテ、少しいいかな?」ハルト様の声がしました。
会ったばかりの、しかも年下の少年に呼び捨てにされるのは少々複雑な心境ですが、揉め事を起こしたくないのでスルーすることにします。
「はい、ハルト様」
扉越しに返事をすると「お茶とお菓子を持ってきたんだけど、入ってもいいかな?」ハルト様が入室してもいいか尋ねてきました。
「どうぞ」
扉を開けるとティーポットとパーケーキとサンドイッチの乗ったサービスワゴンを押したハルト様がおりました。
「ハルト様自らお持ちくださったのですか? 執事さんは?」
カートを押しながらハルト様が部屋に入ってくる。
「使用人といえども男性が若い女性の部屋に入って、二人きりになるのはいかがなものかと思ってね」
なるほどこれも王兄殿下のご意向でしょうか? もしかしたら王兄殿下は嫉妬深い方なのかもしれません。
「ハルト様も男性ですが、私と寝室で二人きりになってよろしいのですか?」
入室を許可しておいていまさらですが。
「僕はいいの、リーゼロッテの家族だから」
ハルト様はそう言って、朗らかに微笑まれた。
ハルト様は王兄殿下の隠し子(推測)、ということは私の義理の息子。
「確かに私とハルト様は家族ですね」
家族なら個室で二人きりになっても問題ありませんよね。
ハルト様はニコニコ笑いながら、テーブルにお茶とお菓子を並べていく。
「あのお手伝いを」
「気にしなくていいから、リーゼロッテは座ってて」
ハルト様に促されるまま、私はソファーに腰掛けました。
「疲労回復の効果のあるハーブティーだよ」
ハルト様に淹れて頂いたお茶を飲む。
「美味しいです」
レモングラスとミントの香りが心地よい。
「よかった、パンケーキとサンドイッチにも薬草が入っているからね、疲れが取れるよ」
「ありがとうございます」
こんなにのどかなティータイムを過ごすのはいつ以来でしょう?
王太子殿下の婚約者になる十歳より前? いえ王太子殿下の婚約者になる前から公爵家の長女として厳しい教育を受けていました……そうなると幼少期以来でしょうか?
「どうかしたの?」
「いえ、温かいお茶をいただくのは久しぶりで」
「えっ?」
「いつも飲んでる時間がなくて、気がついたら冷めていましたから」
厳しい王太子妃の教育に明け暮れた、王太子の婚約者時代を思い出します。と言っても今日まで(書類上では昨日まで)王太子の婚約者だったのですが。
「そう、君は苦労したんだね」
向かいの席でお茶をすするハルト様が、妙に大人びて見えました。
「あの、ハルト様……」
「ゆっくり食べて、夕食の時間になったらまた呼びにくるから」
「はい、ありがとうございます」
ハルト様をお部屋の外までお見送りして、扉を閉めた。
「王兄殿下のこと聞くタイミングを逃してしまいました」
王兄殿下には夕食のときにお会いできますよね?
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