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第一章

10話「おひさまの匂い」

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「この部屋を使って」

執事さんにトランクを持ってもらい、案内されたのはお屋敷の二階にある日当たりのよい部屋でした。

別邸の日の当たらない掃除もされてない小部屋に案内されて「お前のようなアバズレにはこの部屋出十分だ!」と言われるかもと不安に思っていたので、普通の部屋でホッとしました。

私のために用意されたお部屋には、天蓋付きのベッドに、猫脚の机と椅子とソファー、白のアンティーククローゼットが並んでいました。とても可愛らしいお部屋です。

掃除も隅々まで行き届いていて、とても居心地が良いです。

「バルコニーもあるからね、好きに使って」

ハルト様が窓を開けると、心地よい風が入ってきました。

「後でお茶とお菓子をお持ちしますね」

執事さんが鞄を丁寧に床に下ろし、穏やかな笑みを浮かべる。

「ありがとうございます」

ハーブティーが飲めるのが楽しみです。

「この家には女性の使用人がいないから、しばらく身の回りのことは自分でしてもらうことになるんだけど……」

ハルト様が申し訳なさそうな顔でおっしゃいました。

「ハルト様、どうかお気遣いなさらないでください。お風呂も一人で入れますし、髪も一人でとかせますし、普段着なら一人で着れますから」

長年両親と使用人に放置されてきたので、身の回りのことはある程度自分でやれる。

「荷物の荷解きなのですが……」

「大丈夫ですよ執事さん、私一人で出来ます」

流石に男性の使用人に、女性用の着替えの入った鞄を開けさせる訳にはいきません。

「御用の際は鈴を鳴らしてください」

「またね」

「はい、また」

お二人が出て行ったのを確認し、ベッドに横になりました。

「おひさまの匂いがするふかふかのベッド! 肌触りの良いシーツ!」

公爵家で私が使っていたベッドより広くてきれいです。公爵家で私が使っていたベッドは、小さくて古くて壊れかけてギシギシと音を立てる粗末なものでした。

「公爵家で私の使っていた部屋より、広くて綺麗!」

幼い頃に使っていた日当たりの良い部屋はデリカに衣装部屋として奪われ、代わりに私にあてがわれたのは、物置として使われていた日当たりの悪い小さな部屋だった。

「ハルト様も執事さんも良い人そうです。お二人と一緒に暮らしている王兄殿下もきっとお優しい方に違いありません。噂などあてになりませんね」

でももし、王兄殿下が王都での私の悪い噂を知らなくて、このように歓迎してくださっているとしたら……。

「王兄殿下が私の悪い噂を知ったら、手のひらを返されてしまうのかしら……」

王都での悪い噂は全て嘘だと、妹のデリカにはめられたのだと、そう説明したら王兄殿下は信じてくださるでしょうか?



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